第5惑星(2)カリスト急襲
「着いたわ」
「ここがフリスクか」
「違うわ、カリストよ」
俺の間違いをケイは呆れ気味に指摘する。
「お、大きい星だな」
「アユミ、説明よろしく」
「はい、カリストは木星の衛星の中では2番目に、太陽系の衛星の中でも3番目に大きい衛星です。太陽系の全て天体の中でも、水星に次いで12番目に大きい星です」
「身を潜めるには絶好の場所だね~♪」
モニターを眺めながら、コウが呟く。俺はケイに尋ねる。
「ここにテロリストが?」
「全てではないけど、拠点の一つではあるようね。まずはここを潰す……」
「し、しかしだな……」
「何よ?」
「テ、テロリストなんて穏やかじゃないぞ。君たちが腕利きの賞金稼ぎだというのは分かるが、さすがに手に余るんじゃないか?」
「……何が言いたいの?」
「軍隊とか、しかるべきところに対応してもらった方が良いんじゃないか?」
「そのしかるべきところが満足に動けないから、こうして私たちにお鉢が回ってくるのよ」
「動けない?」
「まあ、各星々にも色々あるっていうことだよ♪」
首を傾げる俺にコウが笑いかける。
「政情が不安定だったり、単純に統治が行き届いていないということなどですね」
アユミが補足してくれる。
「だ、だけど……」
「今度は何?」
「たった3人で向かうのは余りにも無謀だ。相手の規模は?」
「まあ、数十人ってわけじゃあないでしょうね……」
「数百……数千……ヘタすりゃ数万かな?」
「む、無謀過ぎる!」
コウの言葉に俺は思わず声を上げる。ケイが冷静に答える。
「心配は無用よ」
「無用って!」
「アユミ」
「はい……情報によると、カリストの各地にテロリストは分散しています」
「分散?」
「ええ、わたしたちと同様に、テロリスト鎮圧に動いている賞金稼ぎに対応するためです」
「賞金稼ぎってそんなに多いのか?」
「久々のデカいヤマだよ。少なくとも太陽系で活動している賞金稼ぎの三分の一は動いているんじゃないかな?」
「そ、そんなに……」
コウの発言に俺は言葉を失う。まあ、賞金稼ぎの総数を知らんからそれがはたして多いのかどうかよく分からんところもあるのだが。ケイが微笑む。
「ちょっと出遅れたかと思ったけど、それがうまい具合に作用してくれたわね。私たちは美味しいとこ取りが出来るわ」
「美味しいとこ?」
「……アユミ」
「はい、あらゆる情報を精査した結果……このカリストにおけるテロリストの最重要拠点は……ここかと」
アユミがモニターに表示されたカリストの地図の一部分を指し示す。それを見てケイが満足そうに頷く。
「ここにテロリストのリーダー格や幹部連中がいる……ここを叩けば良いというわけよ」
「た、確かなのか?」
「アユミの情報分析能力はガチだよ♪」
俺に対してコウはウインクする。
「ぶ、分析以前に、その情報が正しいのか?」
「私たちは信頼出来る情報筋をいくつも持っているからね」
「そ、それっていわゆる情報屋とかいう奴らか?」
「……そういう連中も混ざっているわね」
「ほ、本当に信頼出来るのか?」
「私たち『ギャラクシーフェアリーズ』がこの衛星群でライブをすることによって得する連中も多いのよ、誤情報はほとんどないでしょうね」
「そ、そうは言っても……」
「マネージャーは心配性だな~♪」
コウが俺を見て笑う。アユミが冷静に告げる。
「……まもなく着陸します」
「ポイントのズレは?」
「ほぼありません。着陸次第急襲出来ます」
「結構……」
アユミの言葉に頷きながらケイが自らの銃を確認する。
「急襲って……いきなり行くのか⁉」
「自分で言っているじゃない、急に襲うから急襲なのよ」
「え、ええ……」
「そろそろ覚悟を決めなさい」
ケイが俺に銃を手渡してくる。いや、テロリストと銃撃戦するなんてことはまったく想定してないって。覚悟もなにも……ん?
「え? お、俺も行くのか⁉」
「マネージャーでしょう。現場にはきちんと顔を出しなさい」
「こ、こんな現場は聞いていないぞ!」
「まもなく着陸します! 各自宇宙服を着用して下さい!」
「私はテュロンで、コウはバギーで突っ込む! かき回したところをフィニッシュはアユミに任せるわよ! マネージャーは後方から応援!」
「オッケ~♪」
「了解しました!」
「フレ~フレ~みんな!」
「いやいや、応援ってそういう意味じゃないよ?」
「んなことは分かっているよ!」
俺はコウに対し、やけくそ気味に応える。もうこうなったら野となれ山となれだ。結構な振動が起こる。宇宙船が着陸したのだ。ケイが叫ぶ。
「行くわよ!」
3人が勢いよく飛び出す。目の前には廃工場のような施設があった。ここにテロリストが潜伏していたのか。宇宙服を着た連中が慌てて出てくる。
「オラオラ! 『ギャラクシーマーダーズ』のお通りだあ!」
バギーに乗ったコウが銃を乱射する。テュロンに跨ったケイも的確な射撃でテロリストたちを沈黙させていく。ホバーバイクを貸してもらった俺は、身を屈めながらその後をついていく。つ、ついてきているだけ偉いよな? マネージャーの責務果たしているよな?
「中央の建物に幹部連中がいるわ! アユミ!」
「はい!」
アユミがホバーバイクをウィリー走行させて、そのまま建物に突っ込む。ケイが叫ぶ。
「よし、もらった! ⁉」
次の瞬間、大爆発が起こり、建物がほとんど吹っ飛ぶ。俺は一瞬呆然とした後叫ぶ。
「アユミ!」
「だ、大丈夫です……」
「⁉」
わずかに残った建物の一室で女子高生の制服チックな恰好をした褐色の女の子が笑う。
「狙いは悪くなかったけど……あーしらの方が早かったね~」
「なっ……⁉」
俺は驚いてその女の子を見つめる。決してミニスカートをガン見しているわけではない。
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