epilogue 永遠に夢を見たい
最高魔術研究院。この世界でそう呼称される場所に、男は足を踏み入れた。男の名はアステル。レグルスもミレアも、いや、この世界の誰もがその存在を知らぬ者だった。男はレグルスとミレアに近寄りつつ、言う。
「全ての魔を消したこの世界は崩壊する。オレが手を下すまでもなかったか……」
レグルスは虚ろな瞳をようやっと男へ向けた。
(誰だ……?)
だがその問に答える者は誰もいない。この場で魔術の研究に携わる者は皆、彼がその手で斬ってしまった。
「この階層はじき終わる……次の階層が消滅するまでだが、移住するか? それとも、この世界を元に戻して生き長らえるか?」
男はレグルスに意味の分からない質問を投げつけてきた。一体彼は何を言っているのか。だが、レグルスの選択肢は自ずと一つに限られていたのだった。
「俺が望んだ結末だ。ミレアも今度こそきちんと死にたいと言っている」
レグルスは後者に関してノーを突きつけた。男は更に質問を重ねる。
「お前は生きたいか?」
「生きたい……前みたいに、もうミレアだけでも生きて欲しいとは言わない……俺は、ミレアと共に生きたいんだ」
男の言う〝階層〟がなんなのかはわからない。だが、二人で世界の姿を見てみたいと思った。
レグルスだけではなく。
ミレアだけでもなく。
共に生きることで見えてくるものを見てみたいと。そう、切に願ったのだった。
「……ならば階層を移住する必要がある。その娘は移動に堪えられないだろう。刀を貸せ」
レグルスは、不思議と男の言う通りに従った。刀を受け取った男はその切っ先に手を翳し、刀身から出た靄のような光をミレアの右目へと送り込んでゆく。靄は刀に吸われた魂の集まりが、結晶となって視覚化されたもの。男はそれを刀から解放することで、ミレアの右目の修復を図ったのだ。
「レ……グル、ス……」
ミレアが目を覚ます。相変わらず顔の右半分は血でベットリと濡れてはいたが、既に疵痕はどこにも見当たらなかった。
「アンタ、一体……?」
「今、世界の最上階で〝世界たち〟を支配しているのはオレだろうからな……これくらいなら、造作はない」
「……? だって今、アンタはここに……」
「……もう行ったほうが良い。その娘も連れて。ここももうすぐ〝終わる〟」
訳も解らないまま、レグルス達は転送された。ここが〝次の階層〟とやらなのだろうか。たった今までレグルスたちのいた世界とは打って変わって、蒼天に緑海の広がる場所だった。ミレアなど、キョロキョロと物珍しそうに辺りを見回している。
「夢を、見ているようだ」
そう、それは儚き仮初めの人形たちの夢。見果てぬ夢は、不老不死などでは決してなかった。ただ一瞬の生を生き抜いてみたいと。その夢は、もう一度だけ青年と少女に機会を与えられたことで、叶うのかもしれない。
「次の世界が崩落するまで、だが」
アステルはそう呟き、自身も次の目的の階層世界へと転送するのであった。
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