第23話 四季森の冒険②

 一番戦闘経験が豊富なジョシュアが先頭を歩く。

 そして俺が一番後ろを歩き、女子2人は真ん中で並んで歩いている。


 男子2人で女子2人を挟み、守る陣形だ。


「……」

「……」

「……」


 俺、ヴィヴィ、フラムの3人の顔には緊張が走っていた。

 魔物、つまりは怪物だ。怪物と戦うのなんか怖くて当然。魔物と出会わず、コノハ研究所まで行けることを願うばかりだ。


「お、早速おでましだ」


 しかし、そんな甘い願いは神様は通してくれない。

 狼のうめき声が木の影から聞こえた。


「イロハ! 前に来い!」


「お、おう!」


 俺は剣を抜き、ジョシュアと並ぶ。

 全員が武器を抜いたところで、木の影から4足歩行の獣が二匹現れた。


 一本角の狼だ。


「ユニウルフね」


 ヴィヴィがその名を口にした。


「すばしっこいが大したことはない。角にだけ気をつけろ! イロハ、お前は左のやつを頼む!」


「善処するが、期待はするなよ!」


 ジョシュアが右のユニウルフを担当し、俺は左のユニウルフを担当する。


 飛びかかってくるユニウルフ。角に剣を合わせ、受け流す。角に自信があるのか、何度も角を振って攻撃してくるユニウルフ。俺はひたすら角に合わせて剣を振る。後手後手だが、なんとか捌けている。剣が軽いおかげだな。


 時間は稼げるが攻撃に移行するのは難しい。早く援護が欲しいところだ。


「イロハ! 距離を取って!」


 フラムの声。

 俺は強めに剣を薙ぎ、ユニウルフの角を弾いて怯ませ、その間に後ろへ飛ぶ。すると2つのチャクラムが背後から飛んできて、ユニウルフの両脚を削った。攻撃を終えたチャクラムはフラムの手元に戻っていく。


雷錬成らいれんせい! 【アギド】ッ!!」


 怯んだユニウルフに、天から雷が落ちる。ヴィヴィが放ったものだ。

 ヴィヴィの雷撃によりユニウルフは全身丸焦げにして息絶えた。


「オラァ!」


 同時に、ジョシュアがハルバードでユニウルフを一刀両断にした。

 戦闘終了だ。


「ぷはぁ! 疲れた!」


 ついその場にへたり込む。


「やるじゃねぇかイロハ。初めて剣を握ったにしちゃ、良い剣さばきだった。ちゃんとした師がつけば良い線いくぜ、お前」


「あの戦闘の中、俺の剣捌きを見る余裕があったのかよ……」


「さすがだねジョシュア! 1人でユニウルフを倒しちゃうなんて!」


「ええ。見事な戦いぶりだったわ」


「だっはっは! もっと褒めてくれていいぞ女子諸君!」


 ヴィヴィとフラムの称賛を受けて、ジョシュアは上機嫌になった。

 ヴィヴィとフラムの2人はユニウルフの死体に近づく。


「ユニウルフの角は食器に使えるわね。皮は毛布に使えそう」


「お肉は美味しいのかな?」


 普通の女子は、あんな化物の死体に嬉々として近づかない。でもあの2人は楽しそうに見物し、解体を始めた。


「イロハ君。あなたはどこの部位が欲しいの?」


「え!? あ、えっと……毛皮は……欲しいかな」


 目の前の光景に戸惑う俺を無視して、ヴィヴィはポーチからナイフを出して毛皮を剥ぎ取り出した。


「錬金術師ってのはみんなあんな感じなのか?」


「当然だろ。錬金術やってりゃ、動物の死体なんて飽きるほど見ることになるぜ」


 ジョシュアはこの光景にまったく驚いていない。

 これが錬金術師の世界か……。


「オレは肉くれ~。今日の飯にする」


 それぞれがポーチに剥ぎ取った素材を入れていく。


「なぁ、お前らの持ってるそのポーチなんなんだ? なんでそんないっぱい物を入れられる?」


「なんだお前、“ストレージポーチ”も知らないのか?」


「だから、なんなんだそりゃ? 錬金術師の間じゃ常識的アイテムなのかもしれないが、俺は一切聞いたことない」


「“ストレージポーチ”はね、中に入れた物を縮小してくれるポーチなんだよ! 私のやつはおばあちゃんのお下がりなんだ!」


「採取には欠かせない、錬金術師必携のアイテムよ」


「ほれ、俺の予備のやつやるよ」


 ジョシュアが少しボロい“ストレージポーチ”をくれた。

 俺は受け取った毛皮を丸めてポーチに突っ込む。普通なら入りきらないはずだが、毛皮はあっさりと入った。


 ポーチの中を覗き見ると、コイン並みに小さくなった毛皮があった。その毛皮を引っ張り出すと、ポーチの口を経過した時点で元の大きさになった。逆に押し込むと、ポーチの口を境目に毛皮が縮んでいく。


「……こいつは便利だな」


「剥ぎ取りも終わったし、ドンドン進もう。血の匂いで魔物が集まってくる前にな」


 暫く森の中を歩いてく。魔物の気配はあまりしない。


「あともう少しで研究所ね」


 ヴィヴィが言う。


「それにしても……異様に魔物の姿が見えないわ」


「……嫌な感じだな。もしかしたら大型モンスターのテリトリーなのかもしれん」


 ヴィヴィとジョシュアが警戒を強める。

 俺はふと、正面に見える大木に目を留めた。


「……?」


 形は、他の木と同じ。だけど、



「……止まれ!!」



 俺は大声で全員の足を止めさせる。


「ななななに!? イロハ!」

「そこの、他のと色が違う! なにか変だ!」


 この〈四季森〉の木の葉は時間が経つにつれ、色味が変わっていく。今はピンクだが、徐々に緑――夏の木の色に変わっているのだ。


 だが、正面の木は、それがない。葉の色がピンクのままで、緑の色素を感じない。

 幹の色の流れも他と微妙にだが違う。


「おいおい、まさか!」


 ジョシュアがなにかに勘づいた時だった。


――大木の枝が、鞭のようにしなった。


「まずいっ! 下がれ!」


 ジョシュアが叫ぶ。


 木の枝が叩きつけられる。その攻撃範囲はヴィヴィやフラムの所まで届く。

 ジョシュア、ヴィヴィ、フラムは思いっきり後ろに飛んで木の枝を回避した。


「なんだ、コイツ……!」


 大木に真っ黒な目と口ができて、自由自在に枝が動き出す。根が地面から飛び出て、足のように動き、大木は移動しだした。


「トレントよ!」


 トレント――それがこの化物の名前のようだ。

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