第1惑星(2)強行手段に出てみる
「ここは私たちの船よ、貴方の目当ての巨大宇宙船ではないわ」
「そ、そんなはずは……」
俺は落ち着いて周囲を見回してみる。なるほど、確かに巨大宇宙船の積荷搭載スペースにしては、あまりにも狭い。大型のコンテナが1個か2個入るかどうかだろう。
「……分かったかしら?」
「あ、ああ、まさか……」
「そのまさかよ、貴方、密航先の船を間違えたの」
「そ、そんな! この船は『ディスカバー6』じゃないのか⁉」
「『ディスカバリー9』よ、見間違えたのね」
「ば、馬鹿な……」
俺は愕然としながら膝をつく。緑の女の子はため息をつく。
「……悲劇の主人公ぶるのは勝手だけど、下着の山に膝をついているさまは滑稽よ」
「あ、ああ……」
我に返った俺は中腰になる。青い髪の子が緑の髪の子に話しかける。
「どうしますか? こちらの下着ドロボー(仮)さん?」
いや、(仮)って。一応名前名乗ったよね?
「どうするもなにも、さっさとステーションの関係者にでも引き渡して……」
「……いいんですか?」
青い髪の子が緑の髪の子に近寄り、そっと耳打ちする。
「密航者なんて大した額にならないでしょう……⁉」
緑の髪の子がなにやら小声で答えたその時、船が大きく揺れる。俺は驚く。
「な、なんだ⁉」
「こ、これは……!」
緑の髪の子が赤い髪の子を睨む。
「うん~? オートで発艦するようにさせといたよ?」
「な、なにをしているのよ⁉ この男を突き出さないといけないのに!」
「でも~時間がないんでしょう?」
「それは貴女たちが余計な道草を食っていたからでしょう! ……ああ、よりにもよって、こんな高速で……」
緑の髪の子が端末を取り出し、船の状況を確認する。赤い髪の子が笑う。
「近場だけど、急がないと間に合わなそうだしね~」
「ど、どうします?」
青い髪の子が緑の髪の子に尋ねる。緑の髪の子がため息交じりに答える。
「ここまで進んでしまっては、引き返すのも時間のロスね……仕方がない、このまま目的地に向かいましょう……操縦室に戻るわよ」
「この(仮)くんはどうする~?」
「向こうで引き渡せば良いでしょう。操縦室に連れてきて」
緑の髪の子がそう言って、部屋を出る。赤い髪の子が笑いながら俺の背中を押す。
「だってさ~」
「……」
「えっと、(仮)さん、わたしたちについてきて下さい」
青い髪の子が俺に指示を出す。その優し気な声色に俺はどこかホッとする。銃口を突きつけられたままではあるが。
「どわっ⁉」
部屋から廊下に出た俺は戸惑う。廊下が無重力空間になっていたからである。俺は体を二回ほど回転させて、なんとか廊下の手すりを掴む。俺の後方にいる赤い髪の子がまた笑う。
「ははっ、もしかして宇宙は初めて~?」
「ああ……」
「そんなんでよく密航しようと思ったね~」
「慣れの問題だろう、こんなのは」
「慣れるまでいられるかな~?」
「どういう意味だ?」
俺は後ろを振り返って赤い髪の子に尋ねる。赤い髪の子は答えず肩をすくめるのみだ。
「あの……こちらです」
「あ、ああ……」
青い髪の子が声をかけてくるので、俺はそれに従う。我ながら少し落ち着いてきたのか、女の子たちを観察する余裕が出てきた。女の子たちは三人とも俺と同い年くらい、あるいはちょっと年下、いずれにせよ同世代の女の子たちだ。体格は俺よりも小さい。平均的な人類の女性の身長くらいだろう。ルックスは三者三様で可愛い。いや、今はそれはどうでもいい。
女の子たちの服装に注目する。船内ということで、宇宙服を脱いでいるのだが、揃いの黒いブレザーのような上着に、白いミニスカートを穿いている。どうしても、前をいく青い髪の子のヒラヒラとするそれに目線がいってしまう。赤い髪の子が俺の耳元で囁く。
「別に見ても良いよ~? 見せパンだし♪」
「な、何を言っている!」
「だってガン見していたからさ~」
「たまたまだ!」
嘘です。釘付けでした。若い女の子の健康的な太ももとほどよい大きさのお尻が目の前を漂っているのだもの、見ない方が失礼だね。い、いや、そんなことよりも……この船はどうやらこの娘たちだけで運行しているようだ。不用心……いや、俺にとってはチャンスか?
