精霊王の末裔~ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~

綾森れん@初リラ👑カクコン参加中

序章:最弱から最強へ

一、幼少期(5歳~)

ⅰ、冒険者を夢見る少年、女の子の服を着せられる

 もうすぐ六歳のお誕生日だっていうのに、ぼくはまたベッドに寝かされていた。


「父ちゃん、ジュキもお外いきたい」


 仕事から帰ってきた父ちゃんを見上げると、


「熱は下がったのか?」


 ひんやりとした手がぼくのおでこに触れた。


「まだ熱いじゃないか。だめだぞ、ちゃんと寝てないと」


 ぼくはふてくされたように、口をとがらせた。


「じゃあジュキ、父ちゃんが冒険者時代の話をしてやろう」


「やったー!」


 ぼくはワクワクをおさえられなくて、ベッドの上で足をバタバタと動かした。


「父ちゃんはなあ、俺たちの自治領を出て、人族の領土もたくさん旅したんだぞ」


 父ちゃんは話しながら木の椅子を持ってきて、ベッド脇に座った。


「じんぞく?」


「そうだとも。遠い遠いところには、人族っていう弱っちいのがたくさん住んでるのさ」


「ジュキたちとどう違うの?」


 枕もとのランプに火を入れる父ちゃんに尋ねる。


「見かけはそんなに変わんねえよ。でも人族の耳は小さくて丸っこい。あと犬歯――」


 枕の上で首をかしげるぼくに気付いて、父ちゃんは自分の牙を親指で示した。


「ここの歯も、とがってねえんだ。人族は俺たちのことを亜人族なんて呼んでやがる」


「ジュキたち、竜人族じゃないの?」


「人族から見れば父ちゃんやジュキは、亜人族の中で一番強い竜人族ってことになるのさ」


 ぼくはまだ見たことないジンゾクとかいう人たちに、とっても興味を持った。


「ジュキもうんと遠くまで旅したい。それでたくさんの人たちと友だちになるんだ!」


「そうだな、ジュキ。お前ならきっと父ちゃんみたいな強い冒険者になって、レジェンダリア帝国中――いや、『水の大陸』中を旅して回れるさ」


 父ちゃんの大きな手が力強く、ぼくの頭をなでまわした。


 冒険のお話を聞きながら寝たからかな? ぼくはその晩、夢を見た。


 ピンクブロンドの髪を背中にたらした人族の美少女が、ぼくにほほ笑みかけていた。ぼくたちは手をつないで、初夏の日差しがふりそそぐ街道を歩いているんだ。


『二人で世界の果てまで行こう!』


 木漏れ日の下、ぼくたちは笑いあって走り出した。




 次の日の朝になると、熱は下がっていた。


 父ちゃんはお仕事に、ねえちゃんは魔法のお師匠さんのところに行ってしまった。母ちゃんは薬屋のおばあちゃんのところまで、ぼくに飲ませる魔法薬を買いに行っていた。


 ぼくは一人お留守番。二階の窓から下の通りを見下ろしていると、魔法や手習いのお師匠さんのところに通う子供たちが通りかかる。


「やーい、ばけもーん!」


 坂道をのぼっていく男の子の一人が、こっちを見上げて叫んだ。燃えるような赤い髪をした、身体の大きな子。強そうでうらやましいな。


「おい、見ろよ。真っ白い気味の悪い顔が窓からのぞいてるぜ」


 赤い髪の子が、となりの黒髪の男の子の服を引っ張った。


 え? ぼくのこと言ってるの?


「本当だ! 死人みてえ」


「知ってるか? あいつ手も変な形してるし、腕にはうろこが生えてるんだぜ!」


「ばけもんだ、ばけもんだ!」


 黒髪の子がぴょんぴょんとその場でジャンプした。


 やっぱりぼくのこと言ってるんだ――


 心臓がどんどん早くなって、耳の奥で血の流れる音が聞こえる気がした。


 ぼくは窓から離れてベッドに戻った。広げたぼくの両手には水かきと、透明なかぎ爪が生えている。父ちゃんたちはこんなじゃない。


 その上ぼくの胸には、七色に輝く変な石がはまっているんだ。一体これは何なんだろう?


