第5惑星(4)エウロパ逆襲

「いや~マネージャー、お手柄だったよ」


「まあ、それほどでも……あるかもな⁉」


「はははっ!」


「はっはっは!」


 コウと俺は高らかに笑い合う。


「……まだ終わっていないわよ」


「なんだよ、ケイちゃん、水を差すね~」


「事実を言ったまでよ」


 銃の手入れをしながらケイが呟く。俺が尋ねる。


「まだテロリストたちは残っているのか?」


「……アユミ」


「はい、残党がエウロパに残っている、または集結しているという情報が寄せられています」


「エウロパ……」


「エウロパは木星の第2衛星です。『ガリレオ衛星』と呼ばれる木星の四大衛星の中ではもっとも小さい衛星です」


 アユミがいつものように説明をしてくれる。


「もっとも小さいのか」


「太陽系の衛星では6番目の大きさですね、月よりわずかに小さいです」


「なるほど……」


 これまで月の大きさというものをあまり気にしたことがないから正直ピンとこないのだが、とりあえず頷いておくことにする。コウが笑う。


「しかし、ここにきて一番小さい衛星に集まるとはね~」


「裏をかいたつもりなのでしょうけど……私たちからは逃れられないわ」


「今回はなにか作戦は?」


 アユミがケイに問う。ケイが俺に視線を向ける。


「なにかある? マネージャー」


「い、いや……」


 俺は首を振る。そうそう上手い作戦が思いつくはずもない。大体マネージャーの職務範囲内なのか、作戦立案って?


「……そういうわけで、奴らとのスピード勝負よ」


「まあ、その方が分かりやすくて良いね♪」


「アユミ、テロリストが潜伏してそうなポイントは割り出せた?」


「ええ、この地点かと……」


 アユミはエウロパの地図を表示させ、ある地点を指し示す。ケイの顔がわずかに曇る。


「……」


「ケイさん? どうかされましたか?」


「……なんでもないわ、到着次第、一気に決めるわよ」


「は、はい……」


「今回もアタシとケイちゃんがかき回し役?」


「いいえ、小細工無しで一気に決めるわ」


「オッケ~♪」


 ケイの言葉にコウが頷く。やや間を置いて、アユミが告げる。


「まもなく着陸です」


「各自準備を……!」


 宇宙船が着陸し、ケイたちが飛び出す。向かった先はなんらかの採掘施設のようなものであった。ケイが無意識的に呟く。


「まさか、またここに帰ってくるとはね……」


「え? あ、ご両親が携わっていた計画の……」


「! 余計なことは言わないでいいから」


「す、すまん……」


 俺はケイに謝る。アユミが声を上げる。


「テロリストたちが迎撃に出て来ます!」


「アユミ、分身!」


「はい!」


「⁉」


 9体に分身したアユミを見て、テロリストたちは動揺したようだ。ケイが叫ぶ。


「はっ!」


「!」


 ケイが足に木を生やして、テロリストたちが築き上げたであろうバリケードを軽々と飛び越え、斜め後方から銃撃を加える。小規模ではあるが、爆発が起こり、バリケードはいとも簡単に崩れる。ケイが間髪入れずに指示を出す。


「後は目の前に見える管制ビルが奴らの根城よ! コウ、勢いに任せて突っ込んで!」


「よしきた!」


「‼」


 燃え盛る炎の中を突っ切るようにコウが勢いよく突っ込み、ビルの中へと侵入する。ケイが続けて指示する。


「マネージャー、コウの後に続いて援護! 私はテュロンに乗ってビルの外壁を伝っていく! アユミは分身したまま、ビル周辺の警戒を!」


「お、おう!」


「了解しました!」


 俺は戸惑いながらもバギーを突っ込ませ、ビルにたどり着く。頭上や顔の脇を銃弾が何度も掠めたようだが、今はそれを気にしている場合ではない。マネージャーって大変なんだな。


「エレベーター前を固めているね!」


 コウがテロリストたちと銃撃戦を繰り広げている。俺が声をかける。


「大丈夫か⁉」


「大丈夫じゃないけど……マネージャー、適当でいいから向こうに乱射して!」


 コウが自分の銃を俺に投げ渡す。


「ええ⁉ 当たらないぞ⁉」


「かく乱になればそれで良いよ!」


「ええい、ままよ!」


 俺は即席の二丁拳銃を披露するが、一丁の銃を扱うときでもへっぴり腰なのだ、それが倍になったら、足腰がふらついてしょうがない。これでは当たるはずがない。


「上出来♪」


「……‼」


 俺の予想外の行動に面食らったテロリストたちはコウの急接近への対応が遅れる。


「おらあっ!」


「……!」


 コウの攻撃で、エレベーター前を守っていたテロリストたちは静かになった。コウは宇宙服を着たテロリストたちのタグを手際よく回収する。俺は尋ねる。


「……前から思っていたんだが、それは何をやっているんだ?」


「どいつを仕留めたかって証拠集めだよ♪ 賞金に関係するからね♪」


「ああ、そうか……」


 郷里の遺族に遺品でも送ってやるのかと思ったが、この子たちがそんなタマじゃないということを今更ながら思い出すのであった。まあ、テロリストに余計な情けは無用だが。


「さて、エレベーター前を大事に守っていたってことは……そういうことだよね?」


「え?」


「鈍いな~マネージャー、最上階にボスがいるってことだよ」


「そ、そうか……しかし、連中も待ち構えているんじゃないか?」


「そこを壁伝いで上ってきたケイちゃんが窓から襲いかかるって狙いだよ♪」


「な、なるほど……」


「というわけで、最上階にレッツゴー♪」


 コウがエレベーターに乗り込み、パネルを操作する。俺が叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待った!」


