第31話 空挺ダーツ②

 大会の日が来た。

 俺とジョシュアは〈ランティス競技場〉に“空挺ダーツ”の競技服(兜と鎧)を着てやってきた。

 朝の9時。太陽が照り輝く中、鎧は暑い。そしてこの熱気……もっとマイナーな大会だと思っていたのに、300を超える観客席は全て埋まっていた。


 ステージの上に居る生徒の数は100はいる。チームにして50は下らないだろう。


「思ったよりガチな空気だな……」


「いーねー! いーねー! 女子がいっぱいるねぇ!」


 2人で人混みを縫って歩いていく。

 しかし、いきなり正面の人だかりが散っていった。ある二人組が現れたからだ。


――ジュラーク兄弟だ。


 奴らはまっすぐ俺たちの前まで歩いてくる。


「よう! お前らこの大会唯一の一年坊コンビだろ?」


「やったね兄さん! こいつらカモにすれば、今回も簡単に優勝できるよ!」


 兄さんと呼ばれたのはガタイがいいが身長は低めの男。こっちがガガで、もう片方のひょろ長い方が弟のギギなのだろう。


「おーい! 他の奴らよーく聞け! こいつらは俺たちの獲物カモだ! 手を出したら狙い撃ちにするぞ!」


 ガガが他のチームを牽制する。

 俺はガガに感謝した。とてもだ。


「そんな、勘弁してくださいよ。俺たち初心者なんですから」


 肩を震わせ、弱々しい声で俺が言うと、ガガはニターッと笑って「嫌だね」と言った。勝利を確信している目だ。

 ジュラーク兄弟は高笑いしながら去っていった。


「くっくっく! ありゃカモだな」


 ジョシュアが耳元で言う。


「ああ、カモだ」


 俺とジョシュアは顔を見合わせて笑った。



 ◇◆◇



 全員が空挺に乗り込む。

 流れ弾を防ぐためか、透明な壁(ジョシュア曰く結界)が地面からせり上がって観客席の前に設置された。

 ステージに唯一立つは審判を務める教員だ。


「皆様お集まりいただき、誠にありがとうございます!」


 審判は青白い貝殻を口に寄せ、喋る。その貝殻の効果か、教員の声は競技場全域に反響する。


「これより“空挺ダーツ”を開始いたします! 優勝賞品はこれです!」


 審判はガラスケースを上に掲げる。

 ガラスケースの中にはピンク色のハートの形をした果物が入っていた。


 ジョシュアはその果物を見て、口を開く。


「アレが……」


 俺は頷き、


「“ハートの実”だ……!」


 俺たちが求める物だ。


「その名も“ハートの実”! “ハートの実”を全て平らげれば、一週間寝ずに働けるようになる……という噂があります! 労働大好き人間にはたまらない代物です!!」


 審判は“ハートの実”の紹介を終えると、係員の生徒にガラスケースを渡し、笛を手に持った。


「全員準備はいいですね? それでは、“空挺ダーツ”……スタートだぁ!!!」


 笛の音が響き、全員が一斉に動き出す。


「空挺から落ちたら一発アウトだ。気を付けろよイロハ!!」


「わかってるよ!」


 高く飛び上がり、ハエのごとく飛び交う空挺たち。中には激突事故を起こして転落するチームもある。


「見つけたぜヒヨコちゃん!!」


 ガガの声が後ろから聞こえた。


「ちっ!」


 俺は振り切ろうと“風神丸”を加速させるが、一発、トン……と背中のダーツボードにダーツを突き刺された。


「へいへい! まず20のトリプル頂き!!」


 声からして大分遠いのに、よく当てられるな……!


「イロハ! 後ろは気にするな。あのマグカップ型の空挺の後ろにつけ!」


「わかった!」


 俺は言われた通りにマグカップ型の空挺に狙いを定める。相手は他のチームを追っていて、こっちに気づいてない。


 ジョシュアがゆっくりと狙いを定めて、ダーツを放った。


――ど真ん中にヒットした!


「よっしゃブルいただき!」

「ナイスだジョシュア!」


「おいおい一年坊! 隙だらけだぜ!」


 また一発、俺の背負ったダーツボードにダーツが当たった。


「19のトリプル頂き!」


「気にするな! 次は本の形した空挺だ!」


 ジョシュアの言う通りに動く。

 しかし相手もこっちに気づいて、逃走する。


「もっと近づいてくれ! 20のトリプルを狙いたい!」

「わかった!」


 “風神丸”に全力のマナを込め、加速する。

 ジョシュアが銃を構え、撃った。


――20のトリプルにヒットした。


 しかし同時に、俺の背負ったダーツボードにも矢が刺さった。


「18のトリプル!」

「さっすが兄さん! これで優勝確実だよ!」

「もうお前らに用はねぇ! ポイントありがとな!」


 ジュラーク兄弟の声が遠くなっていく。どうやら去ってくれたようだ。


「ふーっ、良かったな。ど真ん中は喰らわなくて」


「まぁな。アイツらが欲深くて助かったよ。これであのチームに優勝の目はなくなった……」


「後はオレたちが点を取るだけだな!」


「頼むぞジョシュア。ここからはお前が頼りだ!」


「わかってら!」


 それから20のシングル、18のトリプル、ブル、20のトリプルにダーツを刺すことができた。

 合計で294ポイント獲得した。ジョシュア曰く、かなり高得点だそうだ。あとはどれだけ引かれるかだな……。

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