 半ズボンから出たうろこの生えた両足を抱えて、ひざに顔をうずめていたら、下の階で玄関のあく音がした。


「ジュキちゃん、帰ったわよー」


 母ちゃんだ。ぼくは慌てて涙をぬぐった。


「具合はどう?」


 階段を上ってくる足音と、いつもの優しい澄んだ声。


「普通。魔法薬、飲まなくちゃいけないんでしょ?」


 ぼくは何でもないふりを装った。母ちゃんに心配かけたくないもん。


「そうそう。でもおばあさんがいい話を教えてくれたの」


 いい話と言うわりには、母ちゃんは不安そう。


「ジュキちゃんの身体が弱いことを相談したら、病魔っていう悪い精霊さんは、小さな男の子をねらうんですって」


「女の子は平気なの?」


「昔はそういう言い伝えがあって、男の子を守るために女の子の格好をさせていたそうよ。それで試してみたらって言われたの」


 ぼくがびっくりしてだまっていると、


「魔法薬屋のおばあさん、言ってたわ。ジュキちゃんはかわいいから、お姉ちゃんの服を着れば女の子にしか見えないでしょ? きっと悪い精霊さんをだませるって」


「女の子の格好すれば、お外で遊べる?」


 母ちゃんは少し考えてから、


「試してみる?」


 と尋ねた。


 お外に出られなかったら、ずっと遠くまで旅することもできない。ぼくは心を決めてうなずいた。


 そして――


 ぼくはねえちゃんのおさがりのワンピースを着せられて、古い姿見の前に立ち尽くしていた。


「ぼく、女の子みたい……」 


 肩まで伸びた銀髪は耳の上で二つ結びにされ、ピンクのリボンが肩までたれている。 


「よかった。思った通り似合うわね」


 母ちゃんの手が優しくぼくの髪をすべる。


 そのとき下の階から、バタバタとせわしない足音が聞こえて、ねえちゃんが魔法の先生のところから帰ってきたのが分かった。


「たっだいまーっ!」


 階段を駆け上がってきたねえちゃんは、部屋をのぞいて歓声をあげた。


「きゃーっ、ジュキちゃんどうしたの!? かわいい!!」


 元気いっぱいなねえちゃんに、母ちゃんがわけを話す。


「そうなんだぁ。でもいいじゃない、ジュキちゃん私よりワンピース似合ってるもん!」


 ぼくはうつむいたままスカートのすそを、ぎゅっと両手でにぎった。


「似合わないよ……、こんなうろこの生えた足じゃ気持ち悪いよ……」


 泣かないようにしなくちゃ。


「どうしたの、ジュキちゃん!?」


 ねえちゃんがぼくをのぞきこんだ。


「その真珠みたいなうろこ、嫌いなの?」


 ぼくがだまっていると、


「私は大好きよ! ジュキちゃんの手足は真っ白でつややかでとっても綺麗でしょ、おめめは大粒のエメラルドだし、髪は銀細工のよう!」


 並べ立てて、ぼくを抱きしめた。


「私の弟は全身宝石みたいだわ!」


「そうよ、母さんの宝物だもの」


 ぼくを愛してくれる二人を傷つけたくなくて、さっきバケモノと言われたことを打ち明けられなかった。




 夕方になって父ちゃんが帰ってくると、ねえちゃんよりもっと大きな声で驚いた。


「ジュキお前、本当に俺の子か!? かわいすぎんだろ、おい」


 父ちゃんが中庭の共同井戸に水を汲みに行くとき、ぼくはスカートの裾をひるがえして、そのあとを追いかけた。


「ねえ父ちゃん、ぼく、だれの子なの?」


「はぁ?」


 振り返った父ちゃんは、あんぐりと口を開けていた。


「ぼくの身体、父ちゃんとも母ちゃんとも違うもん」


 井戸の前で立ち止まったぼくは、石畳のすきまから生えている雑草に視線を落とした。ツインテールがふわっと、こめかみのあたりにかかった。


「馬鹿言うな、ジュキ。お前は父ちゃんと母ちゃんの子だ」


 父ちゃんは井戸から手を離して、ぼくの両脇をしっかりつかむと抱き上げた。夕方の空が近くなって、まわりの煙突からお夕飯の匂いが漂ってくる。


「じゃあどうして、ぼくだけこんななの?」 


 ぼくの涙声が聞こえたのか、キッチンにつながる小さな木戸が開いて、お料理をしていた母ちゃんがエプロンで手を拭きながら出てきた。


「そろそろジュキちゃんの出生の秘密について、話してあげましょうよ」





─ * ─




次回、主人公が普通じゃない姿をしている理由と、胸にめられた石の由来が分かります!

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