43、俺が最強の精霊力を持って生まれた理由
「俺が―― 魔神の復活を止めるために、異界の神々によってこの世界に送り込まれた!? どういうこと!?」
『あ。本人に言ってはいけないんじゃったかな? だがまあ自らの定めを知って、覚悟を決められた方が良いじゃろう』
「…………」
唖然としている俺に代わって、レモが口をひらいた。
「ジュキがおばあさまの力を受け継いで、先祖返りした姿で生まれたのは偶然じゃなかったのね」
『異界の神々と、我ら四体の精霊王が意思疎通して決めたことじゃ』
「なんで――」
俺はようやく言葉をしぼり出した。
「なんで俺なんだよ? 俺、今回よく分かったんだ。意思疎通できる相手を倒すことの苦しさが」
救えなかった後悔が、今も苦々しく心に残っている。俺が救いたかったのはバルバロ伯爵か、
『意思疎通できない魔物なら、いくらでも命を奪ってよいのかえ?』
「うっ…… でもモンスターは俺たち人間に害をなす存在じゃん……」
ばーちゃんに痛いとこを突かれて小声になる俺。
『坊や、責めているわけではないのじゃよ。事実、魔獣や魔物は体内の魔石に瘴気を補充するため、人間の恐怖を食らっておるからな。そのためお前たちを襲うのじゃから、人間側が討伐するのは自然なことじゃ』
「ジュキは子供のころから強くなりたくて剣の修行に励んでたんでしょ? それなら――」
レモの言葉に俺はふと目を伏せた。
「自由になりたいだけだったんだ。生まれた村を出て旅して生きるには、冒険者しかないって思ってたから」
「分かるわ」
レモがいつくしむように俺の二の腕をなでた。
「力を手にして気付いたんだ。悔しいけど、イーヴォの言ったように俺には吟遊詩人のほうが向いてるって。自分の歌でみんなに喜んでほしい、みんなを幸せな気持ちにしたいだけだって……」
「魔神が復活したら、みんなジュキの歌を聴く余裕もなくなるわよ」
レモが静かな声で言った。
「そんなこと分かってる。でもなんで魔神を止める役目が俺なんだよ? イーヴォみたいに強さに固執するヤツとか、サムエレみたいに名誉を得たいヤツとか、もっと向いてるヤツがたくさんいるだろ?」
「違うわ!」
レモが首を振った。
「心優しいジュキだからこそ、この世界を魔神の手から救えるのよ!」
俺の両手をぎゅっとにぎって、真摯な瞳で見つめる。
「どんなに強大な力を手に入れたって、ジュキはそれを自分のために使おうとしないでしょ?」
うん……まあそうかな?
「例えばイーヴォが最強の精霊王の力を手に入れたらどうなると思う? 世界征服とかするわよ、きっと」
確かに……。
「サムエレなら皇帝陛下をあやつる影の支配者になるかもね。でもジュキは純粋に人を幸せにするために力を使えるでしょ?」
まあ俺は力を振りかざすとか興味ねぇしな。大好きなレモとふわふわ幸せに生きて行きたいだけだし。
「わたしが最強になったらねぇ、世界の珍味食べ尽くしの旅に出るのー。モンスターも野生動物もみんな食べちゃう!」
ユリアが無邪気な声で怖いことを言う。
「私が最強になったら、ジュキを傷つけた人をかたっぱしから殺戮するわね」
こっちはもっと怖かった。
『そうじゃ。この娘の言う通りじゃよ、坊や』
ドラゴネッサばーちゃんがうなずいた。
『異界の神々は天界で、そなたの純粋な魂を見つけたのじゃ。そなたが持つ欲求は、自由になりたいとか歌いたいとか仲間と楽しく過ごしたいとか、害のないものばかり。多くの人間は他者を従わせたいとか、富豪になりたいとか願うものじゃがのう』
「私は有名になりたいわっ!」
「いや俺はめんどくさがり屋だから、無駄に有名になるのも自由がなくなるし、富豪になったらむしろ金の管理とかめんどくせぇし、他人を従わせるとかマジ無理だわ。命令すんのめんどくせぇもん……」
『じゃが目の前で苦しんでいる人間がいたら、手を差し伸べずにはおられぬじゃろ?』
ドラゴネッサばーちゃんの澄んだ青い瞳が、見透かすように俺をのぞきこんだ。
「うっ。だって自分の心にあらがうのも疲れるじゃんか……」
『そういうそなたじゃから選ばれたのじゃよ』
