第30話 空挺ダーツ①

「でっけぇな。ここが〈ランティス競技場〉か」


 目の前の巨大施設を見上げて俺は言う。

 天井がない円形の建物だ。


「ほれ、とっとと行くぞ。時間が惜しい。あそこが受付かな?」


 女性陣と別れた俺とジョシュアは〈ランティス城下町〉の西側、海に近い所にある〈ランティス競技場〉に来た。入口では明日おこなわれる“空挺ダーツ”の受付をしている。


 俺とジョシュアはささっと登録を済ませた。生徒手帳を見せるだけで簡単に登録完了だ。フーカが言っていたように、そんなガチな大会じゃなさそうだ。


「はい。これでイロハさんとジョシュアさんの登録が完了しました」


 そう言って受付の女子生徒は書類に判子を押した。制服のサブカラーが黄色なので上級生だろう(1年生は赤)。


「お姉さん、今日って競技場は開放してるんですか?」


 ジョシュアが聞く。


「はい。今日は大会を開催していないので自由に使って大丈夫ですよ」


「ラッキー! イロハ、先に入ってろ。俺は一度帰って“風神丸”をもってくる」


「わかった」


 ジョシュアと一旦別れ、1人で中に入る。


 競技場の中心にはステージのようなモノがあり、その周囲を囲むように座席がある。

 空挺に乗って飛び回る生徒や、銃を構えてダーツを発射し、設置された的に的中させる生徒の姿が多く見える。間違いなく、明日の“空挺ダーツ”の参加者たちだろう。


 ジョシュアが来るまで暇だし、他の参加者たちの動きを観察するか。


 1つの空挺に2人で乗り込み、縦横無尽に空を飛び回る。あの速度で動く相手にダーツを当てるのは難しそうだな。

 ダーツ銃の見た目は普通の拳銃と大きな違いはない、通常の銃より色がファンキーでカラフルってだけだ。発射されるダーツの速度は凄まじく、気づいたら的に刺さってる。見て躱すのは無理だろうな。


「お待たせ!」


 ジョシュアが来た。脇には丸めた“風神丸”、手には大きな麻袋を持っている。


「“風神丸”と道具一式借りてきた」


 ジョシュアが麻袋を開いて中を見せてくる。

 麻袋の中には鎧や兜、ダーツボード、ダーツ銃が入っていた。


「この鎧は“空挺ダーツ”の競技服か?」


「そうだ。できるだけ実戦に近い形で空挺に乗った方が良いと思ってな」


「同意見だ。着替えよう」


 “空挺ダーツ”の衣装である鎧と兜を装着する。なんてことない普通の鎧と兜だ。正直ダサい。


「これ、ダーツボードはどうやって背負うんだ?」


「中に磁石が入ってるから、鎧に近づければくっつくぜ」


 ジョシュアの手を借りて背中にダーツボードをくっ付ける。


 うん、あまり重くはないな。


 ジョシュアも鎧姿になる。物凄く似合ってない。

 ジョシュアが“風神丸”を広げた。

 俺は“風神丸”の上に乗り込む。


「まずは1人で飛び上がってみな。ほら、そこにマナドラフトがあるだろ?」


 ホントだ。手形……マナドラフトが一つある。


 マナドラフトに右手を合わせ、マナを注入すると、一瞬で“風神丸”が浮かんだ。


「おっとと!」


「マナドラフトから“風神丸”へマナとイメージを引っ張り込んでくれる。お前のイメージ通りに“風神丸”は動くはずだ」


「コイツはいいな! 思ったより、簡単に動かせる!」


 右へ、左へ、上へ、下へ。自由気ままにイメージ通りに動いてくれる。

 ただあまり無茶なイメージをすると静止してしまうようだ。気を付けないとな。


「よしよし。コツは掴んだ。ジョシュア、お前も乗っていいぞ」


「……おいおい、まだ10分も経ってねぇのに……恐ろしい奴」


 ジョシュアも“風神丸”に乗せ、飛び上がる。

 少し動きが重くなったが、問題なく動かせる。


「おーっ! いいねぇ! 揺れも少ない。これなら安定して的を狙える」


「あとはもうちょいスピードが出せれば……」


「――!? イロハ! 上だ!!」


 ジョシュアの声の誘導で空を見上げる。真上から――鉄の塊が降下してきた。


「あぶねっ!!」


 俺は全速で空挺を飛ばし、回避する。

 襲ってきたのは船のような形をした空挺だ。空挺に乗っている2人の男子生徒はバカにした目つきで笑っていた。


「悪い悪い! ちっこくて見えなかったぜ!」


「でもお前らが悪いんだぜ? 俺達の縄張りに勝手に入ってくるんだからよ!」


 嘲笑と一緒に船型の空挺は去っていく。


「なんだあの野郎ども!」


 ジョシュアは怒りを露わにする。


「君たち! そっちは危ないよ! ジュラーク兄弟の領域だ」


 遠くから、箒型の空挺に乗った男子生徒が注意してくる。

 俺は注意してきた男子生徒(制服のサブカラーが青いから先輩だろう)に近づく。


「ジュラーク兄弟って、アイツらのことですか?」


 遠くで暴れている船型空挺に視線を向けて言う。


「そうだよ。君たちは一年生か、なら知らなくても無理はないね」


「有名人なんですか?」


「……アイツらは“空挺ダーツ”のスペシャリストなんだ。最近の大会はアイツらの無双状態だよ。二学年“コントローラー”のギギと三学年の“シューター”ガガ。アイツらに逆らうと大会で狙い撃ちにされるから、誰も注意できないんだ」


「けっ! いけすかねぇな! あんな奴ら、二人まとめてボコボコに――」


「やめとけジョシュア。大会の前に揉め事はなしだ。おとなしく別の場所で練習しよう」


「……ちっ!」


 それからジュラーク兄弟の縄張り外で練習を積んだ。

 日が暮れたところで引き上げる。


「スゲーなイロハ、もう俺より“風神丸”の扱いが上手くなってら」


 ジョシュアと2人、帰り道を歩いていく。


「後はお前の銃の腕次第だな」


「そこの心配はいらない。同世代の連中に武具の扱いで負ける気がしないね」


 ジョシュアは狩りが生活の一環だと言っていたし、事実ハルバードの扱いも凄かった。ダーツ銃も軽く試し撃ちしていたけど、全部狙ったところに飛んでいた。……武器の手慣れ感が別格だ。こと戦闘に関しては同世代の人間じゃ太刀打ちできないかもしれない。


「お前の操縦の腕にオレの銃の腕があれば、普通にやっても上位を狙えると思うぞ」


「そこに俺の作戦がハマれば、トップは十分狙えるか」


「そういうことだ。明日は絶対勝とうぜ!」


「“ハートの実”のためにもな」


「それだけじゃねぇ。大会で目立てれば女子にモテる!」


 結局お前はそれか……やる気を出してくれるんなら動機はなんでもいいけどさ。

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