第20話

「……話を聞いていただけますか?」

 細身の男性が、大翔に話しかけた。

「はい、えっと……」

 大翔がとまどっていると、細身の男性は言った。

「私はホークと申します。こちらはアンです」

「アンと申します」

 ドワーフの女性がお辞儀をした。


「はじめまして、ホークさん、アンさん。僕は大翔です。こちらは……」

「健だ」

「よろしくおねがいします、大翔さん、健さん」

「よろしくお願いします。ところで、込み入った話なら、もう少し落ち着いた場所で話しませんか?」

 ホークとアンは顔を見合わせてから頷いた。

「そうですね。では、そこの食堂にはいりましょうか?」


 ホークは昔、俺たちが入った食堂を指さした。

「わかりました」

 俺たちは食堂に入り、ジュースを頼んだ。

「で、結婚式を俺たちの食堂で開きたいというのは、どういうことだ?」

「実は、私たちは見ての通りドワーフと人間という種族を超えた愛で結ばれています。お互いに、一緒に生きていきたいと思い、結婚式を挙げようとしたのですが……」

 そこまでホークが言うと、アンが続けた。


「ドワーフの神殿では人間を受け入れることはできないと言われ、人間の教会ではドワーフに祝福を与えることはできないと言われました……」

 俺はふと疑問に思って、ホークとアンに尋ねた。

「どうして、俺たちの食堂で結婚式を挙げようと思ったんだ?」

「それは、冒険者ギルドでレンさんに相談したら、良いところがあるって紹介されて……」

 俺と大翔は見つめあってから、そういうことか、と同時に頷いた。


「健、僕はホークさんとアンさんの結婚式のお手伝いをしたいと思うんだけど……健はどう思う?」

「俺も……反対する理由はないな」

 俺は、種族が違うからと言って周囲に祝福されない結婚を上げようとしている二人と、自分の立場を無意識に照らし合わせていた。


「それじゃあ、引き受けてくださるんですか!?」

 ホークとアンの目が明るく輝いた。

「ああ、引き受けよう。式はいつ行う予定なんだ? それと参加者は何人の予定だ? 予算は?」

 俺がホークに尋ねると、ホークは笑顔で答えた。

「式は来週末に行えればうれしいです。参加者は僕たちの両親と僕たちなので、合わせて6人の予定です。予算はできれば銀貨二枚以内でお願いしたいです」

「ドレスや礼服は?」

 大翔がたずねるとアンが答えた。


「それはこちらで用意します」

「それなら、食事と場所の用意をすれば大丈夫だと考えていいか?」

「はい!」

 俺と大翔はホークたちの返事を聞いて頷いた。

「出してほしい料理はあるか?」

 俺が聞くと、ホークとアンは首を横に振った。

「特にありません」

 ホークが言った後に、アンが付け足した。

「ホークはイノシシの肉が好きなので、使っていただけると嬉しいです」

「わかりました」

 大翔は頷いてから、立ち上がって手を差し出した。

「良い式になるよう、がんばります」


「ありがとうございます。よろしくおねがいします」

 ホークは差し出された大翔の手をとり、握手した。

「それでは、式の当日に町はずれの宿屋に来てください」

「はい」

 ホークとアンは手をつないで、食堂を出て行った。

「じゃあ、俺たちも結婚式の準備をするか」

「結婚式と言ったらウエディングケーキだよね。あとは白い花をたくさん飾りたいな……」

 大翔は楽しそうにそう言うと、俺に向かって質問した。


「健も、いつか結婚したいの?」

「俺は……」

 大翔とずっと一緒にいたいなんていえるはずもなく、息を吐いて目をつむった。

「俺のことは良いだろう? 大翔はどうなんだ?」

「僕は、健と一緒にいられる今の時間が楽しいから、今は考えられないかな」

 俺はさらりと言う大翔に、うまく答えられず、ごまかすように速足で歩きだした。

「あ、待ってよ、健」

 大翔は会計を済ませて、俺の後についてきた。


「結婚式なんて、はじめてだからうまくできるか心配だな……」

 大翔のつぶやきを聞いて、俺は大翔の頭をぐしゃぐしゃとなでた。

「まあ、最善を尽くそうぜ」


 俺たちは、家に帰ってホークとアンの結婚式の準備について話し合うことにした。

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