第5惑星(3)ガニメデ奇襲

「くっ! やられた!」


 ケイが操縦席をガンと叩く。アユミが苦々しく呟く。


「カリストのテロリスト鎮圧の功……持っていかれてしまいましたね」


「まさか爆弾でド派手に吹っ飛ばすとはね~」


 コウが苦笑する。


「あの黒ギャルの女が、君らのライバルか?」


「正確に言えば、女たちね……」


「たち? 複数いるのか?」


「……」


 俺の問いに皆無言だ。まあ、あれだけの集団に殴り込むんだ。まさかたった一人ということはないだろうな。俺は自分で勝手に納得する。しばらくの沈黙の後でケイが口を開く。


「アユミ……」


「はい、次の目的地に向かいます」


「次?」


「ええ、ガニメデです」


「ガニ股?」


「ガニメデよ……」


 ケイが俺を睨みつけてくる。場を和ませようと思ったが失敗だ。俺は慌てて話題を変える。


「こ、これまた大きい星だな」


「アユミ、説明を……」


「はい。ガニメデは木星の第三衛星で、太陽系では最大の衛星です。天体としても、太陽系の中で9番目の大きさに数えられます」


「これまた身を潜めるには絶好の場所だよね~♪」


 モニターを眺めながら、コウが呟く。俺はケイに尋ねる。


「ここにもテロリストが?」


「ええ、ここも拠点の一つよ。次は他の連中に先んじてここを潰す……」


「さ、先んじて?」


「そうよ」


「っていうことは場所の特定が出来てないんじゃないか?」


「おおよそは出来ているわ」


「おおよそって」


「その辺の情報精査はアユミがやってくれているからさ♪」


 コウが俺に向かってウインクする。


「し、しかしだな……」


「アユミ……どうかしら?」


 ケイがアユミに問う。しばらくの間モニターとにらめっこだったアユミが顔を上げる。


「……この三ヶ所に絞られました」


 アユミがモニターにガニメデの地図を表示する。三つの点が赤く点滅する。


「……ケイちゃん、どう思う?」


「……今考えているわ」


 コウの問いにケイは顎をさすりながら答える。コウが笑いながら言う。


「三手に別れて三点同時急襲する~?」


「き、危険すぎる!」


「ははっ、冗談だって、マネージャー」


 この子たちの場合、冗談とは思えないのが恐ろしい……。ケイが口を開く。


「アユミ、この中で一番向かうのが困難な地点は?」


「え? そうですね……ここです、便宜上A点とした地点」


「残りのB点とC点はどちらが向かうのが簡単かしら?」


「えっと……C点ですね」


 アユミはある地点を指し示す。ケイが頷く。


「よし、そこに向かうわ」


「ケイちゃん、その心は?」


 コウがわざとらしく両手を広げて尋ねる。ケイが答える。


「……向かうのが困難だということは出入りするのも簡単じゃないってことよ。つまり、何かあっても逃げたりするのが難しいということ……」


「なるほど、いかにもって場所より、ここに⁉って場所に陣取っているって可能性ね……」


「一つの賭けだけど……」


「良いね、乗った。アユミは?」


「わたしもそれで良いかと思います」


「ではC点に近いところに着陸出来るようにするわよ」


「了解。タイミング等、調整します……完了しました」


「は、早いな」


 ケイとアユミのやりとりに俺は感嘆とする。コウが笑みを浮かべる。


「ここからはスピード勝負だからね~♪」


「アンタもなにかしなさいよ」


「お二人の腕を信頼しているからね~」


「まったく……」


 コウの答えにケイが頭を抑える。やや間があってアユミが冷静に告げる。


「……まもなく着陸です」


「ポイントのズレは?」


「ほぼありません。前回同様、着陸次第急襲することが出来ます」


「それは結構……」


 アユミの言葉に頷きながらケイが自らの銃を確認する。


「あ、あのさ!」


「……なに?」


 声を上げた俺に対し、ケイが視線を向ける。


「一つ提案があるんだけど……」


 ガニメデにいくつかある居住区。その内一つの居住区から少し離れたところにかつての宇宙港があった。老朽化したため、打ち捨てられたのである。そこにある建物の一室で一人の女子高生の制服チックな恰好をした色白の女の子が笑いながら呟く。


「……宇宙船のトラブルとか正直拍子抜け……まあ、メンドイからいいけど」


 その女の子はスイッチをポチっと押す。


「!」


 旧宇宙港のほとんどが爆破され、敷地の中央にある管制タワーだけが残る。女の子が建物の窓からそれを見て不敵な笑みを浮かべる。


「さてと……あのタワーを制圧すれば終わりね……」


「……それには及ばないわ」


「⁉」


 建物の通信パネルから声がする。見てみると、管制タワーからの通信であった。


「その声は……『ギャラクシーバーガー』?」


「『ギャラクシーマーダーズ』よ、誰がファストフード店よ」


「生意気そうな声は知っている……ケイ=ハイジャね?」


「私のことをご存知だとは光栄だわ」


「まさかとは思うけど、管制タワーを?」


「そのまさかよ、私たちが制圧したわ。ここら辺の賞金は私たちが頂きね」


「……宇宙船のトラブルで着陸に手間取っているように見せたのは罠?」


「ええ、カリストでは貴女の相方にまんまと出し抜かれたから、その仕返しよ」


「ウザ……」


「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくわ」


「……次はこうはいかないから。ごきげんよう」


「ごきげんよう……やったわ、今回はこちらの勝利よ」


「凄いです! マネージャーさん!」


「君らを出し抜くということは同程度、あるいはそれ以上の精度の情報を得ているということだからな。それを逆手に取ったよ」


「こちらに露払いをさせて、最後を持っていくというのが向こうのプランだった……ただ、こちらが到着に手間取っていることに痺れを切らして先に動いた……私たちは残った建物に全力を傾ければ良い……思った以上に上手くいったわ。これで一勝一敗ね」


 ケイが満足気に頷く。

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