はぁ…… 俺は内心ため息をついた。ばーちゃんの理屈は分かる気がする。
「でも俺、いくら魔神にあやつられてるって言っても、人殺すのとかほんとに抵抗あるんだけど――」
「安心して、ジュキ! 厳しい決断が必要なときは私がやるわ!」
レモがこぶしで自分の胸をたたいた。
「巨大な毒蜘蛛になったバルバロ伯爵だって、ジュキが心臓を突く前に首を斬り落としたのは私よ! 大丈夫、殺したのはジュキじゃないから」
レモの手のひらが優しく俺の髪をすべる。
「きみができないことは私がやるから任せてよ!」
「そんな、レモに汚れ役をさせるなんて情けない……」
俺はうつむいた。
「なに言ってんの。ジュキは私をいつも守ってくれる。でも私は守られるだけの役なんて嫌なのよ?」
確かにレモはそういう子だ。
「だけどきみの強さには敵わないって分かってる。だったら私にできることで、きみを助けたい。つまりジュキの心を守りたいの!」
レモは言うなり俺に抱きついた。
『ぴったりな相棒を見つけたようじゃの』
うれしそうなばーちゃん。いや待て、相棒じゃない。レモは俺の恋人なのにーっ
「そうなの、おばあさま! ジュキは私の親友で、最高のパートナーなのよ!」
レモはきらきらと笑いながら、俺の頬に口づけした。
そして俺たちは、ラピースラ・アッズーリの凶行を止めるために帝都へ向けて旅立つこととなった。
「その前にジュキの実家に寄りたいわ!」
「そうだな。ばーちゃんはああ言ってたけど……」
自分はこれから温泉入りに行くってのに、俺たちだけ休みもせずに働くこともねえだろう。
「ジュキくんのお母さんたちがいる村、ここから近いの?」
街道を歩きながらユリアが俺を見上げる。
「うん、今日の夕方には領都ヴァーリエに戻れるだろ。明日の朝一番にヴァーリエを出れば夕方には着くよ」
「それまでクラーケンもつかなあ……痛んだらもったいないなぁ……」
お前心配するとこ、そこかよ……
「冷凍しときゃいいだろ。貸しな」
俺はユリアの亜空間収納機能のついたハンドバッグを開けると、
「
溶けない氷をぶち込んでやった。
「わぁい! ジュキくんのお母さんにリゾット作ってもらおーっと!」
聞いてないようでこいつ、食いもんの話は覚えてるんだな。
「ヴァーリエに着いたら、冒険者ギルドに寄ってダンジョンが地上に出ちゃったこと報告しときましょ」
「だな」
事務的なことによく気付くレモ。頼もしい。彼女を両親に紹介できると思うと鼻が高い。こんな美少女連れて帰ったら、村のヤツら驚くだろうな。いやそれ以上に貴族令嬢二人と旅してる時点で腰を抜かすか?
「ジュキのご両親、驚くでしょうね。かわいい息子がSSSランク冒険者になってるし、騎士爵に叙されて聖剣の英雄なんて呼ばれてるし!」
そういえば俺自身も色々とステータス変わってたんだわ。
俺たちは初夏の街道を、談笑しながら領都へ向かって歩いた。新緑を透かしてきらめく木漏れ日が、レモネッラ嬢の美しいピンクブロンドの上で踊っている。今後も心理的にきつい戦いに見舞われるだろう。でも彼女と二人なら、きっと乗り越えられる。
「レモせんぱい、ジュキくん、おなかすかない?」
あ。ユリア……こいつもいたんだった……
「あんたさっきからずっとクラーケンの足かじってんじゃん」
「見てジュキ、あそこに『オステリア古代神殿』ってお店が見えるわ」
レモの指さす方から食欲をそそる匂いが漂ってくる。
「じゃ、ひとまず飯にするか」
「「賛成!!」」
二人の明るい声がそろった。
─ * ─ * ─ * ─ * ─
第二章、最後までお読みいただきありがとうございました!!
第二章完結祝いに、まだ評価されていない方、↓から★レビュー下さると嬉しいです!
https://kakuyomu.jp/works/16817330649752024100#reviews
今夜の更新はお休みしまして、明日から第三章を開始します。
第三章ではまず故郷で両親に会って、さらに領都ヴァーリエで姉に会って、それから帝都に向かいます♪
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