第41話 俺たちのファクトリー

 アラン先生とコノハ先生は向かい合う。


「この授業が始まる前の忙しい時期に、〈ノアヴィス洞窟〉へ行く余裕があったのか?」


「いやぁ~、大変だったよ! かわいい生徒のために、寝る間も惜しんで行ってきたんだ。おかげで寝不足だよ」


 アラン先生はわざとらしく欠伸をする。


「コイツらに課した課題だぞ。お前が手伝っていいはずがないだろう」


 コノハ先生はまだ食い下がる。

 だがここで、ここまでずっと穏やかな調子だったアラン先生が初めて、威圧するような視線でコノハ先生を見た。


「それは通らないよコノハ。君が外部の協力を考慮していなかったのなら、君は彼ら生徒を危険指定区域に誘導したことになる。

……厳罰処分だ」


 コノハ先生の言葉が、ここでようやく止まった。


「――コノハ先生。この通り、私たちは正当な手段で“オーロラフルーツの種”を錬成しました。ファクトリーの顧問になってもらえますね?」


 一転、ヴィヴィが強気に出る。


 コノハ先生は「むぅ……」と顔をしかめた。


「ふんっ。まぁいいだろう」


 コノハ先生は不敵な笑みを浮かべる。



「お前たち4人の素性について、詳しく調べさせてもらった」



 ヴィヴィの顔が青くなる。

 ヴィヴィだけじゃない、フラムと、ジョシュアも険しい顔をした。


「……どいつもこいつも歪な生い立ちをしているな。各々が深い業を背負っている。お前ら欠陥品共が集まって何を造るのか、少しばかり興味はある」


 言葉1つ1つに性格の悪さがにじみ出ているな。

 なんだろう……コイツの話を聞いているとイライラする。俺はきっと、この男を本能的に嫌っている。


「暇つぶし程度にはなるだろう。ファクトリーの申請書をまとめたら、俺の研究所まで渡しにこい」


 そう言って、コノハ先生は研究室の出口へ向かう。


「……あまり僕の生徒をいじめないでね。また彼らを貶めるような真似をしたら、今度は怒るよ」

「もう俺のファクトリーの部下だろう? 口出し無用だ」


 コノハ先生の去り際、アラン先生とコノハ先生はそう小さく言葉を交わした。

 アラン先生がため息交じりに俺たちの方を振り返る。


「それで、“シャインアクア”を取りに危険指定区域に踏み込んだお馬鹿さんは、誰かな?」


 ジョシュアとフラムの視線が俺とヴィヴィに集中する。

 俺とヴィヴィは観念して手を挙げた。


「いつっ!?」

「いたいっ!!?」


 ガツン! ガツン! とアラン先生の鋼鉄のげんこつが俺とヴィヴィの脳天に叩きつけられた。

 あまりの痛みに悶え、跪く。ヴィヴィにいたっては涙目だ。


「まったく、今回は大目に見るけど、次同じような違反をしたら容赦なく処分するからね」


「「……はい」」


 アラン先生は懐から紙を3枚出す。


「これがファクトリーの申請書だよ。今日中に書いて、僕に渡してね。僕からコノハに渡しておくから。それと、ここはもう閉めるから、続きは教室でやってくれるかな?」


「わかりました。色々と助かりました、アラン先生」


 ヴィヴィが頭を下げる。俺たちも遅れて頭を下げた。


「大変なのはこれからだよ。ファクトリーを一から立ち上げ、維持するためには多くの困難がある。頑張ってね」


「「「「はい!」」」」


 良い担任のクラスになったと、改めて思った。



 ◆◇◆



 ラタトスク組の教室。

 俺たちはファクトリーの申請書を回し読みする。


「ファクトリーの名前、ファクトリーの顧問の名前と判子、ファクトリーのメンバーの名前および団長と副団長1人ずつ選出、ファクトリーの方針と最終目標」


 ジョシュアが申請書の内容を読み上げていく。


「とりあえずこの中で決まってねぇのはファクトリーの名前と団長と副団長、あとファクトリーの最終目標だな」


「1つずつ片付けていこう。まずはファクトリーの名前だな」


「単純に〈ゼネラルファクトリー〉じゃ駄目かしら?」


「えー、単純すぎねぇかな?」


 ヴィヴィの手元にある“オーロラフルーツの種”が視界に入った。


 そうだ、それなら――


「〈オーロラファクトリー〉っていうのはどうだ?」


「それも安直じゃねぇか?」


 ジョシュアは難色を示すが、ヴィヴィは「いえ……」と乗り気な表情を見せる。


「オーロラには様々な種類の色がある。ゼネラルストア……多くの種類の品物を売る私たちのファクトリーの名前としては、ピッタリかもしれないわ」


「私も賛成―っ! オーロラフルーツを看板商品にするんだし、わかりやすい方がいいと思います!」


「……言われてみりゃ、確かにな」


 全員が納得した。


「というわけで、ファクトリーの名前は〈オーロラファクトリー〉でいくわ」


 ヴィヴィが書類に書き込む。


「次に団長と副団長を決めましょう」


「団長はヴィヴィ嬢だろ」

「そうだね」

「異論なし」


「……私でいいの?」


「そもそもファクトリーを作ろうって言い出したのはお前だぜ。錬金術の腕も知識もこの中で一番だ。お前以外ありえない」


 俺が言うと、ヴィヴィは「わかった……」と書類に自身の名前を書き込む。


「次に副団長だけど……」


「それは団長であるヴィヴィ嬢が決めたらどうだ? ヴィヴィ嬢の側近になるわけだからな。ヴィヴィ嬢が一番信頼できる奴にしとけよ」


「そうね……」


 ヴィヴィはジョシュア、フラムの顔を順に見て、最後に俺に視線を合わせた。


「あなたに任せていいかしら」


「団長のご命令なら従いますよ」


「……じゃあ、副団長はイロハ君に任せる」


 ヴィヴィは書類に俺の名を書き込む。


「最後に最終目標ね」

「全ファクトリーで売り上げ№1! ってのはどうだ?」

「採用」


 ジョシュアの意見であっさりと決まった。まぁ、“賢者の石”を造りたいヴィヴィにとって、この最終目標は上っ面に過ぎないしな。


「これでOKね」


---ファクトリー申請書---



ファクトリー名

『オーロラファクトリー』


顧問

『コノハ=シロガネ』


団長

『ヴィヴィ=ロス=グランデ』


副団長

『イロハ=シロガネ』


団員1

『フラム=セイラー』


団員2

『ジョシュア=ベン=クロスフォース』


ファクトリー方針

『種類に依らず、様々な物を売るゼネラルストアを開く』


最終目標

『全ファクトリーで売り上げ1位』


------



 こうして、俺たちのファクトリー……〈オーロラファクトリー〉が結成した。

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