第9話

「食べ物を買うのはあとでいいかな」

 大翔が俺に尋ねる。俺はうなずいた。

「そうだな」

「じゃあ、服から買おう!」

 大翔が町の地図を手にしているのに気付いた。


「大翔、地図なんていつ手に入れたんだ?」

「レンさんがくれたんだよ」

「そうか」

 俺たちは地図を見て洋服屋を探した。しかし見つからなかった。しかたなく、防具屋に行くことにした。


「こんにちは」

「はいよ」

 恰幅のいいおじさんが、俺たちを迎えた。

「あの、服ってありますか?」

「あるよ。左側の隅にいくつか並んでいるだろう?」

 おじさんの言う通り、売り場の左隅に行くといくつかの服が飾ってあった。

「試着してもいいですか?」

 俺がたずねると、おじさんは愛想のいい声で答えた。


「ああ、どうぞ」

 おじさんの手が示した部屋の中央に、試着室があった。

 俺たちはそれぞれ、好みに近い服を選んで着替えた。

「なんか、変な感じ」 

 大翔は茶色っぽいシャツと黒いワイドパンツを着ていた。


「着心地は悪くないな」

 俺はダークブルーのシャツと白いパンツを選んだ。

「まあ、これでいいかな。あとは下着といくつかシャツとパンツを買えばいいよね」

「そうだな、大翔。たりなければ、また買いにくればいいだろう」

 俺たちは支払いを済ませた。


「このまま着て行っていいですか?」

 大翔がたずねると、みせのおじさんは笑顔で言った。

「じゃあ、来ていた服は袋に入れておくよ」

 お金を渡して、商品を受け取った。

「なんか、やっとこの世界になじんできたかな」

 大翔はくすぐったいような笑顔で俺に言った。

「そうだな」


 俺たちは新しい服で、町を歩いた。もう俺たちの服装を見て振り返る人はいない。

「次は本屋に行こう、健」

「ああ」

 本屋に着くと、大翔は女店主に話しかけていた。

「えっと、食べられる野草と果物の本をください」

「この辺の本に、森に生えている草や、木のみの薬効や味なんかが書いてあるよ」

「じゃあ、この二冊を買います」

「はい。まいど」


 大翔は前から本が好きだったから、本屋に行きたがるのは不思議ではなかった。

けれど、食べられる野草関係の本を買うとは思わなかった。

「大翔、それ、何に使うんだ?」

「健、ぼくたちも森に入って食べられる草や木のみを取りに行こうと思って」

「え?」

「市場で買えるものは、鮮度とかいまいちだけど結構いい値段じゃない? 自分たちで食料を手に入れられれば、安くて新鮮な食材が使えるでしょう?」


 意外としっかりしている大翔に、俺は感嘆の声を上げそうになった。

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