第26話 コーヒー牛乳
薬草の店に入ると、香ばしくて良いにおいがしてきた。
「こんにちは! おばさん、いい匂いがするね」
大翔が店の老婆に声をかけた。
「なんだ? またお前か。……今日は胃薬を作っていたから、その香りだろう」
「胃薬? 見せてほしいな」
大翔が老婆に言うと、老婆は奥から黒っぽい豆を持ってきた。
「これをすりつぶし、煎じて飲み薬にするんだ」
「あれ? これってコーヒーじゃない? ねえ、健」
大翔は老婆の出した炒った黒い豆の匂いを嗅いぎながら言った。
「ん? そうだな、この匂いはコーヒーだな」
俺がそう言うと、大翔は嬉しそうに微笑んで老婆に言った。
「おばさん、この豆をひいたやつ、買いたいんですけど……」
「このマス一杯で、銅貨10枚だ」
「じゃあ、4マス分ください」
大翔は黒い豆の粉を受け取ると、銅貨40枚を老婆に渡した。
「あとは、いつもの香草をください」
「はいよ、全部で銀貨一枚だ」
「はい」
大翔は受け取った薬草と黒い豆の粉をカバンに詰めた。
「健、市場に戻っていい? 牛乳と砂糖を買いたいんだ」
「わかった」
俺たちは市場で牛乳と砂糖を買うと、家に戻った。
家の前には、食事を求める人たちが短い行列を作っていた。
「わ、大変! 食材をしまったら、すぐにお店を開かなきゃ!」
「そうだな」
俺たちは買ってきた荷物をしまい、開店の準備をした。
大翔が料理の下ごしらえを始める。
「大翔、今日のメニューはなんだ?」
「イノシシ肉のミートソーススパゲティと、チャーハンだよ。どちらも銅貨40枚にしようと思う」
「了解」
俺は小さな黒板に、きょうのメニューと値段を書いて、表に出た。
「お待たせしました。そろそろ開店です。本日のメニューはこちらです」
そう言って先頭の客にメニューを書いた黒板を渡した。
「俺、今日はミートソースにしよう」
「俺はチャーハン」
メニューを決め終わったお客さんに、俺は声をかけた。
「メニューが決まったら、次のお客さんにメニュー表をわたしてください」
「はいよ」
メニューが次の人に渡ったのを見届けて、俺は店の入り口のドアを開いた。
「お待たせしました」
お客さんが中のテーブル二つに相席で座り、外のテーブルにもお客さんが座った。
並んでいるおきゃくさんは、とりあえずいなくなった。
俺は注文を聞いて、大翔に伝えた。
「ミートソースが5つで、チャーハンが7つだ。よろしくたのむ!」
「はーい」
厨房から料理をする音が響く。
俺はお客さんに水を出した。
しばらくして料理が出来てきた。俺は注文された順に、お客さんに料理を並べた。
「はい、ミートソースとチャーハンです」
「ありがとう」
「……美味い!」
お客さんが笑顔になる。俺もうれしくなって、笑顔になった。
「健、次、出来たよ」
「おう」
俺たちが食事を出し終わると、一息つく間もなく、つぎのお客さんが外に並んでいた。
「お会計、いいかな?」
「はい、銅貨80枚です」
俺は代金を受け取ると、お辞儀をした。
「ありがとうございました、またお待ちしてます」
空いたテーブルの上を片付けて拭き、次のお客さんを案内する。
「どうぞ」
お昼の時間を過ぎても、お客さんは途切れなかった。
「ごめん、健。もうミートソースもご飯もなくなりそう」
「わかった」
俺は外に出て、並んで待っているお客さんに、今日の営業は終わりだと説明し頭を下げた。
「えー。待ったのになあ」
「もうしわけありません」
「じゃあ、また明日来るよ」
「ありがとうございます、お待ちしています」
俺はお客さんたちが帰ったのを確認してから、店の入り口の看板をCLOSEにした。
「健、これで注文は最後だよね」
「ああ」
俺は最後のチャーハンを店の中のお客さんに出し、厨房に下がった。
最後のお客さんが帰ってから、店の片づけを始めた。
「健、片づけが終わったらいいものがあるよ」
「ん? なにがあるんだ?」
「へへっ、ちょっと待っててね」
俺は片づけを終えて、食堂の椅子に座った。
「お待たせ」
「あれ? これって……」
「うん、甘いコーヒー牛乳! 健、好きでしょ?」
「……ああ」
俺たちは甘いコーヒー牛乳を飲んで、ひと息ついた。
「疲れたな」
「うん」
「美味いな」
「うん」
二人で飲むコーヒー牛乳は甘くて、体に染みるように感じた。
「また、明日も頑張ろうね」
「ああ」
俺たちは明日のために、料理の下ごしらえや食器の補充を始めた。
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