第40話 オーロラフルーツの種

 1日が過ぎて、ファクトリー登録期限前日。

 俺たち4人が訪れたのは〈モデルファクトリー〉の研究室だ。

 今日はファクトリーの活動がないらしく、〈モデルファクトリー〉にある錬金窯をアラン先生が貸してくれたのだ(ちなみにアラン先生の姿はない)。


 俺たちは“オーロラフルーツの種”(レプリカ)の素材をテーブルに並べる。


 “オーロラフルーツの種”の素材は7つ。


・赤の魔素水

・砂糖

・くるみ

・金糸粘土

・シャインアクア

・夢魔草

・ハートの実


 シャインアクア、夢魔草、ハートの実以外の4つはヴィヴィが用意しておいてくれた。


「イロハ君、手伝ってもらえる?」


「俺が手伝えることあるのか?」


合金液メタルポーションの色を見ていてほしいの。なにか変な色とか混じっていたら教えて」


「今のところは大丈夫だな。純粋な合金液メタルポーションの色だ」


 ヴィヴィは頷き、コノハ先生から受け取った本のレシピ通りに素材を投入していく。


 そして、20分後。

 ヴィヴィは全ての素材を投入し終えた。合金液メタルポーションの色は黄金色になっている。


「ジョシュア君、フラムさん。蓋を閉めて」


「了解!」

「せーのっ!」


 ジョシュアとフラムが2人で錬金窯の蓋を持ち、慎重に乗せる。


「それじゃ、いくわよ」


 ヴィヴィがマナドラフトに手を伸ばしていく。


 緊張が走る。

 ここまでかなり苦労した。ここで失敗すれば全てパーだ。それだけは避けたい。

 頼む、成功してくれ……!


――バチッ!! ガチャン!


 錬金窯から、極光が飛び出す。

 極光は天井で弾けて、オーロラを作り出した。


「オーロラ!? すっごい綺麗!」


「ええ、本当に……」


 女子2人がオーロラに見惚れた瞬間、筒からシャボン玉が飛び出した。


「来たぞ!」


 ジョシュアが指さす。

 シャボン玉の中には、4粒の種が入っている。緑色の種だ。――鮮やかな、エメラルドグリーン。 


 ヴィヴィは蓋のあいた小瓶を突き出し、シャボン玉に当てる。シャボン玉は割れ、中の種が小瓶の中に入った。


「本にある通りの形状と色……せ、成功よ!」


「よし!!」「よっしゃあ!!」「やったー!!!」


 俺たちは同時に叫ぶ。ジョシュアは勢いよく肩を組んできた。


「はははっ! 苦労した甲斐があったぜ!!」


「心臓ばっくばくだったよーっ!」


 笑い合うフラムとジョシュア。

 俺はヴィヴィと目を合わせる。俺が小さく笑いかけると、ヴィヴィも――クスりと


「……ほう。完成したのか」


 歓喜に震える俺たちの間に、その男は堂々と割り込んできた。



――コノハ=シロガネだ。



 横にはメイド、ラビィも居る。


「コノハ先生!? え、どうしてここに居るんですか!?」


 フラムが問う。


「アランの奴からここにお前らが居ると聞いたのでな」


「アンタ、よくもぬけぬけと……!」


 殴りかかろうとするジョシュアの肩を掴んで止める。


「やめとけジョシュア。もう終わった話だ」

「でもよ……!」


 俺が首を横に振ると、ジョシュアは拳を解いた。


「ちっ!」


 ヴィヴィがコノハ先生の前に立ち塞がる。


「約束通り、“オーロラフルーツの種”を錬成しました。これで、私たちのファクトリーの顧問になってくれますよね?」


「ふむ」


 コノハ先生は種をよく観察し、


「確かに完璧な仕上がりだな。しかし、1つ問いたい」


「なんでしょうか?」


「“オーロラフルーツの種”の素材の1つであるシャインアクアをどうやって手に入れた? アレは危険指定区域にあったはずだが?」


「!? それは……」


 俺とヴィヴィは苦い顔をする。俺と……多分ヴィヴィも、この急所は理解していた。正直に危険指定区域に入ったと言えば、最悪退学だ。

 やはりと言うか、この男は俺たちの顧問なんてやる気がないのだ。

 例え俺たちが“オーロラフルーツの種”を錬成できても、この切り返しで潰す気だったのだろう。本っ当に性格が悪い……。


 ジョシュアも奴の思惑に気づき、拳を握りしめる。

 フラムは目を左右に激しく泳がせている。


 ヴィヴィの顔を見る。必死になにかを思考しているようだが、言葉は出てこない。コノハ先生は嫌味ったらしく口角を上げている。


 どうする……考えろ……考えろ!


「もしもお前らが校則違反を犯していたのなら、校長に報告し処分を――」

「僕だよ」


 どう返すか悩んでいた俺たちに、思わぬ助け船が来た。


 アラン先生だ。


「アラン……!?」


「僕が行って採取してきたんだ」


 コノハ先生はアラン先生を睨みつける。


「貴様……」


 アラン先生はコノハ先生の睨みつけを笑顔で流す。




「どうしたんだいコノハ、文句があるなら聞くけど?」



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