「え?」


「……おい、誰の襲撃だ! 何人いる⁉」


「お、恐らく『ギャラクシーマーダーズ』かと! 人数は四人と一匹!」


「な、そ、その程度なら迎え撃ってやる!」


「落ち着いて下さい、ボス! 今は脱出して再起を図るときです!」


「へ~マネージャーの読みが当たったよ♪」


「なっ⁉」


 なんとなくエレベーターを降下させてみるとこれが当たったようだ。白菜に手足の生えた異星人たちが右往左往している。コウが頷く。


「なるほど、地下通路から脱出しようって腹積もりか……そうはさせないよ!」


「くっ! 我ら崇高なる『白菜集団』の野望はこんなところで挫けさせてなるものか!」


「崇高なる……ね、物は言いようだ!」


「うおおっ!」


 足元から火を放って、猛ダッシュで突っ込んだコウを何人かの白菜が身を挺して防ぐ。


「ちっ!」


「ふ、ふん、ボスである私がやられなければ、まだ再起は叶う! 残念だったな、ハイエナの賞金稼ぎども! 貴様らはここで終わりだ!」


「なに⁉」


「私が出た途端にこのフロアごと爆発する! お前らはエウロパの氷の中に埋まるのだ!」


「くっ……」


「……そんなセコイこと言わないでさ」


「むっ⁉」


「建物ごとドカーンと言っちゃおうよ」


「なっ⁉ き。貴様らは⁉」


 白菜のボスの視線を追うと、これまで、カリストやガニメデで見かけた女子高生の制服チックな恰好をした褐色の女の子と色白の女の子が並んで立っている。


「そんじゃ、ビアンカ、よろしく~」


「あいよ~ネラ、ポチッとな」


「なっ‼」


 ビアンカと呼ばれた色白の女の子がスイッチを押すと、フロアは大爆発に見舞われた。凄い勢いの爆風が起こり、俺はその場に身を屈めるのが精一杯だった。建物が派手に崩れ、その破片が自分たちに降りかかってくるのが見えた。次の瞬間、俺の視界は真っ暗になった。


「は!」


 気が付くと、俺はベッドの上だった。アユミが声をかけてくる。


「マネージャーさん! 良かった……」


「あ、ああ……な、なにがどうなったんだ?」


 俺はベッドの脇に立っていたケイに尋ねる。ケイがモニターに向かって顎をしゃくる。


「やつらが採掘施設ごと爆発しやがったのよ……」


「やつら……? ああ⁉」


「ど~も~! 皆さん、『ジェメッレ=アンジェラ』のライブにようこそ!」


「ようこそおいでくださいました!」


 モニターにはあの二人組の女の子が映っていた。


「改めて、自己紹介させていただきます! まずはウチ、色黒ですが心は純白乙女、ネラ=チェルキオで~す♪」


「は~い、こちら、色白ですが心は腹黒親父、ビアンカ=チェルキオで~す♪」


「うおおおっ!」


 モニターから大歓声が聞こえてくる。俺は愕然とする。


「ア、アイドルだったのか!」


「あれも世を忍ぶ仮の姿よ……」


「ええっ⁉」


「こいつらの本業も賞金稼ぎ兼殺し屋、『ジェメッレ=ディアボロ』よ」


「そ、そうなのか……」


「『双子の天使』ならぬ、『双子の悪魔』よ」


「そ、そうだったのか……はっ!」


「どうかした?」


「コウは⁉」


「ん~なに?」


 コウが隣のベッドで胡坐をかいてモニターを眺めている。


「よ、良かった……無事だったか」


 安心した俺は視線を落とす。


「無事っていうか、こいつらに助けてもらったようなもんだよ……」


「え?」


 俺が再び視線を向けると、コウはモニターの二人組を指差す。


「……出し抜かれるんならまだしも、お情けをかけられるとはね~」


「お、お情け……」


「この借りはいずれ返すよ、ねえ、ケイちゃん?」


「当然よ、ライブの権利もかっさらわれたからね……」


 コウの問いに答えるケイの声色には明らかに怒気が含まれている。アユミが話を変える。


「ま、まあ、ひとまず無事で良かったじゃないですか!」


「そ、そうだな! アユミの言う通りだ!」


「今はライブを見て勉強させてもらいましょう!」


「ああ、それも大事なことだ!」


「……続いての曲です。『白黒ついたらアリヴェデルチ!』! 負けた方々さようなら!」


「どこの誰かさんとは言いませんが!」


「ふん!」


 ケイがモニターを切り、怒りを抑えた声で呟く。


「あの双子……今に見てなさい」

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