47、銀髪ツインテ美少女、盗賊団に圧勝する

「お嬢さんがた、こんな時間に護衛も連れずに馬車旅とは訳ありかい?」


 俺がその護衛なんだよなぁ。きっと銀髪ツインテ美少女にしか見えねぇんだろうけど。


「命が惜しいなら、身ぐるみ置いていってもらおうか!?」


 はいはい暑苦しい。この距離なんだから怒鳴らなくても聞こえるのに。


「全員凍らせるか」


 などとつぶやきながら窓を開けたとき、俺のほうに松明をかざした盗賊の一人が目を見開いた。


「こ、こいつ――」


 え。女装がバレた?


「とんでもねぇ上玉じょうだまですぜ、親分!」


 ほかのやつらも身を乗り出し、


「こんな別嬪べっぴん、見たことねぇよ!」


 と騒ぎ出す。光栄だなあ(棒読み)。


「でしょでしょ!?」


 賛同する声はうしろから聞こえた。


「あんたたち分かってるじゃない! 私の侍女ジュリアは一万年に一人の美少女なのよ!」


 レモ……。自ら顔を出すなよ。まあ俺にとっちゃぁ盗賊団なんて敵じゃないって分かってるんだろうけど。


「やべぇ! あっちのピンク髪もすげぇかわいいっスよ!」


「あ、あんな女、抱いてみてぇ……」


 気持ち悪いな。お前だけ先行特典を与えてやろう。


氷塊ひょうかい


 俺の声に従い、レモを見て鼻の下を伸ばした男の額に、岩のような氷が激突した。


 ばたん。


 草むらに倒れた仲間に数人が驚くが、俺の攻撃とは気付いていないようだ。


「作戦変更だ! 金目のもん奪うなんざぁ後でいい! あいつらを手めにするぞ!!」


 親分の号令一下、


「「「うおおおおおおおっ!!」」」


 雄叫びが夜の林にこだました。腰の獲物を抜いて走ってくるやつらに一発、


「豪雨よ、この者たちを叩け」


 広範囲に雨を降らせる。


「うぉっ!? なんだいきなり!?」


「松明が消えた! おい魔法使えるヤツ、さっさと点火しろ!」


「火が消えたくらいでひるむな!」


 そろそろいい感じに濡れたかな?


「凍れ」


 一言告げると、盗賊団の動きが止まった。


「あっけないわねぇ」


 がっかりしたような声を出さないでくれ、レモ。


 俺は窓から首を伸ばし、


「御者の旦那、待たせたな。終わったぜ」


 と声をかける。


「ジュキエーレさんの力はロジーナ様からうかがっておりましたが、想像以上ですな。本当に頼もしい」


 話には聞いていたものの実際あらわれた俺は女装姿も違和感のない小柄な男で、公爵夫人の言う通り強いのか不安に思っていたのだろう。


 街道を走り出した馬車は、またすぐに止まった。


「どうした?」


 窓から首を出すと、


「ジュキエーレさん、あそこの木の根本――」


 御者が指さす方に目をこらす。馬車のヘッドライトが照らす先――街道から少しはずれた大木の根元に、背中合わせに三人の人間が座っているような影が見える。


「旅人たちが縛られてる?」


 つぶやいた俺の横から顔を出したレモも目をこらす。


「暗くてよく見えないけど、さっきの盗賊団の獲物かも知れないわね」


「ちょっと見てくるよ」


 見捨てるわけにもいかないので、俺は馬車の扉を開けた。御者は、


「ちょうどいい。ここらへんで馬を休憩させます」


 と御者台から立ち上がり、馬車の屋根に積んである干し草の束を下ろし始める。俺は飲み水として、かかえるほど大きな水滴を出して馬たちの足元に浮かべた。


 ここらへんは先ほどの盗賊団の縄張りだろうから、レモと御者だけで留守番させてもほかのならず者が襲ってくることもないだろう。俺は光明ルーチェを浮かべ、スカートの裾を両手でたくし上げながら夜の林に分け入った。


 旅人たちが縛られた太い幹の根本に近付くと、


「たっ、助けてくれ!」


 俺に気付いた一人が情けない声を出す。が、この声、めちゃくちゃ聞き覚えがあるんだが――


「ニコラくん、不用意に声を出しては危険です!」


「なんでだよ、サムエレさん。綺麗な女の人だぜ」


「こんな夜更けに女性が一人でうろうろしているなんておかしいからですよ!」


 手前にいる二人はニコとサムエレで確定。ってことは幹のうしろ側にいるのは――


「イーヴォさん! 見たこともないほど綺麗な女の人が助けに来てくれましたよ!」


 バカなのか、ニコ? 見たこともないって俺ら一年以上パーティ組んでただろ?


「お前とサムエレの会話、聞こえてるに決まってんだろ!? 振り返りたくても見らんねぇんだよ!」


 いら立ったイーヴォの声が聞こえてきた。三人はそれぞれ別方向を向かされて、大木の根元に背中合わせに縛られているのだ。


 まさか盗賊団にやられるほど弱かったとは。これじゃあむしろ、ギルドで冒険者に用心棒を依頼する旅商人側である。モンスターなんか相手にしてる場合じゃない。


「お願いです! この縄をほどいてもらえませんか!?」


 ニコが悲痛な声で訴える。


 さっき馬車の中でレモと結ばれた瞬間はこいつらのことさえ許せると思ったが、こうして面と向き合ってみると、ものすごく助けたくない。ガキの頃からあざけられてきた記憶がふつふつとよみがえり、このまま暗い森に置き去りにしたくなる。だがこいつらには、俺たちの身代わりになって聖堂を壊す役目があるのだ。


「氷の刃よ」


 俺は小声でつぶやくと、イーヴォたちに近付くことなく彼らを縛っていた縄を切り刻んだ。


「なっ」


 多少は勉強して魔術のことを分かっているサムエレが、驚きの声を上げた。立ち上がって俺のところへ走り寄ってくる。


「あなたは―― 高名な賢者様とか――」


「いいえ、私は一介の侍女です」


 俺はいつもよりかなり高い作り声で答えると、くるりときびすを返した。


「なにかお礼をしたい……せめてお名前をうかがえませんか!?」。


「ジュリアです。お嬢様が馬車の中で待っていますから」


「待ってください、ジュリアさん!」


 サムエレが俺の腕をつかんだ。


 うっかり振り返ったとき、目があった。


 しまった――





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サムエレは銀髪ツインテ美少女の正体に気付くのか?

それともあえなく恋に落ちてしまうのか?

答えは次回!


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