15、おとぼけユリア嬢が魔法学園に通えなかったわけ

「レモせんぱい、そんなにいっぺんに訊かれたら、わたし分かんなくなっちゃうよぉ」


 ユリアが泣き声を出した。レモの質問は二つだったけどな。


「ひとつずつ答えてくれればいいわ」


「えーっとじゃあまず一個目、今朝の朝食はぁ――」


「そんなこと訊いてないわよっ」


「ひょえー」


 ソファから立ち上がったレモに、間の抜けた声をあげるユリア。


「久し振りに会うレモせんぱい、やっぱり安定の怖さ!」


「なんですって!?」


 すごく仲の良い友達と聞いていたんだが、思ってたのと違うんだよな、この二人の関係……


「ユリア嬢はなぜ舟から落ちたんです?」


 ビビってる彼女に簡単な質問を投げかける俺。


「あ、それはね、ジュキくん。今年一番の入道雲が出ていて、とってもおいしそうだったのー!」


「えっとそれで……?」


初物はつものはおいしいっていうでしょ?」


 ユリア嬢、声も顔も、ついでに言えばちょっと舌足らずなしゃべり方まで愛らしいが、コミュニケーション取るの大変なタイプだ、これ……


「その入道雲を手に取ろうとして、舟から落ちたってことね?」


「レモせんぱい、その通り!」


 さすが付き合いの長いレモ。


「舟の上から歩いて取りに行こうとしたら、わたし水の上は歩けなかったの!」


 生まれたときから運河の街に住んでいて、今日それに気付くのか!? あ、だから街の人が、ユリア嬢が落ちたって言ってたのか…… 何度も落ちてるうちにシーサーペントに気に入られてしまったんだろう。


「それでユリア、魔法学園はどうしたの?」


「レモせんぱいがいないとわたし、通えなかったんですぅ」


「授業についていけなかったってこと? 放課後いつも図書館で一緒に勉強したもんね」


 なつかしそうにほほ笑むレモ。


「勉強についていけないっていうかぁ、寄宿舎から校舎までの道が分かんなくて――」


 そこから!? レモも頭をかかえている。


「朝も目が覚めないし、気付くと昼だし、たまに学園行くと閉まってるし」


 休日だったってことか!? 勉強が難しいとかではなく、物理的に登校できなかったんだな……


「それでしばらくしたら、お屋敷からお迎えの馬車が来たの。もうおうちに帰っていいんだって」


 学園から親族であるルーピ伯爵に連絡が入ったのだろう。


「状況は大体分かったわ」


 疲れた声を出したレモに、ユリアは拍手した。


「さすがレモせんぱい! わたしには何がなんだか!」


「ちょっ…… ユリアはそれでいいの!? おじいさまでも周りの使用人にでも訊きなさいよ!」


「あははー、レモせんぱい。世界は謎に満ちているんですよ。分からないことを問いつめても、分からないときは分からないんです」


 ユリアは泰然としたほほ笑みを浮かべた。この子もしや大物なのか?


「ユリアがそれでいいならいいわよ、学園のことは。私だって退学したし。でも婚約者探しはユリアの今後の一生に関わることでしょ?」


 レモに問われて、ユリアはきょとんとした。


「わたしが今後一生コンニャクを食べる?」


「は?」


 さすがのレモも目が点になる。


「あ、レモせんぱいはコンニャク知らないですよね! スルマーレ島は東方貿易も盛んで、今後コンニャクの取引をしようとしてるみたいなんです! じいじもパパも今その話で持ちきりで――」


「ちっがーう!!」


 レモが絶叫した。


「おじいさまたちが探しているのはユリアの婚約者! 結婚を約束する相手よ!」


「ケッコンを約束!? そいつぁあケッコウです!?」


 慌てたのか、わけ分からないことを口走るユリア。


「ユリアは結婚したいの?」


「ええっ!?」


 レモに正面から問われてユリアは仰天する。今まで考えたこともなかったのだろう。


「えっとわたしは―― おいしいものたくさん食べて寝て暮らしたいですっ!」


「あのさレモ」


 横から口をはさむ俺。


「彼女と世界中を旅する約束してたんだよな?」


 おいしいものを食べて寝て暮らしたいなら、冒険者稼業なんてまったく向いていない気がする……


「そうなんだけど―― ユリア、私との約束は覚えてる?」


「もちろん! 色んな土地のおいしいもの食べて、色んな宿で眠るんでしょ? 楽しみ~!」


 物見遊山ものみゆさん的な旅をイメージしてたのか。


「婚約したら、相手によっちゃあ旅なんてできなくなるわよ?」


「でもレモせんぱいは、コンニャクっていうのしてるジュキくんと楽しそうに旅してるじゃん」


 妙なところで鋭いユリアの突っ込みに、レモは頬を染めた。


「そ、それは! ジュキはもともと冒険者として旅してたし、貴族じゃないし、それに自由を愛する心を持った優しい人だから……」


 うつむくレモがかわいくて、ひざの上でにぎりしめた彼女のこぶしにそっと手を重ねた。


「じゃあわたしもそういう人探すもん!」


「何言ってんのよ。ユリアの相手は剣大会二位の人って、すでに決められてるのよ?」


 するとユリアが、ぽんっとひざをたたいた。


「思いついた!」


「なによ?」


 どうせろくでもないことだろうと言わんばかりの目で、レモがにらむ。


「レモせんぱいが出場すればいいんだ!」





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「婚約者を決める魔術剣大会に女の子が出場だと? 何考えてるんだ、こいつは」

「まあユリアだから何も考えていないのでは?」

「レモはどんな反応を・・・?」


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