第6惑星(2)家庭的な黒ギャル
「な、何を言っているのよ!」
「ちょうど探していたのよ、男性マネージャーを」
「なかなか定着しないからね~」
「ふん、よほどのブラックな職場環境なんじゃないの?」
ケイがそれを言うのかと思ったが、俺は空気を読んで黙っておくことにする。
「まあ、このメンズ気に入ったから、うちらがもらうから」
「そこんとこよろしく~」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「え~?」
「え~じゃないわよ! こっちの台詞よ!」
「……優れた人材にはより良い環境が与えられるべきなんだよ~」
「そうそう、適材適所ってやつ」
「さすがビアンカ、良いこと言うじゃん」
「アタシ、良いことしか言わないし」
「あはっ、ウケる~♪」
黒ギャルと白ギャル、ネラとビアンカが笑い合っている。楽しそうだ。
「……つまり、こちらが劣っているとでも言いたいわけ?」
ケイが怒りを押し殺しながら問う。ネラが笑う。
「え~今それ聞く? だって、ライブの権利、ウチらにまんまと取られたじゃん」
「!」
「賞金稼ぎとしても詰めが甘いし……むしろアンタら良いとこなくない?」
「‼」
「っていうことで……名前なんてーの?」
「え? お、俺?」
「そう」
「タスマ=ドラキンだ」
「タスマっちはウチらのマネージャーってことで……」
「はい、そうですかとでも言うと思った⁉」
ケイが大声を上げる。ビアンカが呟く。
「うお、ビビった……」
「なに~おこなの?」
「激おこよ! 黙って聞いていれば好き放題言ってくれちゃって!」
「いや~でもウチの言っていたこと事実じゃね? どうよ、ビアンカ?」
「概ね同意~」
ビアンカが頷く。ケイが叫ぶ。
「事実かどうか確かめようじゃない!」
「え?」
「決闘よ!」
「え~」
ネラが苦笑する。
「なによ、その反応は⁉」
「いや~今日はデュエル気分じゃないっていうか……」
なんだよ、デュエル気分って。ケイが笑みを浮かべる。
「……逃げるの? 案外チキンね」
「……は?」
「気分じゃないっていうのならしょうがないわね。でも、私はともかく、この子なんかとくに口が軽いから……」
ケイがコウを指し示す。コウが笑う。
「いなかっぺ=ズタボロが勝負から逃げたって言いふらしちゃうかもね~♪」
「ジェメッレ=ディアボロだし……」
ネラの目つきが変わる。ケイが首を傾げながら問う。
「あら? もしかして気分になった?」
「……食後の運動にはちょうど良いし」
ネラが前に一歩進み出る。
「じゃあ、そっちの広場で遊びましょうか」
「上等……」
ケイとネラがバーベキュースペースに隣接する広場に移動する。
「……と、止めなくて良いのか?」
俺はコウに尋ねる。
「う~ん、面白そうだから良いんじゃない?」
「お、面白そうって……」
アユミが口を開く。
「こうなったケイさんを止めるのは難しいです」
「そ、そうなのか……」
「ただ……」
「ただ?」
「こうなった原因はマネージャーさんですから、マネージャーさんが『ケンカをやめて! 俺の為に争わないで!』と言えば、ワンチャン止められるかも……」
「ワンチャンかよ……」
なんで悲劇のヒロインムーブしなくちゃいけないんだよ。そんなことを考えていたら、ケイとネラが向かいあい、構える。駄目だ、もう間に合わない。ケイが呟く。
「安心して、死なない程度には手加減してあげるから」
「……弱い犬ほどよく吠えるってことわざ知ってる?」
「! 前言撤回!」
ケイが素早くネラの懐に入り、取り出したナイフを突き刺そうとする。
「ふん!」
「なっ⁉」
ケイを含め、俺たちも驚いた。ネラがどこからともなくフライパンを取り出し、ケイのナイフを防いでみせたからである。ネラが笑みを浮かべながら呟く。
「ウチ、結構家庭的なんだよね~料理も結構得意だし」
「それはそれは……見かけによらないわね!」
「ほっ! はっ!」
ケイがナイフの攻撃を繰り出すが、ネラがフライパンを器用に使ってそれを防ぐ。
「ちぃ!」
「あれれ~そんなもん?」
ネラがこれでもかとばかりに小首を傾げる。
「くっ!」
「……一言良い?」
「はっ⁉」
「……ザッコw」
「~! 舐めるな!」
「うん⁉」
ケイの足元から大きな曲がった木が生え、それを利用してケイは一瞬でネラの背後へと回り込む。アユミが叫ぶ。
「木星出身のケイさんならではの特殊能力!」
「もらった!」
ケイが逆さまの状態になりながら、取り出したボーガンを構える。
「……良いこと教えてあげる」
「なっ⁉」
ネラの体が伸び、あっという間にケイの懐に入る。
「ウチ、金星出身、これはその特殊能力ね」
ネラがフライパンを振りかざす。
「しまっ……!」
「遅いし!」
「がはっ!」
ネラが振り下ろしたフライパンを喰らい、ケイは地面に叩きつけられ、動かなくなる。
「ああ、安心して、死なないように手加減してあげたから……って、聞こえてないか」
体を元に戻したネラがケイを見下しながら笑う。
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