11、ギフトが増えただと!?

 アンジェねえちゃんは、アメジストのように美しい瞳をまん丸に見開いて、鑑定用の水晶玉を見つめていた。


「ありえないわ…… 大人になってからギフトが増えるなんて!」


 今度はなんだ? と言わんばかりに、ギルドに残っている冒険者たちが首を伸ばす。すでに午後の日は傾き、そろそろギルドの扉も閉まる時間だ。お前ら用が終わったんならとっとと帰れよ……


「ジュキちゃん、ダンジョンで何があったの?」


「あとで説明するから先に教えてよ。どんなギフトが増えたの?」


 水晶にかざした手のひらが、まるでロウソクの上に差し伸べているかのように熱くなってくる。


 アンジェリカは心を落ち着けるように深呼吸すると、視線を水晶に落とした。


歌声魅了シンギングチャームレベル99に加えて、竜眼ドラゴンアイレベル65と水魔法アクアレベル99があらわれているの!」


 やけどしそうに熱いので、俺は手をひっこめた。


 うしろから冒険者たちのざわめきが聞こえる。


「あいつ、レベル99のギフトを二つも持ってるってことか?」


 アンジェリカはじーっと俺の目をのぞきこんで、


「ジュキちゃんの綺麗なエメラルドの瞳、何も変わってないように見えるんだけど、竜眼ドラゴンアイを手に入れたのよね――」


 胸の真ん中に新たな目が追加されたとは言えねえ。少なくともここでは。領都じゅうの見世物になっちまう。


竜眼ドラゴンアイってなにができんの?」


 ドラゴネッサばーちゃんは「魔力や瘴気の流れがえる」と言っていたが、ほかにも何か使いみちがあるのかもしれない。


「ちょっと待っててね」


 アンジェリカはうしろの本棚から分厚い本を持ってきた。布張りの表紙に「ギフト一覧A~E改訂版 魔術協会編」と金箔押しのタイトルが見える。


「D、D―― ドラゴン……」


 姉はぶつぶつ言いながら該当のページをひらき、


「目安としてはレベル10で暗闇でも目が利くようになって、レベル30で魔力感知ができて、レベル40で瘴気の流れが見えて、レベル50で魅了チャームが使える。レベル70で千里眼発動、レベル80で真実が見えて、レベル99でこの世の全てが見えるとか」


「最後のほうマジなの?」


「注釈に推定って書いてあるわ」


 魔術協会、いい加減なんだよ!


「まあまず授からないギフトだから情報がないのも仕方ないわね」


 そういうものか。


「さ、次は魔力値を測るわよ。ちゃんと手をかざして」


「なんかめっちゃ熱くなって嫌なんだけど……」


「もーう、ジュキちゃんたら繊細ね!」


 まじめに受け取ってくんねーし。俺は仏頂面したままもう一度グローブをはずし、水晶玉の上に手を伸ばした。


「えっ、ジュキちゃん!!」


 姉が甲高い声をあげる。


「魔力値がすっごい増えてるじゃない! 三万―― 違うわ、五万――」


 ゼロじゃなくなったことは自分でも予想していたが、いくつなのか気になるところだ。


「七万、八万―― まだ増えるの!?」


 ギャラリーがまわりを囲み、ギルドマスターのマウリツィオさんもやってきた。


「ねえちゃん、マジで手が熱い。限界――」


「ちょっとあったかいだけでしょ! すごいわ、九万――九万七千――」


 パリィィィィィン!


 耳に突き刺さるかのような高音が鳴り響いた。


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