第43話 クレーム

 市場できゅうりサンドと玉子サンドを売っていると、知らない男性に声をかけられた。

「おい、この前のパン、いつもよりまずかったぞ」

「申し訳ありませんでした。いつお買い求めいただいたものですか?」


 大翔が頭を下げ、男性に尋ねる。男性は眉間にしわを寄せて答えた。


「おとといだよ。女の子から買った、肉をはさんだパンだ」


「あの……その日は僕たちの店は休んでいたはずなんですけど」

 大翔が悩みながらも返事をする。

「ああ、その日は店を開いていない」

 俺も疑問に思いながら、会話に加わる。


「は? たしかに街はずれの食堂のパンだって宣伝してたぜ?」

 男性は腕を組んで俺たちを睨んでいる。


「!?」

 大翔と俺は顔を見合わせた。


「あのときの嬢ちゃんに聞けば分かるだろ?」

「あの、僕たち二人で店をやってるんですけど……」

 男性は、いら立ったような声で俺たちに言った。

「は? どういうことだ?」


「あの……僕たちもわかりません」


 男性は俺たちから玉子サンドを買い、目の前で食べ始めた。

「おお、ちゃんといつもの味だ。……俺は偽物でも買わされたのか?」

 男性は首をかしげながら去って行った。


「偽物?」

 大翔が不安そうな表情で俺を見つめる。

「だとしたら、放っておけないな……」

 俺たちは持ってきたパンを売った後、一通り市場を歩き回ってみた。


「あ、あれ? あの子もパンを売ってる?」

 耳を澄ましてみると、女の子の声が聞こえた。

「街はずれの食堂のパンです。一つ銅貨10枚です。美味しいですよ」


 俺は少女に近づいて声をかけた。

「一つもらおうか」

「銅貨10枚です」


 俺は銅貨を渡し、パンを買った。

 半分に割り、大翔に渡す。

 二人でパンをかじり、眉をひそめた。


「ぱさぱさで、肉も塩味だけだね……」

「ほかの店よりはうまいかもしれないが……」

 俺たちが渋い顔をして少女を見つめると、少年が少女に駆け寄ってきた。


「あの、何かありましたか?」

 少年が俺たちの顔を見て目を見開いた。

「……!! おい、帰るぞ!!」

 少年は少女の手を引っ張って走り出す。


「待て!」

 俺と大翔は少年たちの後を追った。

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