40、やっぱり最後は俺の出番なのか
「あの難しい女性はなんなのだ? 僕の顔を見た途端、恋に落ちたかと思ったら、今会ったばかりなのに激しい束縛! 一人で勝手に話を進めるし感情は不安定だし」
「それが姉よ」
短く答えたレモに、エドモンは芝居がかった沈痛な面持ちで、
「クロリンダ嬢には、悪霊の魂を縛るという決意をしてもらわなくちゃならないのに、これでは僕の方が彼女にコントロールされているようだ」
「それが姉のギフトのひとつ<
レモは、何を今さら、と言いたげな顔だ。
師匠がそのあとを引き取って、
「<
「すげぇな」
ぽつりともらした俺をレモが突っつく。
「ジュキがそれ言う?」
吹き出しそうになるのをこらえているようだ。
そういえば俺も、<
護衛が用意した椅子に腰を下ろして、皇子が口をひらいた。
「正直、楽勝だと思っていたんだ。なぜなら僕もギフト三つ持ち。そのうち二つが精神操作系だからな」
「殿下」
侍従がとがめるように小声で制した。
「構わない。この者たちは共に帝国を救う仲間だ」
エドモンは瞳に力強い信頼の光を宿して俺とレモ、それからユリアを見た。
「俺たちを信頼してくれてありがとう、エドモン殿下」
ニッと笑いかけると、
「ぐはぁっ! 魅了される! <
冗談とも本気ともつかない反応をして、肘掛け椅子の上でのけぞった。
師匠が一歩進み出て、
「ねらった女性は全て虜にしてきた殿下の
「そりゃ俺が女性じゃないからだろ」
「レモさんはどう思います?」
魔法学園の授業さながらに質問されたレモは、ぱっとソファから立ち上がり、
「殿下が持つ
なるほど。<
「ジュキエーレちゃん、僕の
バラしたくねえなあ。でも皇子ともあろう方が先に言っちまったし――
「俺のは99だよ」
小声で答えると場の空気が固まった。
だが師匠は鷹揚にうなずいて、
「分かりましたか? おそらくクロリンダ嬢の
「アンドレア、そんな
エドモン殿下は俺たちに向きなおり、
「多くの高位貴族の例にもれず、僕も
「ねーねー」
真面目な空気をぶち壊したのはユリア。師匠のローブを引っ張って、
「
別に俺は人気者じゃないだろ。
だが師匠は柔和な笑みを浮かべてうなずいた。
「おそらくそうでしょう。ギフトに関する研究はまだ発展途上ですが、精神操作系ギフトは本人の意思に関わらず発動し続ける――専門用語では『
ユリアは理解しているのかしていないのか、こくんとうなずいた。それよりぶんぶんと首を縦に振っているのはレモ。
「分かる分かる! ジュキと話しているとなぜか心地よくて、心の深いところまでひらいて何でも打ち明けちゃうの!」
それはありがたいんだけど……
「でも師匠、俺ガキの頃いじめられてたんですよ?」
人気者とは
「やっかみでしょう」
師匠はスパッと答えた。
「身分や能力の高い者が
「あー俺むしろ能力低かったわ……」
身体も弱いし魔法も使えない上、手習い師匠の所へ通うこともできなかった。ガキの頃の情けねぇ自分を思い出すと、手足がすぅっと冷えて行くようだ。
「ジュキエーレくん、苦労しましたね」
いたわる声に見上げると、いつくしむように俺を見下ろす師匠と目が合った。
「苦労ってほどじゃ――」
「いじめられても真っすぐ育ったのは、君自身が持つ強さのおかげです」
わしゃわしゃと頭をなでてくれた。
「いい子いい子」
「ちょっ、ジュキの髪さわらないでよ、師匠!」
引きはがそうとするレモ。
エドモン殿下がコホンと咳払いして、
「で、アンドレア。結局レベルで負けている僕ちゃんが、クロリンダ嬢を誘惑するのは不可能ってことか?」
「そんなことありません。高レベルの精神操作系ギフトを持つ者の力を借りれば」
師匠の言葉に、
「あ!」
レモがポンっと手を打った。
「ジュキの歌声を聞かせながら、殿下が姉を誘惑すればいいのね!?」
「ご名答です、レモさん」
師匠はにっこりとほほ笑んだ。
─ * ─
次回『その頃サムエレは』
なんでこいついるの? という密かな疑問に答える回です。
いつの間にかラピースラ側についたのか、それとも利用されているだけなのか?
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