第6惑星(3)暴力的な白ギャル

「ケイさん!」


 アユミがケイのもとに急いで駆け寄る。


「さて、勝負はついたよね……ん?」


 ネラの前にコウが立ちはだかる。俺は心配そうに声をかける。


「コ、コウ……」


「なに? なんか文句あんの?」


「……いいや、ないよ♪」


 コウの顔色とは裏腹の明るい声色を聴いて、ネラは拍子抜けしたようであった。


「ふん……どいてくれる?」


 ネラはコウを押し退けて、バーベキュースペースに戻ろうとする。しかし……。


「……」


「ちょっと! どきなさいよ!」


 コウが一歩も動かないことに、ネラは苛立ったように声を上げる。コウはそんなネラの様子を観察しながらゆっくりと口を開く。


「楽勝感出してるけど、実際はギリギリじゃん」


「……あん?」


「そんなに消耗しちゃってさ、紙一重だったんじゃない?」


「……なにが言いたいのよ?」


 ネラがコウを睨みつける。


「つまり……」


「つまり?」


「ザッコwと煽った相手とほぼ互角、同レベルだったっていうこと♪」


「はあ⁉ 勝ったのはウチだから!」


「ネラ、少し落ち着くし……」


 興奮するネラをビアンカがなだめようとする。コウが畳みかける。


「デュエルがどう転ぶか分からなかった。結果次第では……」


「結果次第では……?」


「やめな、ネラ、こいつの言葉に耳を貸すな」


「クッソザッコwになっていた可能性もあるね♪」


「~~! お望み通り、ケンカ、買ってあげるわよ!」


「おお~そうこなくっちゃ♪」


「広場に出なよ!」


 ネラが再び、広場にコウを誘う。ビアンカはため息交じりでネラに話しかける。


「ネラ……」


「なによ」


「疲れているし、頭に血が上っているし、少し休めし」


「!」


 ネラがうつ伏せに倒れる。ビアンカがコウの方に振り返る。


「なんだかデュエル気分じゃなくなったみたい」


「気まぐれだな~」


「代わりにアタシとどう?」


「……どっちでも良いよ♪」


 コウはビアンカの提案を受け入れる。


「話が分かる子で良かった……」


「……潰すのが早いか遅いかの違いだから♪」


「! 言ってくれるじゃないの……」


 ここまでどこか余裕を見せていたビアンカの表情が変わる。


「ふふっ、怒ったかな? 白ギャルさん……」


 俺は改めて心配そうに声をかける。


「コ、コウ……お前なあ……」


「大丈夫、マネージャーをあいつらに渡さないよ」


 そう言って、コウは広場に歩き出す。


「コウ……」


「ああなったコウさんも止めるのも難しいです……」


「アユミ、ケイはどうだ?」


「少し気を失っていただけです」


「さすがにタフだな……ん?」


 気が付くと、広場でコウとビアンカが向かい合って、構えを取っている。このままでは間に合わない。二人の戦いの火ぶたが切って落とされる。


「せい!」


 コウがあっという間に距離を詰める。俺とアユミは感心する。


「すごいスピードだ!」


「さすがの推進力です……」


「ふん!」


「おっと⁉」


 コウだけでなく、俺たちも驚いた、ビアンカがとこからか取り出した巨大なハサミを使って反撃してきたからである。コウは後退を余儀なくされる。ビアンカが笑う。


「ふ~ん、反応もなかなかだね―」


「なにそれ……?」


「あ、切っ先は丸くしてあるから安心して。まあ、挟まれるとそれなりに痛いけど……」


「痛いんじゃん」


「まあ、何事も経験だし」


 ビアンカがハサミをカチカチさせながら笑う。コウが苦笑する。


「白ギャルさん……大人しそうでなかなか良い趣味していらっしゃる……」


「良いこと教えてあげる。これが『ギャップ萌え』って奴だし」


「ほとんどの連中は萌える前にドン引きする……よね!」


「ぐっ!」


 隙を突いた、コウの鋭いパンチがビアンカのボディを何度か襲う。俺が声を上げる。


「やったか⁉」


「いや、コウさんの表情、手ごたえが無さそうです!」


 アユミの言葉通り、コウの表情は険しい。ビアンカが笑う。


「どうしたの? まさかそれで終わり?」


「! これで決める!」


 一旦、ビアンカとの距離を取ったコウは凄まじい加速力でビアンカに突っ込む。足裏からは火が噴き出している。アユミが叫ぶ。


「火星生まれのコウさんならではの特殊能力!」


「喰らいな! ⁉」


 コウはいつのまにか取り出した槍をビアンカに突き立てようとするが、槍は弾かれてしまう。ビアンカが苦笑しながら呟く。


「今のより、さっきの連打の方が効いたかな……」


「! くっ! 馬鹿にして!」


 槍を投げ捨てたコウは先程以上にパンチとキックの激しいラッシュをビアンカに浴びせる。足裏のブーストもあり、特にキックは破壊力が増しているはずなのだが、効いている様子がみられない。見ていたアユミが戸惑う。


「マ、マネージャーさん、あれはわたしの気のせいですか……?」


「い、いや、気のせいじゃないぞ……」


 そう、ビアンカの体がどんどんと薄く広がっていっているのだ。コウが気づいたときには、自らの倍以上の大きさになっていた。


「こ、これは……」


「アタシも金星出身、これはその特殊能力……」


「くっ!」


「もう遅い!」


「がはっ!」


 ビアンカが体を横に倒す。コウは避け切れず、下敷きになってしまう。


「単純で良かったよ……まさかこっちの思惑通りに攻撃してくれるとはね……」


 ビアンカは体を元に戻し、淡々と呟く。コウは仰向けにぐったりとしている。


「そんな、ケイさん、コウさんまで……」


 アユミが呆然とする。

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