第19話

「おはよう、健」

「ん……おはよう、大翔……」

 俺の腕の中で、大翔がふにゃーと笑っている。俺は赤面してしまったのをごまかすために、勢いよく起き上がった。

「元気だね、健」

「ああ、まあな」

 大翔も俺に続いて起きだした。

「身支度をすませたら、今日市場に持っていくサンドイッチの仕上げをしよう」

 大翔はそう言って、俺の部屋を出て行った。

「……はあ」

 俺はため息をついたあと、あくびをしてから大きく伸びをした。


 冷たい水で顔を洗い、着替えを済ませてキッチンに向かう。

 大翔はすでにこざっぱりとした格好で、エプロンを身に着けてゆで卵をつぶしていた。

「大翔、今日のサンドイッチの具材はなんだ?」

「卵サンドと、肉と青菜を炒めたやつをはさんだ肉野菜サンド」

「……美味そうだな」

 俺も大翔とおそろいのエプロンをつけて、キッチンに並んだ。

「健は朝ごはんの準備をしてくれるかな?」

「分かった」


 大翔が出来上がったサンドイッチの中身と、パンを合わせているわきで俺は米を炊き始めてから、この前手に入れた角うさぎの肉を焼いた。味付けは塩コショウだけとシンプルだ。

 角ウサギのソテーのわきに、森で摘んであった生野菜をそえて、朝食ができた。

「大翔、そっちはどうだ?」

「うん、もうすぐ完成」

「そっか。じゃあ、ご飯とスープをよそうぞ」

 炊きあがったばかりのご飯の匂いを嗅ぎながら、それぞれの食器にごはんとスープをよそう。出来上がった朝食を、食堂に並べる。お茶を入れ終わったところで、大翔が言った。

「サンドイッチ完成!」

「じゃあ、食事にしようか」


 俺たちは角ウサギのソテーを食べながら、ご飯をかみしめた。

「でも、森にお米が出来てるなんて思わなかったね、健」

「ああ、稲穂を見つけたときは嬉しかった。やっぱり、米は食べたいよな」

 俺たちは湯気の上がるごはんに、角ウサギのソテーの汁をかけて、パクパクと食べた。

「アイラ、ご飯は美味しい?」

「この白いの? もぐもぐしてると甘くなるのね……しょっぱいものと一緒に食べると、とっても美味しい!」

 俺たちが料理を終えた頃に起きだしたアイラも、食堂でいっしょに朝ごはんを食べている。


「ごちそうさまでした!」

 大翔が一番先に食べ終わった。

「ごちそうさま」

 俺も大翔に続いて、食事を終えた。

「美味しかった!」

 アイラはお皿をなめながら、言った。

「アイラちゃん、お行儀悪いよ?」

 大翔が笑いながらアイラに言った。アイラはえへへ、と笑って大翔の肩に乗った。


「さあ、食事の片づけをしたら市場に出かけよう」

 俺は大翔に聞いた。

「サンドイッチの値段はどうする?」

「一個、銅貨20枚にしようと思ってる。今日は卵サンドと、肉野菜サンドを15個ずつ作ったから、全部売れたら銅貨600枚……銀貨にすると6枚だね」

 大翔が不安そうに言った。

「売れるといいな」

「うん」


 頷く大翔を見て、俺は微笑んだ。俺のことをアイラがじっと見ているので、俺はアイラに尋ねた。

「アイラも市場に行くか?」

「うん」

 俺たちは食事の片づけを手早く終わらせて、エプロンを脱ぎ、外出の用意をした。

 サンドイッチの入った大きなかごを大翔が持とうとしたが、俺がわきから手を出して、ひょいと持ち上げてしまった。

「じゃあ、行こう」

「うん、ありがとう健」

「行こう! 行こう!」


 俺たちは家を出て市場に向かった。

 まだ、冷たさの残る朝の空気を吸いながら、草むらに囲まれた細い道を歩く。

町に入ると、人のざわめきが聞こえてきた。

「市場についたね」

「ああ」

 俺たちは空いている場所をみつけ、敷物を置いてかごを広げた。

「よお! 早いな!」

「ジーンさん」

 大翔がぱっと顔を上げた。

「おはようございます」

 俺もジーンを見て、笑顔を浮かべた。


「早速商売開始か? 頑張れよ」

「はい」

「ありがとうございます」

 ジーンが去ってから、俺たちは呼び込みを始めた。

「美味しいサンドイッチです。たまご味と、肉野菜味があります! 一個銅貨20枚です!」

 大翔の呼びかけに、何人かが反応した。

「おお! サンドイッチじゃないか! 前に一度食べたけど美味かったよ! 二個もらおう」

「え? そんなにうまいのか? じゃあ、俺も一個もらおう」

「ありがとうございます。僕たち、町はずれで食堂もやってるので、そちらにもぜひ来てみてください!」

 大翔は食堂の宣伝も忘れなかった。お客さんの反応は悪くなかった。

「へー」

「そりゃ、面白そうだな」


 お客さんは次々と現れた。俺たちは前よりも大きめに作ったサンドイッチをどんどん売った。

「大翔、お客さんが沢山来てくれたな」

「うん、よかった」

 俺たちが最後のサンドイッチを売り終わった後、しらない男性とドワーフの女性に声をかけられた。


「あの、すいません」

「はい、何でしょう?」

 細身の男性がもじもじしていると、ドワーフの女性が思い切った様子で俺たちに尋ねた。

「あの、町はずれの食堂って、結婚式もできますか?」

「え!?」

 俺と大翔は顔を見合わせた。

「どういうことですか?」

 大翔がドワーフの女性に尋ねると、細身の男性と彼女は顔を見合わせてから、声をそろえて言った。


「実は、私たちの結婚式をしてほしいんです」

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