第27話 バカンスに行こう

「今日も暑いね、健」

「そうだな、大翔」

 俺たちは市場に持っていくための肉そぼろおにぎりと、クッキーとコーヒー牛乳を準備しながら、窓から入ってくる強い光に目を細めた。


「それにしても大翔、クッキーにコーヒー牛乳なんて、売れるかな?」

「どうかな? でも、たまには甘いものも良いんじゃないかと思って」

 大翔は大きな水筒にコーヒー牛乳をいれ、木彫りの器を10個ほどカバンに詰めた。

「あ、クッキーが良い色に焼けてきた!」


 大翔はオーブンからクッキーを取り出した。作ったのは、黒と白の格子模様がかわいらしい、ココアとバニラのボックスクッキーだ。

「じゃあ、健、クッキーが冷めたら五枚ずつ袋に入れてもらえる?」

「分かった」

 俺はちょっと待ってから、冷めたクッキーを小さな布袋に詰めた。


「今日も売れるといいね」

 市場に行く準備が出来て、玄関を出ようとしたとき大翔が言った。

「そうだな」

 俺は重い水筒と、肉そぼろおにぎりが入ったカバンを背負い、笑顔で言った。


 市場に着くと、大翔はカバンを足元に置き、手にクッキーとコーヒー牛乳をもって、大きな声で言った。

「冷たいコーヒー牛乳とクッキーはいかがですか? 肉そぼろおにぎりもありますよ!」

「クッキーと……なんだって?」

 若い男性が大翔に声をかけた。


「コーヒー牛乳です。一口どうぞ」

 大翔はコーヒー牛乳を入れた木のカップを男性に渡した。

「んん? あまくて苦くて……癖になる味だな……。よし、コーヒー牛乳とクッキーをくれ」

「はい、合わせて銅貨20枚です」


「なんだ? 今日は変わったものを売ってるな?」

「コーヒー牛乳とクッキーです。肉そぼろおにぎりもありますよ?」

「じゃあ、両方くれ」

「はい、銅貨40枚です」

 大翔が次々と、コーヒー牛乳とクッキー、肉そぼろおにぎりを売っていく。


 いつもより早い時間に、持ってきた商品を売り切ってしまった。

「大翔、今日は早く終わったな。これからどうする?」

「そうだね、たまにはレンさんのところに行ってみようか」


 俺たちは冒険者ギルドに向かった。

 重いドアを開けると、中から声がした。

「はーい、いらっしゃい! あら? 健くんと大翔くんじゃない?」

「おはようございます」

 大翔が頭を下げる。

「おはよう」

 俺もレンに声をかけた。


「おはよう、二人とも。最近儲かってるらしいじゃない」

「おかげさまで、なんとか」

 大翔ははにかみながらレンに言った。

「でも、はたらいてばかりじゃ疲れちゃうんじゃない?」

「うーん、どうかな」

 俺がそういうと、レンは店に貼ってあるチラシを指さして言った。

「たまには、あなたたちもリゾートで楽しんできたら? お店なんて休んじゃって」

「え?」

 レンの指さしたチラシには、『ウォークの町で楽しもう』と書かれていた。

水着らしい男女のはしゃぐ様子と海の風景が、心をくすぐる。


「バカンスか……いいな」

 俺がつぶやくと、大翔が俺の顔を覗き込んで言った。

「健、行ってみる?」

「そうしようか」

 俺たちの会話を聞いて、レンは

「ウォークの町は、この街を朝一番の馬車で出て、昼頃には着く感じかしら?」


「馬車はどこから出るの?」

 大翔が聞くとレンは笑顔で答えた。

「この町の入り口からよ。馬車代は一人銅貨50枚ってところだと思うわ」

「それじゃ、明日からバカンスに行こう」

 大翔はにっこりと笑って、俺のことを見つめている。

 無邪気な笑顔がかわいいなと思いながら、俺は頷いた。


「ありがとう、レンさん」

「いいえ、バカンス楽しんできてね」

 俺たちは家に帰ると今日の売り上げと、いままでの貯金からいくらかを小さなカバンに詰めた。

「バカンスって、いくらくらいかかるのかな?」

「観光地って、宿も食事も高いんじゃないか?」

「それじゃ、すこし多めに持っていったほうがいいね」

 大翔がお金を少し足した。


「さあ、明日のために今日の営業も頑張ろう!」

「そうだな」

 俺たちは店を開き、お客さんに食事をふるまった。


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