第1惑星(1)濡れ衣の船出
1
「え、えっと……」
「動かないで」
緑の髪色をしたポニーテールの女の子が冷静な顔で呟く。
「そ、その……」
「口も閉じてもらわないと撃つよ~♪」
赤の髪色をしたショートカットの女の子が笑顔で物騒なことを口走る。
「……」
「年貢の納め時ですよ、下着ドロボーさん」
青の髪色をしたロングヘアの女の子の言葉に俺は驚く。
「なっ!」
「!」
「⁉」
青い髪の子の言葉に反応して口を開いた俺に向かって、赤い髪の子が躊躇なく発砲してきた。銃弾は俺の前髪を掠め、壁に当たった。
「だから撃つっていったじゃん~今度は外さないよ~?」
「銃弾の無駄遣いはやめなさい。仕留めるなら一発よ……」
緑の髪の子が銃を構え直すのが視界に入る。
「……!」
俺はバッと両手を上げて口をパクパクとさせ、目で正面に立つ青い髪の子に訴えかける。
「ん? なにやら弁明したいことでもあるんですか?」
「~~!」
俺は首をこくこくと頷かせる。青い髪の子は俺に銃口を向けたまま、少し考えた後、俺に向かって告げる。
「……まあ、一応聞いておきましょうか。発言を許可します」
「あ、ありがとう……」
「お礼を言われても……では、さようなら」
「! ちょ、ちょっと待て! 発言はまだ終わっていない!」
「そうなんですか?」
青い髪の子が首を傾げる。話が通じる子かと思ったら、そうでもなかった! とにかく俺は必死で言葉をつなぐ。
「お、俺は断じて下着ドロボーなどではない!」
「……では、その頭に被っているのは?」
「ん? おわっ⁉」
片手で頭を触って驚いた。俺の頭に女物のパンティが綺麗に被さっているのだ。
「そんな状態で下着ドロボーではないと言い張るのは無理があると思いますけど」
「い、いや、これは……どういうことだ?」
「そんなことをわたしに聞かれても……」
青い髪の子が困り顔になる。俺は自分の入っていたコンテナを見てみる。すると……。
「こ、これは……下着の山⁉」
コンテナの中には色とりどりの下着がいくつかのボックスにぎっしりと詰まっていた。入りきらなかったのか、コンテナが揺れた際にこぼれたのか、ボックスの外にも下着が散乱している。緑の髪の子が怜悧な声で告げてくる。
「ジロジロと見ないで」
「は、はい!」
俺は正面に向き直る。赤い髪の子が笑顔を浮かべたまま、尋ねてくる。
「それで?」
「え、えっと……」
俺は頭をフル回転させ、状況の理解を急ぐ。
「……特に無いなら撃つよ~?」
「ま、待ってくれ! お、俺はたまたまこのコンテナに入っただけだ。この下着も起き上がるときに偶然頭に被さったのだろう。ドロボーなどするつもりはなかった!」
「……だけど密航するつもりはあったということね」
「え?」
「そうなんですか?」
緑の髪の子の発言に、他の二人が驚く。緑の髪の子が呆れ気味に話を続ける。
「……たまたまコンテナに人が入るわけないでしょう? 普通にチケットを買って乗ればいい。そうではないということは、密航以外に考えられないわ」
「あ~」
「そう言われると、確かに……」
「ここまで言われる前に大体察しがつくでしょう……」
二人のどこか呑気な反応に緑の髪の子がため息交じりで呆れる。
「密航者ならなおのことだね~♪」
赤い髪の子が銃口を近づけてくる。俺は慌てる。
「ま、待ってくれ!」
「待たないよ~」
「そ、そこをなんとか! せめて話を聞いてくれ!」
「……聞いてあげましょうよ」
青い髪の子が口を開く。赤い髪の子が苦笑する。
「お人好しだな~」
「……どうぞ」
青い髪の子が俺に話を促してくる。俺は一呼吸置いてから話し出す。
「お、俺の名前はタスマ=ドラキン! 18歳! 君たちと同じ人類の男だ!」
「それくらい見れば分かるわ。馬鹿にしているの?」
今度は緑の髪の子が銃口を俺に近づけてくる。
「し、していない! 地球の下層階級の出身だ!」
「へえ~」
「地球の……」
「二人とも感心しないの。地球最寄りの宇宙ステーションで積み込まれたコンテナに入っていたのよ。それも察しがつくでしょう……」
緑の髪の子が二人をたしなめる。俺は話を続ける。
「お、俺は今までクソみたいな人生を送ってきた!」
「!」
青い髪の子の目が丸くなる。俺は構わず続ける。
「こ、こんな人生を変えたいと思ったんだ!」
「なんでまた宇宙に~?」
「地球では金かコネが無いとまず這い上がれない! 学力とか特別な才能があるなら別だが、俺にはそれらも無い!」
「ははっ、無い無い尽くしだね~」
赤い髪の子が笑う。青い髪の子が真面目な顔で注意する。
「茶化すのはよくないですよ……それで?」
「船の中に街があるような大型宇宙船なら航行期間も長く、仕事が沢山ある! 乗客も多い! まぎれ込んでしまえばこっちのものだ!」
「……だからと言って、密航とは思い切ったわね。船によっては結構な罪になるわよ……何が貴方をそこまでさせるの?」
「……お、俺は地球なんかで収まる器じゃねえ!」
「は?」
思わず叫びながら立ち上がった俺に対し、緑の髪の子が首を傾げる。
「俺はいつかビッグな男になるんだ! そう思って、勇んで飛び出してきたのに……!」
「スタート早々下着ドロボー扱いとはね~」
「ううっ! だ、だから、これは濡れ衣というか……!」
俺は思わず両手で顔を覆う。情けなさに涙が出てくる。赤い髪の子が笑う。
「ははっ、ウケる~」
「笑っちゃ悪いですよ……」
青い髪の子がまた赤い髪の女の子を注意する。緑の髪の子が言い辛そうに口を開く。
「……貴方の立場や思いは分かったわ。でもね……乗る船を間違えているわよ?」
「ええっ⁉」
驚いた俺は顔を上げる。
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