42、聖剣アリルミナス、空間さえも斬り開く

「あっ、さっきの応接間!」


 俺は思わず指さした。だが一瞬もとの世界を見せただけで、そのすき間は閉じてしまった。


「だめかーっ!」


 レモが頭を抱える。


「術式に間違ったところはないと思うんだけど……私の魔力が足りないのかな!?」


「俺が唱えてみようか?」


「そうね――」


 レモが俺に手帳を渡そうとすると、ユリアが戦斧バトルアックスをぶんぶんと振り回しながら、


「じゃあわたしは細い切れ目をぶん殴って広げる役目ね!」


「いや、物理的にぶん殴れるもんじゃないだろ……」


 冷静に突っ込む俺。


「――あ」


 レモが小さな声を上げた。


「ジュキの精霊力をこめた聖剣アリルミナスなら、あるいは――」


「そうか! 悪しきもののみを斬る聖剣なら、空間をねじまげて作った不自然な境界を断ち切れるかもしれねえ!」


「呪文を書き換えるから待って! 聖剣に空間魔法を乗せられるようにするの」


 レモはまた座り込んで、ハンドブック片手に集中しだした。


 手持ち無沙汰になった俺は、ユリアを振り返る。


「レモはすごいな。魔術の知識が豊富で」


「そうだよーっ」


 ユリアは我がことのように胸を張る。


「レモせんぱいは『現代の賢者の一番弟子』って言われてるんだから!」


「セラフィーニ師匠か。一見、気のいいおっさんにしか見えねえけど、すごいんだよな」


 俺はまだ彼の実力を見たことがない。


「俺たちが今倒したスキュラなんかも一発だったり?」


「まさか」


 ユリアが真顔で答えた。


「え?」


 訊き返した俺に、


「お師匠さまは戦わないもん。安全なところで頭をひねるお仕事」


 軍師的ポジションってことか。


「お師匠さまはね、魔力量はレモせんぱいの四分の一、体力はわたしの十分の一、頭いいのだけが取り


「ま、賢者だしな」


 そもそもレモの魔力量は人族としては異常値だし、ユリアの力もまったく常識が通じない。比較対象が間違っている気がする。


「今度こそできたわ!」


 レモが自信たっぷりな様子で、俺に手帳を見せた。


「分からないところがあったら言って」


 魔術は呪文を唱えるだけでは発動しない。その意味を理解し、イメージできることが大切だ。俺はレモ手書きの呪文に視線を走らせながら、


「風の精霊に呼びかけて空間魔法を発動させて、聖剣にまとわせるんだな?」


「その通りよ! ジュキって頭も良くてかっこいい!」


 レモが抱きついて来た。興味のないことについては何も理解できないタイプだから、別に頭が良いほうではないと思う。でもレモが褒めてくれるのは、うれしい。


「よし、覚えた!」


 俺は手帳をレモに返し、聖剣を抜いた。


 目の前に剣を構え、呼吸を整える。精神を集中させ、へその下あたりに熱いエネルギーのかたまりを感じる。それが胸へと上がり、両腕を通して聖剣へ流れ込んでゆくのをイメージする。


聞け、風の精センティ・シルフィードくうべるぬしよ。聖なるつるぎへ宿りたまえ」


 呪文を唱え始めると、それまで無風だった亜空間の空気が、ゆらりと動いた。


「我らつどいしこの場はかりそめなるもの――」


 風の精霊たちが聖剣に宿り始めたのか、刀身が新緑を映し込んだような若草色に輝きだす。


けがれなきやいばにてあやしなるさかい斬り裂きて、我らが身、うつつへ転じたまえ!」


 まばゆい光を放つ聖剣を、俺は何もない空間に向けた。


亜空間消滅リアルリターン!」


 言葉と同時に聖剣を一閃すると、空間に一筋の裂け目が現れた!


「ユリア、こじ開けまーっす!」


 右手を挙げて走り出てきたユリアが、空間の裂け目に両腕を突っ込んだ!


「嘘だろ!?」


「物理的にさわれるわけ――」


 レモの言葉が終わらぬうちに、


「ふんぎゃぁぁぁ!」


 ユリアがかけ声とともに、空間の切れ目を広げた!


「レモ、飛び出せ!」


「ジュキも!」


 現実空間に片足を出して、レモが俺の手を引く。


「ユリア!」


 俺はもう片方の手で、ユリアのぷにぷにした身体を抱きしめて外へ連れ出した。


「き、貴様ら――」


 さきほどと比べるとずいぶん片付いた応接間。目の前に皇子が立っていた。




 ─ * ─



亜空間から抜け出すことに成功したジュキたち。しかしそこには先ほどと変わらず第一皇子の姿が。さあ、どうする!?


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