友人のおすすめ映画
うみのもずく
第1話
さて困ったことになった。大学の友人から面白いので是非見てくれと勧められた映画。そこまで言うならと見てみたもののこれが本当につまらない。
正直に感想を言いたいところだが、奴との付き合いはまだ浅い。本音をぶっちゃけた場合、傷つけるかもしれない。そして関係が悪化するのもうまくない。
では適当な褒め文句を並べてお茶を濁すか? それが無難な選択だろう。「面白かったわー勧めてくれてサンキュー!」とでも言っておけば丸く収まるはずだ。
だが本当にそれでいいのだろうか。それは不誠実ではないか? 奴に対して、そして作品そのものに対しても。
俺自身にも映画というものへのこだわりがある。映画通と言えるレベルかは分からないが、それなりに色々な作品を見てきたつもりだ。プライドがある。ゆえに適当に相手に合わせて意見を変えてしまうのは、自分への裏切りのような気がするのだ。
よし、決めた。俺は本音でぶつかろう。その場限りのおためごかしはやはり良くない。たとえそれで奴との関係が壊れてしまったとしても後悔はするまい。
翌日。俺は意を決して奴の姿を探した。大丈夫だ。俺は言える。あの映画、申し訳ないけど最低の出来だったよと。昨日の夜にシミュレート済みだ。
その時だった。周囲をきょろきょろしていると、不意に後ろから声をかけられた。知った顔だったが、あまり話したことはなかったので少々驚いた。橘さん。よく覚えている。理由は単純で、顔が俺の好みの美人だったからである。
「それ……!」
橘さんは俺の手の中のものを指差す。友人に借りた映画のBlu-rayだ。むき出しで持っていたのである。
「えーと、知ってるの?」
とりあえず尋ねると、食い気味に答えが帰ってくる。
「うん! 私その映画すごく好きなんだあ。面白いよね」
どう返答したものかと迷った。いや、迷いなどなかったかもしれない。ほぼ反射的に俺はこう言っていた
「分かる。これ本当に面白かったよ」
そこからの俺はといえば、適当な褒め言葉を並べ、思ってもいないことを言い続けるという不誠実の限りを尽くした。どこに行ってしまったのだ俺のプライドよ。
だが仕方ない。こだわりが何だというのだ。美しい女性を前にして、俺に何ができるというのか。これでいい。これで良かったのだ。こうして橘さんと楽しく話すことができた。この映画には感謝したいくらいだ。むしろ俺が今まで見た映画の中で最高傑作呼んでもいいくらいである。
その後、楽しい時間を終えた俺は満面の笑みを浮かべつつ、友人にBlu-rayを返した。
友人のおすすめ映画 うみのもずく @umibuta28
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