第41話 深夜の訪問

「どうした? こんな遅い時間に?」

 俺が扉を開けると、大翔がおなかのところで両手をくんで立っていた。


「あの、寝られなくて……」

「なんかあったのか?」

「ううん……」

 大翔は首を小さく横に振ると、俺に抱きついてきた。


「どうしよう……一人になると家族のこと……考えちゃって……心配で……寂しくて……」

 俺は震える声でぽつぽつと語る大翔を抱きしめた。

「……っ」

 大翔の顔が俺の肩に当てられている。肩がじわりと温かく濡れた。

「大翔……」


「僕、健がいるから大丈夫って思ってたけど……。蒼空(そら)も勇気(ゆうき)も、まだ子どもだし……母さんも父さんも……僕がいなかったら、だれが弟たちの面倒を見て、しょくどうのてつだいをするんだろうとか……考えちゃって」

「そうか」


 大翔が俺に回した腕にぎゅっと力を込めた。

「怖いよ、健。僕たち、ずっとここにいるの?」

「……俺には分からない」

 俺は腕の中で大翔のぬくもりを感じ、心臓が激しく脈打つのが分かった。

「もう、寝よう。……心配事は朝考えろって言うだろ?」

「……健、一緒に寝よう?」

 潤んだ目で俺を見つめている大翔。弱っている大翔と何もせず一緒にねむるなんて俺にできるだろうか……。


 俺は大翔から目をそらせて言った。

「部屋に戻れ。今日のお前は、なんか変だ」

 俺は冷たい言葉で大翔と距離をとった。大翔を抱きしめていた腕を離し、ドアを開ける。

「健……怒ってるの?」

「いいや。でも、今日は一人で眠りたい」

「そっか、ごめんね。おやすみ、健」

 大翔は赤い目を細めて、無理に微笑むと自分の部屋に戻っていった。


「……クソッ」

 俺は大翔が出て行った部屋で、ベッドにうつぶせで転がり枕に顔をうずめて深いため息をついた。

「あいつが傷ついてるのに……俺は……」


 大翔の寂しさに付け入ろうとした自分に気づき、言葉にできない嫌悪感にさいなまれた。

「……俺、最低だ……」

 目をつむっても、眠気は訪れない。


 こうして俺たちはそれぞれ眠れない夜を過ごした。


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