35、玄関ホールで突然バトル!

聖還無滅輝燦ロヴィーナシャイン!」


「瘴気の壁よ! ぐっ」


 なっ、ラピースラめ、レモの聖魔法を防いだのか!? いや、完全に防ぎきれてはいないようだが――


「くはあぁぁあぁぁっ!」


「危ない!」


 俺は跳躍してレモを抱きしめると、横に飛んで石像の陰に入った。


「ぎゃぁっ!」


 ホールに響いた悲鳴は、俺たちのうしろに立っていた侍従のもの。瘴気を浴びた左半身の衣服が一瞬で朽ち果て、千年前の骨董品のようにボロボロになった。


「ルド、すぐに救護のへ行って侍医に見せて来い!」


 護衛に守られて、離れたところに立っているエドモン皇子が叫んだ。


「え……」


「手遅れになると体が壊死えしするぞ!」


「ひぃぃ」


 気の毒な侍従は、左足を引きずって何とか歩きだした。


「わたしが肩車して連れて行くよ!」


 ユリアが侍従に走り寄り、両脚の間に頭を突っ込む。


「わたしの頭をつかんでいて。なんとかのってのはどこ?」


 侍従が玄関ホール脇にある使用人用の階段を指差すと、ユリアは力強い足取りで登って行った。


 そのあいだに、クロリンダの姿をしたラピースラは呪文を唱え終わったらしい。


烈風斬ウインズブレイド!」


 プスン。


 ん? 何も飛んで来なかったぞ?


「きゃはははっ!」


 レモが腹をかかえて笑い出した。


「お姉様はねえ、魔力量が少なすぎてろくに魔法が使えないのよ。知らなかったぁ? ププッ!」


「なんと使えぬ器じゃ! くおぉぉぉぉ……」


 また瘴気かよ。


「凍れる壁よ!」


 レモを守りつつ、俺は腰の聖剣を抜いた。だがレモの姉さんを斬るわけにはいかねぇから、肩か脚か命に関わらないところに斬りつけて、ラピースラを追い出す作戦だ。

 悪しきものしか斬れない剣のはずだが、イーヴォの頭皮を剥いだ黒歴史があるから、どこまで「悪しきもの」認定しているのかよく分からないのだ。


 そのとき、大階段を下りてくる大勢の足音が聞こえてきた。


「殿下、ご無事ですか!?」


 瘴気対策か銀色の甲冑で武装し、手に盾を持つ騎士たちが五人ばかり、カチャカチャと音を立てながら駆け下りてきた。最後尾にユリアの姿も見える。


「うむ。あの女を殺さずに捕らえてほしい」


「承知しました!」


「きしゃあぁぁぁっ!」


 構わず瘴気を吐くラピースラ。


「なんだとっ、ミスリル製の盾が――!」


 蒼銀色に輝いていた盾が、みるみるうちに黒ずんでいく。


「ジュキ、飛ぶわよ」


 レモが耳もとでささやいた。


「えっ、だめだよ、レモに瘴気が当たったら――」


「あとで聖魔法使って回復するわ!」


 そんな無茶な!


風纏颯迅ヴェローチェファルコン!」


「我が力溶け込みし清らかなる水よ、我らを守りたまえ!」


 慌てて精霊力をこめた結界で、二人を包み込む。


「どいてぇっ!」


 俺を抱きしめて浮き上がったレモが、空中から叫んだ。


「おおっ、聖剣の騎士殿だ!」


「なんか女の子に抱えられてるけど……」


 光り輝く聖剣アリルミナスを構えた俺を見上げて、騎士たちは急いで左右に散った。


「狙うは眉間! 急所に一突き、行くわよぉっ!」


「う、嘘だろ!?」


 聖剣をにぎった俺を抱えたまま、まっすぐクロリンダの頭部へ急降下するレモ。


「くそっ!」


 俺はすんでのところで剣を横に薙ぎ、切っ先をそらした。


 ザクッ


 やっぱり何か斬ったーっ!





 ─ * ─




クロリンダ嬢の運命や如何に!?

次回『あわれなクロリンダ嬢』で判明します!


今日の更新、短めで申し訳ない!

明日はまた3,000字程度あります。

引きの関係で、ここで切ることになってしまいました……

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