第7惑星(4)イオでの稽古

「まあ、この辺で良いかな♪」


 コウが呟く。俺は怪訝な顔をして尋ねる。


「……本当にここで良いのか?」


「うん♪」


「そ、そうか……それにしても、何をする気なんだ?」


「あのギャルたちにあって、アタシに足りないものを補わないといけないなって思ってさ」


「へえ……」


「なによ、そのリアクション?」


「そういう真面目さがあったんだな……」


「……マネージャー、アタシのことなんだと思っていたの?」


 コウがジト目で見つめてくる。俺は慌てて謝る。


「す、すまん、すまん、冗談だ」


「まあ、いいけどさ……」


「ところで足りないものとは?」


「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたね」


「いや、聞くだろ、この流れなら」


「あの白黒双子にあって、アタシに足りないもの……軽やかなステップワークだよ!」


「なるほど、ステップワークか……」


「ステップはダンス全般に通じるからね。それ以外にも……」


 俺はあえてそれ以外という部分には触れず、話を続ける。


「コウもなかなかのステップを見せているとは思うんだが……」


「それは確かにそうだね」


「認めるのか」


 どうやら謙遜という言葉は持ち合わせていないらしい。


「でもね、なんと言えば良いのかな……アタシのはこう……直線的過ぎるんだよね」


「直線的?」


「そう、どうしても突っ走りがちというかね……」


「自覚あったんだな……」


「え?」


「い、いや、なんでもない。そう言われるとそうかもしれないな……」


「あの二人は、直線はもちろん、曲線も描けるというか、さらに言うならば、点で動くことも出来るというか……」


「多彩に動けるっていうことだな」


「そう!」


 コウは俺の顔をビシっと指差す。


「つまり、動きのバリエーションを増やしたいと……」


「うん、それによってダンスの幅も広がるし、それ以外の場面でも活きるからね」


 俺はまたしてもそれ以外云々には触れないで、話を続ける。


「それで? どうやって増やすんだ?」


「自分の中にあるイメージを膨らませて、それに沿って動いてみるって感じかな♪」


「イメージを膨らませる……」


「そう、視野を広く持つって言うのかな?」


「まあ、言わんとしていることは何となくだが分かるけれども……」


「それじゃあ、ガンガン行こうかな~?」


「ちょ、ちょっと待て!」


「ん? なによ~? 今テンションが良い感じに上がってきていたのに~」


 コウが不満気な顔を見せる。


「こ、ここで動き回るつもりか⁉」


「え? そうだけど?」


 コウが、それが何か?といった風に両手を広げる。


「な、なにもこんな溶岩だらけの中で動かなくても良いだろう⁉」


「いや~だって、このイオって衛星は太陽系の中でも、もっとも火山活動が活発な星だし……溶岩ないところの方が珍しいって~」


「だ、だからといってだな! 足を踏み外したら、火傷じゃ済まないぞ!」


「稽古はこれくらいスリルがあった方が良いじゃん♪」


 恐怖心がバグっていやがる……ダメだこいつ、なんとかしないと……。


「こ、こういう稽古も悪くないとは思うが……!」


「うん?」


「コウの場合は、長所を伸ばした方が良いんじゃないか⁉」


「長所?」


「さっき自分で言っていたように、直線的な、良くも悪くもまっすぐなところだ!」


「いや、悪かったらダメじゃん……」


「その辺りはアユミとケイがフォローしてくれる!」


「二人に頼りっきりっていうのもね~」


「そんなことは無い! 二人の方こそ、コウには助けられている! その若干イッちゃっているところ……じゃなくて、天真爛漫な部分とか! かくいう俺もその一人だ! 助けられているというか、心惹かれている!」


「は、恥ずかしいことを大声で言ってくれるね……」


 コウが照れ臭そうにする。もう一押しか?


「だから、別の方法でダンスを磨こう!」


「分かったよ……」


 良かった、こちらがドン引きするような稽古は考え直してくれたようだ。

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