第8惑星(1)ライブ配信

                  8


 小型であるが派手な宇宙船がケイたちの宇宙船の近くに降り立ち、その中からネラとビアンカが現れる。


「どこにいるかと思えば、イオにいるとはね……」


「一日早いけど、タスマっち、迎えに来たよ~♪」


「……」


「どったの?」


「そちらの『ジェメッレ=アンジェラ』のマネージャーになるというお話でしたが……お受けすることはできません!」


 俺の後ろにギャラクシーフェアリーズの三人が並ぶ。ビアンカがキョトンとする。


「あらら……」


「なに? ひょっとしてまだ諦めていないの、アンタたち……」


「そ、そうです!」


 ネラの問いにアユミが答える。ビアンカが両手を広げる。


「諦めの悪い女は嫌われるよ~?」


「『諦めたらそこで試合終了』という言い伝えもあるしね……」


「……試合ってなによ?」


「さあ?」


「さ、さあ?って……」


 コウの言葉にビアンカがズッコケそうになる。ケイが口を開く。


「アホは放っておいて……」


「いや、アホって」


「ジェメッレ=アンジェラ、勝負をしましょう」


「勝負?」


「ええ」


「アンジェラに対しての申し出ってことは……アイドル裏の顔としてってことね……?」


「そういうことよ」


 ネラの問いにケイが頷く。裏の顔ってアイドルってことか、表が賞金稼ぎか? 相変わらずややこしい子たちだな。


「どうする? ネラ?」


「う~ん……」


 ビアンカの問いにネラが首を捻る。ケイが笑みを浮かべながら尋ねる。


「まさか……逃げるの?」


「え?」


「まあ、それならそれで構わないわ。ねえ、コウ?」


「うん、ただアタシってば口が軽いからな~」


「へえ、例えばどうするの?」


「『ズンドコベロンチョ』が『ギャラクシーフェアリーズ』に日和って逃げたって話をあちこちに言いふらしちゃうかもな~」


「ジェメッレ=アンジェラよ! 全然違うっしょ!」


 ビアンカが声を上げる。ケイが小首を傾げる。


「どうする?」


「いいじゃない! そのケンカ、買ってやるし!」


「ビアンカ……」


「あっ……」


 ネラの声にビアンカが我に返る。ネラがため息をつきながら答える。


「はあ……まあ、いいわ。誘いにあえて乗ってあげようじゃないの」


「……よろしいんですね?」


「よろしいですわよ」


 アユミの問いにネラがおどけながら頷く。


「それでは、勝負と参りましょう……」


「ちょっと待って」


「え?」


 話を進めようとしたアユミをネラが制し、自らの端末を操作する。平原に簡易ではあるが、ステージが出現する。


「3D投影ステージよ、ここで互いにパフォーマンスを披露しあおうじゃない」


「ふむ……面白いわね」


 ケイが頷く。


「それじゃあ、まずは準備と行きましょうか」


「ええ」


 二組がお互いに自らの宇宙船へと戻り、ライブ衣装に着替えてきた。当たり前かもしれないが本格的だな……。ネラが口を開く。


「着替えたわね。それじゃあ各自、次の段階よ」


「ええ、分かったわ」


「ん?」


 各自が端末を取り出してポチポチとし始めたぞ。な、何をしているんだ?


「急で申し訳ないけど、ライブ配信をやるから見に来てね~♪っと……」


「無料だよ~ファンの皆、集合~♪っと……」


 あ、ああ、ライブ配信の宣伝をしているのか……え? ライブ配信?


「アユミ、投稿した?」


「えっと、木星の映えスポット付きの投稿を上げた方が良いですよね?」


「いいわよ、この際映えは考えなくて……コウはどう?」


「うお~このネコちゃん、かわいい~」


「何の動画を見てるのよ、アンタは!」


「……ちょっと、真面目にやってる?」


「……申し訳ないわ」


 ネラに対し、ケイが素直に頭を下げる。ビアンカが口を開く。


「ネラ、大分視聴者が集まってきたよ」


「うん……これくらいで良いかしらね」


 俺も自身の端末を取り出し、確認する。あった、これがライブ配信だな……って、もうこんなに視聴者数が⁉ ちょっと呟いて、この短時間でこれだけの数を集めるとは……今更ながら二組ともすごい人気、そして宣伝力だな……いや、ギャラクシーフェアリーズはあまり貢献していないかな?


「それじゃあネラ……」


「ええ、勝敗はネット投票で決めましょう。今から十分間のパフォーマンスが良かった方に投票してもらって、票数が多かった方が勝ちよ。それじゃあ、スタート!」


「!」


 ジェメッレ=アンジェラの二人が息の合ったキレのいいダンスを見せる。動画のチャット欄も大騒ぎだ。早くも多数の票が二人に投じられている。


「ううっ……」


 アユミが早くも及び腰だ。大丈夫か? ネラが声を上げる。


「突っ立っているだけ⁉ せめて土下座でもしたらいいんじゃないの?」


「ははっ、ネラ、キツいね、でもそれやったらマジウケるかも~♪」


 ビアンカが笑う。ケイが唇を噛む。


「くっ……」


「三人とも!」


「‼」


「コンビネーションでは叶わない! 君たちのバラバラな個性で勝負だ!」


 気が付いたら俺は叫んでいた。


「マ、マネージャーさん……」


「バラバラ……分かったわ!」


「⁉」


 三人がダンスを始める。はっきり言ってバラバラだ。しかし、良く言えば三者三様の個性がよく見える。これはこれで味があって良いかもしれない。俺は端末を確認する。


「おおっ⁉ ギャラクシーフェアリーズが追い上げて……ほぼ同じペースで票が伸びているぞ! もうすぐ十分経過だ!」


「どうなった⁉」


「マネージャー⁉」


 ビアンカとケイが尋ねてくる。俺は口を開く。


「……全くの同数だ!」


「そ、そんな⁉」


「し、信じられない……」


「~♪ 珍しいこともあるもんだね~」


 ネラが愕然とし、アユミが唖然として、コウが口笛を鳴らす。俺が恐る恐る尋ねる。


「ど、どうする……? このままだとドローだが……」


「配信を止めて頂戴……」


「え?」


「早く!」


「あ、ああっ!」


 ネラの声に驚きながら、俺は配信を止める。ネラがゆっくりと口を開く。


「……アンタたちとドローとかあり得ないから……」


「は?」


「『ジェメッレ=ディアボロ』と『ギャラクシーマーダーズ』……お互いの賞金稼ぎ表の顔でケリをつけようじゃないの…」


「上等よ……」


 ネラとケイが銃を構える。どっちかというと裏の顔だと思うんだが。ややこしいな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る