第32話 空挺ダーツ③

「集計が終わりました! 選手の皆さんはステージ上に集まってください!」


 全52チーム中、12チームが転落して失格。

 残りの40チームがステージ上に並ぶ。


「よう一年コンビ! お前らのおかげで断トツで一位を取れたよ!」


 ジュラーク兄弟はわざわざ俺たちの隣に並んで嘲笑ってくる。

 まだ結果は発表されてないのに、一位を確信しているようだ。


「勝負は最後までわからないぜ」


 ジョシュアが言うと、弟のギギが「はぁ?」と眉をひそめた。


「決まってんだよ! 俺と兄さんは20のトリを2つ、19のトリを3つ、18のトリを1つだ。重複しない限り、まず負けはない!」


「そういうことだ。喰らったのも20のシングルが2つと19のダブルが1つだけだからな」


 それが本当なら、お前らの優勝だろうよ。


 、な。


「それでは結果を発表します! まず、第5位! 132ポイントで――」


 余裕の表情のジュラーク兄弟。

 息を呑む参加者たち。


 審判は声高に、第5位のチームを発表する。


「ガガ&ギギコンビ!!」


 一瞬、静寂が訪れた。



「「「…………は?」」」



 え? あのジュラーク兄弟が5位? と、参加者たちは動揺する。

 そして頭の整理がついた者から順に歓声を上げ始めた。


「うおおおおおおっっ!! マジか! 優勝候補筆頭が5位!」

「まだチャンスはあるぞ!」

「ははっ! ざまーみやがれ! 威張ってたクセによ!」


 この歓声の大きさは奴らの人望の無さに比例する。


「ど、どういうことだ……?」


「兄さん! なんで……俺たちが132ポイントのはずがない!」


「そうだ! 自己採点じゃ267点だったんだぞ!!」


 ジュラーク兄弟は審判の前に出る。


「おい! 審判、おかしいぞ! 俺たちのポイントは267点だったはずだ! 例え重複を喰らっててもこんなに低いはずがない!」


「な、なんだね君たち! 口の利き方に気をつけなさい!」


「うるせぇ! 得点表を見せやがれ!!」


 ガガが審判から得点表を奪い取り、目にする。


「なっ……!? ふざけんな!!」


 ガガは俺とジョシュアを指さす。


「なんで俺たちがアイツらにヒットさせたポイントがこんなに低いんだ! 1のトリプル、4のトリプル、7のトリプルだなんて、そんなはずないだろ!」


「厳正な審査の結果だよ。間違いはない」


「嘘つけ! それならアレだ、刺し直したに決まってる!」


「ダーツの先にはチームごとのインクが塗ってある。刺し直したら必ず跡が残る! それぐらい、何度も出場している君たちならわかってるだろ!」


「くっ……!?」


 審判に論破され、ジュラーク兄弟は引き下がる。


「みっともねぇぞ!」

「負けを認めやがれ!」


 罵声を浴びせられながらジュラーク兄弟は列に戻った。


「ゴホン。お騒がせして申し訳ありません、順位の続きを発表します。第4位! 150ポイントでライラ&トーカコンビ! 第3位、162ポイントでドルジ&ジャンコンビ! 第2位180ポイントでヒロト&カローナコンビ! そして第1位は……」


 俺とジョシュアは息を呑む。

 自己採点通りなら、優勝は――


「208ポイントでイロハ&ジョシュアコンビ! た、大会初出場の一年生コンビが優勝ですーっ!!」


 わああああああああっっっ!!! と歓声が上がる。

 ジョシュアが肩を組んできて、ガッツポーズをした。俺も合わせてガッツポーズする。


「よっしゃあ! やったぜ!!」

「……これでヴィヴィに怒られずに済むな」


「優勝した2人にはダーツの道具一式とトロフィー、そして“ハートの実”が贈られます!」


 先輩方が寄ってきて、頭を撫でてきたり握手してきたりする。あの兄弟、どんだけ嫌われてたんだ……。


 こうして、大歓声のもと、“空挺ダーツ”は幕を閉じた。



 ◇◆◇



 ネタバラシをしよう。

 俺はあらかじめ、ダーツボードを“虹の筆”で塗色していたのだ。上から塗り、ボードの数字と色を反時計回りに1つズラして見せたのだ。


 つまり、奴らに20に見えていた場所は本来1の場所。18は4、19は7。


 唯一ブル、ど真ん中だけは何も細工をしていなかったので、ここを突かれると誤魔化せない。ジュラーク兄弟がいなくなった後、別のチームにど真ん中を決められてしまった時は本気で焦った。その後は被弾せずに乗り切れたからギリギリ優勝できたけどな。


 下に降りる直前で“虹の筆”のインクを解除。元の数字に戻る。結果、ジュラーク兄弟のダーツは全て低得点の所に刺さっていたというわけだ。


「まったく、お前の能力には恐れ入るよ」


 俺とジョシュアはいま、フラムとヴィヴィとの待ち合わせ場所である図書館に向かっている。


「俺の力じゃない、“虹の筆”の力だよ。“虹の筆”があれば誰だってできる芸当だ」


「バーカ。なわけないだろ」


 ジョシュアは呆れ気味にため息を漏らした。


「俺が“虹の筆”を使ってもあそこまで完璧な上塗りはできない。試合前、ダーツボードを見慣れているはずの審判がお前の細工したダーツボードをチェックしても異変に気付かなかった。それだけ完璧なデザインの再現だったってことだ」


「……審判が節穴だっただけだよ」


「謙遜すんな。“虹の筆”は確かにすげぇけど、それ単体じゃ別に怖いモンじゃない。だけどそこに、お前のような色彩能力者の力が重なると、恐ろしい武器になる。いや、色彩能力だけでも駄目だ。見たモノをそのまま模写できるだけの絵の上手さもないとな。

 他の誰でもない……“虹の筆”を使うから強力なんだ」


 ジョシュアは目の下に、汗をかいていた。

 褒めてくれているが……同時に恐怖を抱いている様子だった。


 ジョシュアは少し、“虹の筆”と俺のこと買いかぶっている。


 俺たちはそこまでの存在じゃない。

 操れるのは色だけだ。何物も斬れないし、何物も砕けない。攻撃をガードすることもできない。ただ、好きな色を作れるだけ。怖がる必要はない……俺たちは目を騙すことしかできない、矮小な存在だよ。

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