「着きました。どうぞ」
青い髪の子が俺に部屋に入るよう促す。そこには操縦席があった。俺はゆっくりと見回して確認する。このタイプはよく知っている……極めてオーソドックスな宇宙船の操縦席だ。これなら何度もシミュレーションで操ったことがある。俺は念の為、既に真ん中の操縦席に座っている緑の髪の子に尋ねる。
「……大方察しはついているが、目的地に着いたら俺はどうなるんだい?」
「……聞こえていたでしょう? 密航者として引き渡すわ」
「そうか、それは困る……な!」
「!」
俺は青い髪の子を取り押さえようとするが、慣れない無重力での動き、あっさりとかわされてしまう――いや、もちろん女の子を抑え込むことに慣れているわけではないが――。
「おっと!」
「うおっ⁉」
赤い髪の子が発砲してきたが、俺は奇跡的にそれを飛んでかわし、部屋の天井に右手をつける。赤い髪の子が口笛を鳴らす。
「やるね~♪」
「ふ、ふん、そんなの当たらねえよ! はっ⁉」
「……ちょっと大人しくしてくれる?」
緑の髪の子が俺の眼前に迫ってきていた。無重力での動きに慣れているとはいえ、ちょっと異常な速さじゃないか? そんなことが頭によぎった瞬間……。
「どおっ!」
緑の髪の子の鋭いビンタが俺の右頬を打つ。強烈なビンタだ。それだけで意識が飛びそうになったが、なんとか体勢を立て直した俺は、部屋の床に転がっている銃に注目し、それを拾おうとする。赤い髪の子が銃を構える。
「させないよ~」
「ここで発砲はやめなさい!」
「え~仕方がないな~」
緑の髪の子の言葉に従った赤い髪の子は渋々と銃をしまう。チャンスだ。発砲する気はないが、銃さえ持てば、少なくとも対等だ。俺は銃を掴み取り、床に立つ。
「よしっ!」
「それっ!」
「ぐおっ⁉」
赤い髪の子の強烈なパンチが俺の腹にめり込む。え? ちょっと距離離れていたよな? その距離を一瞬で詰めたのか? 無重力に慣れているとそんな動きが出来るの? 俺はまたしても飛びそうになった意識を繋ぎとめ、空中で何回転かしながらも体勢を立て直す。
「へ~結構タフだね~」
「そいつは……どうも!」
「きゃっ⁉」
俺は座席を蹴り、その反動で青い髪の子の後方にサッと回る。左腕を首に回して抱え込むような体勢になり、右腕でその子の頭に向けて銃を突きつける。
「手荒な真似は出来ればしたくない! この船を俺に寄越……ぬおっ⁉」
俺は脅し文句を言い終える前に悶絶する。青い髪の子のかかとが俺の股間にジャストミートしたからだ。予想だにしない一撃を喰らい、俺は力なくその場に崩れ落ちる。
「よっと」
「ぬう!」
赤い髪の子がすかさず俺の身柄を抑え込む。う、動けない……。なんて力だ……。
「ああ、ごめんなさい()さん……」
いや、()さんって、仮はどこ行った、仮は。
「謝る必要なんてないわよ。それより大丈夫?」
緑の髪の子が首をコキコキとさせながら、青い髪の子を気遣う。
「だ、大丈夫です。それより()さんが……」
「どんなにタフな男でも鍛えられない場所だからね~♪」
赤い髪の子が楽しそうに笑う。青い髪の子が申し訳なさそうに頭を下げる。
「す、すみません、()さん……」
「で、どうする?」
「だから向こうで引き渡すわよ」
「宇宙船強奪未遂も加えたら、結構な額になるんじゃない?」
「……それでも貴女が銃弾で破損した箇所の修繕費用くらいにしかならないわ」
「そっか~面倒だから、捨てちゃう?」
赤い髪の子が俺の頭に銃を突きつけてくる。緑の髪の子が呆れ気味に答える。
「そんなことがバレたら、それこそスキャンダルだわ……拘束しておきなさい」
「ちょ、ちょっと、可哀そうじゃないですか、()さん……」
青い髪の子の言葉に俺はちょっとキレる。
「()さん、()さんって……俺はタスマ=ドラキンだ! さっきも名乗っただろう⁉」
「まだキレる元気はあるようね……やっぱり少し黙らせようかしら」
緑の髪の子が俺に銃を向けてくる。俺は慌てて適当なことを口走る。
「キ、キレてないですよ? い、いや~! どこの誰かは存じ上げませんが、皆さんお強い! それにルックスも美しい! ぜ、是非お名前と端末コードをお伺いしたい!」
「かわいいじゃなくて美しい……分かっているじゃない。私はケイ=ハイジャよ」
緑の髪の子が前髪をかき上げながら答える。
「ははっ、変わったナンパだね~? アタシはコウ=マクルビだよ」
赤い髪の子が笑いながら答える。
「え、えっと……アユミ=センリです……」
青い髪の子が戸惑いながら答える。ケイにコウにアユミか、皆良い名前だな……って、それを聞いてどうする俺? どうすんのよ?
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