19、最強の精霊力を持つ俺、防備も最強になるようです

 ドワーフ娘のドリーナさんがレモに選んだのは、軽やかなミスリル製の防具だった。


 二重に羽を乗せたようなデザインの肩当ポールドロンに、プラチナのごとき輝きを放つ糸で織られた衣服、ほっそりとしたブーツも金属質な光を放っている。


「この服もミスリル製なのか?」


「おう。絹糸くらい細く加工したミスリルで作った鎖かたびらさ。アタシの技術を褒めてくんな!」


「ドリーナさんの手作りなのか! すげぇな」


「いえーい!」


 俺が手放しでほめると、彼女はうれしそうにVサインをした。


「で、ジュキくんはどんな防具がいいんだろう? 測定不能なほど膨大な魔力量ってことは、自分で結界張ってんのか?」


「あ。なんか寒いと思ったら氷の防御術、服にかけっぱなしだった」


 慌てて解除する俺。部屋が地上階だから涼しいのかなとか思ってたぜ。


 ドリーナさんはなかばあきれ顔で、


「普通、術発動させっぱなしで忘れるとかないからな」


 だって窓から運河の上を渡って気持ちのいい風が入ってくるし、そのせいかと……


「ジュキは何かと規格外なのよ」


 さっそくミスリル製防具を身につけたレモが口をはさむ。


「最強なのに、ちょっとポヤンってしてるとこがかわいいでしょ?」


「はいはい。見せつけないでくれ。アタシ今シングルなんだから」


 うんざりするドリーナさん。


 作業台の親父さんがおもむろに椅子から立ち上がったと思ったら、木箱のふたを開けて何やらV字型のものをふたつ取り出した。


「魔力量が多いなら、自分で微弱な魔力を供給して結界を常時発動する魔装具がよいかも知れん」


 魔装具とは魔道具の装備版か。


 俺たちは親父さんの周りに集まり、V字デザインのネックレスとベルトをのぞきこんだ。どちらも中央にピンク色の石がはまっている。


「ピンクダイヤモンドみたいできれいね!」


 レモが目を輝かせてるとこ悪いが、俺はそんなデザインのもの身につけたくない。


「お嬢さん、つけてみるか?」


「いいの!?」


 親父さんの言葉に身を乗り出すレモ。


「うちの魔術兵たちのために作ったんだが、ピンクは嫌だとか抜かしおって。バカどもめ」


 マッチョ集団が首元とベルトにピンクの宝石つけてたら俺も笑うから、彼らの判断は正しかったと思う。


「ねえヴィーリさん、この魔装具つけてたら悪霊に乗り移られなくなるかしら?」


「悪霊!?」


 驚いて聞き返すヴィーリ親父。レモは十日ほど前、ラピースラ・アッズーリに乗り移られたばかりなのだ。レモはラピースラの姿を見ることさえできないから、防ぎようもなく難儀だった。


「その石は聖石と言ってな、身につけた者の力を借り、何倍にも増幅して持ち主を守るのだが、物理攻撃は防げない。その代わり魔術攻撃や……なんだ、その悪霊だと? そうしたエネルギー体に対しては大きな効果を発揮する」


 聖石か――。俺はつい嫌なことを思い出して、


「聖石って、魔力や精霊力を封じたりする力はないんですよね?」


 俺は生まれた翌日に、ラピースラ・アッズーリによって胸に石を埋め込まれたために精霊力を封じられ、一切魔法が使えず生きてきたのだ。彼女が俺の両親や村人にした説明が「聖石」だったので良いイメージがない。


「何を言っておるのだ。力を封印するのは封印石。まったく反対の作用だ」


 うん。俺の祖先である精霊王にして水竜のドラゴネッサばーちゃんも、ラピースラが俺に埋め込んだのは封印石だって言ってたけどな。


「聖石はその強さによって光の屈折率が変わるが、強い聖石は強力な結界を張ってどんな魔術攻撃にも耐える反面、使用者の魔力をたくさん消費してしまう」


「光の屈折率ってことは色が違うのね?」


 理解の早いレモ。


「その通り。魔術兵の獣人たちは大体二万近い魔力量を持つ。彼らにちょうど良いのがそのピンクの聖石だったのだ」


「じゃあ魔力量三万超えのレモにはちょっと弱いくらいってことだな」


 俺の言葉に親父さんはうなずいて、


「魔術兵どもが任務中のみ装着するよう開発したのだが、お嬢さんなら一日中つけていられるぞ」


 ふと気付いたが、小難しい話になった途端ユリアが壁によりかかって立ち寝している。そっとしておこう。


「わがままな魔術兵どものために青い聖石も取り寄せたが、わしの試算だと五万以上の魔力量が必要でな。奴らには使えん」


 親父さんが取り出したのは、深海のように深く澄んだあお色の石だった。まだベルトやネックレスには取り付けられておらず、親父さんの手のひらで二つの宝石が転がっているだけ。


「たった五万? ジュキなら余裕じゃない!」


 自分のことのように勝ち誇るレモ。


「え、でも俺、その、ネックレスとかつけるのあんまり……」


 親父さんに怒られそうで小声になる俺。


「分かるよ。あんたのスタイルじゃないんだろ?」


 ドリーナさんがからっとした調子で助けてくれた。


「一つはベルトの裏に縫いつければいいさ。見たところ魔眼牛カトブレパスの革だろう?」


 うっ、なんの革だか知らねぇや…… ドリーナさんは返答に詰まった俺を気遣うように、


「安心しな。アタシはオリハルコン製の針とアラクネの糸を使うから、どんな素材でも加工できるさ」


「助かるよ」


「二つ付けたほうが全身を守れるんだが――」


 ドリーナさんは一歩引いて俺の姿をながめ、


「マントの留め具を聖石に変えるってのはどうだろう?」


 なるほど。ファッションセンスに自信のない俺、レモを振り返って、


「この蒼い聖石、俺に似合うと思う?」


「え? 白い肌と銀髪なんて色がないみたいなもんなんだから、何色でも似合うでしょ?」


 なんかレモの言い方がひどい! ドリーナさんは苦笑しつつ、フォローしてくれる。


「ジュキくんのエメラルドみたいな瞳にも似合うと思うよ。君たちがスルマーレ島に滞在している間に加工して届けよう」


「ありがとう、ドリーナさん」


 俺はマントをはずして彼女に渡した。


「聖石を身に付ければ、結界を常時発動してるみたいなもんなんだよな?」


「そうさ。攻撃魔法で不意打ちされても無敵だぜ」


 ドリーナさんはいたずらっぽくウインクした。


 親父さんも満足そうにうなずいている。


「こんなに力の強い聖石を扱えるのはおぬしだけじゃ。こいつらが役に立つ日が来て良かった」


 俺しか身につけられない魔装具ってのも、特別感があってワクワクする。


「ヴィーリさん、ドリーナさん。ジュキの装備について作ってもらいたいものがあるんだけど、私からリクエストしてもいいかしら?」


 突如、レモが二人に尋ねた。




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次回、なつかしのサムエレ氏が再登場!

忘れてる方のために説明すると、同郷のメガネですよ。


イーヴォたちから解放された彼も、スルマーレ島に来ていたようです。

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