第13話 オアフ島第二次攻撃

 第二次攻撃隊は一航戦ならびに二航戦の「赤城」と「加賀」それに「蒼龍」と「飛龍」からそれぞれ零戦一二機に一式艦攻が一八機。

 五航戦ならびに六航戦の「翔鶴」と「瑞鶴」それに「神鶴」と「天鶴」からそれぞれ一式艦攻が二七機の合わせて二二八機からなる。


 一航戦と二航戦は四発の二五番徹甲爆弾を抱え敵艦の撃滅にあたる。

 また、六航戦は四発の二五番陸用爆弾乃至一六発の六番陸用爆弾でドックやクレーンをはじめとした港湾施設を目標としている。

 残る五航戦は全機が陸用爆弾それに焼夷弾の混載で、もっぱら石油タンクに的を絞ってその破壊と炎上を目的としていた。


 第二次攻撃隊指揮官の嶋崎少佐はオアフ島を目にする前に多くの情報を受け取っていた。

 その中で最も大きなものは第一次攻撃隊が奇襲に成功したことだろう。

 太平洋方面の最重要拠点であるはずのオアフ島に電探が配備されていないことはまず考えられないのだが、しかし米軍の反撃は微弱で戦闘機や爆撃機の多くは飛行場でその羽を休めていたという。

 それと、第一次攻撃隊の進撃過程で同島北方に未知の航空基地が発見された。

 しかし、こちらは「神鶴」と「天鶴」の零戦隊が攻撃を仕掛け、機銃掃射によって多数の戦闘機や爆撃機を離陸前に撃破したとのことだった。


 一方、真珠湾のほうは阿鼻叫喚の様相を呈しているという。

 同湾攻撃の切り札とも言うべき雷撃隊は多数の魚雷を米戦艦の横腹に突き込んだらしい。

 このことで二隻の戦艦が転覆、さらに三隻の戦艦を大破着底に追い込むという大戦果を挙げている。

 また、雷撃隊指揮官の村田少佐とその僚機が狙い撃った油槽船は爆発炎上、周囲に油火災を惹起させ、その炎と煙は至近にあった戦艦を吞み込んでしまったという。

 その凄まじさは嶋崎少佐もすでに目にしている。

 オアフ島がまだ水平線の向こうにあるのにもかかわらず、同島上空に立ち上る煙が視認できたからだ。

 そのおかげで第二次攻撃隊は難なくオアフ島上空に到達することが出来た。


 「全機突撃せよ。所定の手順に従って各隊ともに攻撃にあたれ」


 オアフ島の稜線が見えてきたところで嶋崎少佐は突撃命令を下す。

 二二八機の集団が航空戦隊あるいは母艦ごとに分離し、与えられた目標に対してその機首を向ける。


 嶋崎少佐が直率する「瑞鶴」隊の二七機の一式艦攻はそれぞれ二発の二五番陸用爆弾とそれに六発の六番焼夷弾を搭載している。

 それら機体が目標とするのはフォード島南東にある石油タンク群だ。

 二五番で石油タンクを爆砕し、着火しにくい性質を持つ重油を焼夷弾をもって強制的に燃え上がらせるのだ。

 「翔鶴」隊のほうもまた「瑞鶴」隊と同様の装備で他の石油タンク群を叩く。


 猛煙によって真珠湾周辺の視界は非常に悪かった。

 緊密な編隊を維持していたらかえって危険だ。


 「編隊を散開しろ。攻撃は全機一斉ではなく各中隊ごとに行う。

 まず第二中隊、続いて第三中隊とし、最後が第一中隊だ」


 嶋崎少佐の命令を受け、真っ先に石見大尉率いる第二中隊の九機が石油タンク群の上空に到達する。

 そして、そのまま緩やかな角度で降下に遷移する。

 第二中隊が実施するのは緩降下爆撃だ。

 本来、高い命中精度を得ようと思えば急降下爆撃が適している。

 その命中率は従来の水平爆撃の比ではない。

 しかし、一式艦攻はダイブブレーキを搭載していないために急降下爆撃が出来ない。

 もちろん、機体を強化しダイブブレーキを装備させれば一式艦攻も急降下爆撃が出来るようになるかもしれない。

 しかし、そうすれば機体重量が激増し、燃費や機動性が大きく損なわれる。

 そのうえ発艦距離が伸びる一方で着艦が難しい機体となってしまうことは避けられない。


 それと、名前から連想されるイメージとは裏腹に、低空で引き起こしを必要とする急降下爆撃は、ダイブブレーキを利かせながら低速で目標上空数百メートルまで肉薄するという極めて危険な戦技でもあった。

 高い命中率と引き換えに爆撃途中で撃ち墜とされる危険もまた極めて高かったのだ。

 このため、搭乗員保護を最優先と考える帝国海軍において急降下爆撃はすでに過去の戦技となっている。

 それに、帝国海軍はすでに誘導噴進爆弾の開発に成功しているから、急降下爆撃にこだわる必要も無かった。


 降下する第二中隊に対して地上から対空砲火が撃ち上げられる。

 しかし、それは散発的で、しかも煙に邪魔をされているせいか精度も荒いものだった。

 第二中隊は一機も損なうことなく爆撃を成功させる。

 一八発の二五番陸用爆弾が石油タンクを砕き割り、五四発の六番焼夷弾が漏れ出した重油を炙りはじめる。

 さらに第三中隊と第一中隊も第二中隊に続けとばかりに爆弾や焼夷弾を石油タンクに叩き込んでいった。

 相次ぐ鉄と火薬の打撃に対し、強靭な装甲を持たない石油タンクが耐えられる道理は無かった。


 その頃には他の航空隊も攻撃を終了している。

 一航戦それに二航戦はこちらもまた緩降下爆撃で艦艇を攻撃している。

 最も攻撃を集中されたのは乾ドックに入渠していた戦艦「ペンシルバニア」だった。

 本来、ドックの攻撃は六航戦の担当なのだが、しかしそこに艦艇があれば自分たちのマターだとばかりに次々に二五番を投下していった。


 この攻撃で「ペンシルバニア」は主砲塔を除いた艦上構造物を盛大に破壊されてしまう。

 また、同艦と一緒に入渠していた駆逐艦「カッシン」と「ダウンズ」はもろにとばっちりを食らう結果となり、「ペンシルバニア」に命中し損なった二五番を次々に浴びて完全破壊されてしまった。


 そこへ五航戦の一式艦攻が破壊した石油タンクから漏れ出した重油が炎の奔流となって真珠湾に流れ込んでくる。

 こうなってしまっては艦艇や将兵の救助にあたる消防艇や救難艇も己の身を守ることで精いっぱいだ。


 油槽船や戦艦から漏れ出した重油で自家中毒のごとくその身を焼かれていた艦艇群は、さらに自分たちを動かすために石油タンクに貯蔵されていた同じく燃え盛る重油によって包囲されてしまう。

 この地獄の包囲網から脱出に成功した艦艇は数えるほどでしかなかった。

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