第22話 四季森の冒険①

「待たせたな!」


 ジョシュアが家から出てきた。

 背中には長斧、ハルバードを背負っている。ハルバードの色はストロングメタルの色によく似た銀色だ。


「森に行くんだろ? 一応、武器は持ってた方がいいよな」


「ああ、今日行くとこには魔物が居るからな。武器は必須だ」


「はぁ? 魔物? そんな危険な場所にピクニックに行くのかよ」


 俺は改めてジョシュアに事情を説明する。


「……へぇ、コノハさんに会いに行くのか。あんまり良い噂を聞かない人だぜ」


 ヴィヴィと同じ反応だな。


「つーかお前! ファミリーネームがシロガネってことは、コノハさんやアゲハさんの親族じゃねぇのか?」


「俺はアゲハ=シロガネの養子だ。コノハって人と面識はない」


「養子!? ……じゃあ血のつながりはねぇのか」


「まぁな」


 だから正直な話、コノハという人物は俺にとっては赤の他人に等しい。


「その男があなたの『あて』なの?」


 ヴィヴィが俺の背後から前に出てくる。

 ヴィヴィの姿を確認すると、ジョシュアはキリッと顔を引き締めた。


「はじめましてヴィヴィ嬢。俺はジョシュアだ、よろしくな」


「……?」


 ヴィヴィはジョシュアをジッと見て、小さく首を傾げた。


「あなた……どこかで会ったことない?」


「いいや、ないと思うぜ」


「本当に?」


「ヴィヴィ嬢のような美人、見たら絶対忘れないって」


「……そう。私の勘違いみたいね」


 美人と言われて照れも謙遜もしないところがヴィヴィらしい。


「ジョシュアおはよーっ!」


 フラムがひまわりのような笑顔で挨拶する。


「お! 今日も元気いっぱいだなフラム嬢!」


「これで戦力は十分だろ。そろそろ行こう」


 俺、ヴィヴィ、フラム、ジョシュア。4人で〈四季森〉へ向かう。



 ◇◆◇



「ここが〈四季森〉……」


「さ、寒いよぉ~!」


 森の前、俺とフラムは凍える風に吹かれ、ぶるぶると体を震わせていた。

 森の木々に生えた葉はどれも白い。


「どういうことだ? 今は春だろうに」


 ジョシュアが質問を投げる。


「〈四季森〉は一時間ごとに季節が変わるのよ。ランダムにね」


「……またおかしなモンが出てきたな」


「じゃあ今は冬ってことか。ヴィヴィ嬢、博識~!」


「ん?」


 俺は木の葉の色に違和感を覚えた。


「なぁヴィヴィ。木の葉の色がかすかにだが、ピンク色に変わっていってる気がする」


「本当? 私には変わらず白にしか見えないけれど」


 ヴィヴィは俺の目を見て、納得したように頷いた。


「……あなたが言ってることが事実なら、次に来る季節は春かもしれないわ」


「どうしてわかるの?」


「〈四季森〉の木の葉の色は季節ごとに変わる。春ならピンク、夏なら緑、秋なら赤、冬なら白……といった風にね」


「駄目だ。俺にもただの白にしか見えねぇよ」


「私も~」


「よくわかるな、イロハ」


 そういや2人には俺が色彩能力者とは言ってなかったな。


「俺は生まれつき、色には敏感なんだ。――なぁヴィヴィ、冬に〈四季森〉に入るより、春に変わってから入った方が楽じゃないか?」


「……そうね。今は7時50分。あと10分で季節が変わる。待った方が得策ね」


 10分間の休憩タイム。

 話題はジョシュアに向いた。


「ねぇ、ジョシュアって魔物との戦闘経験あるの?」


「あるぜ。戦闘経験は豊富な方だ。フラム嬢もヴィヴィ嬢も頼ってくれていいからな!」


「頼りにしてるぞ、ジョシュア」


「お前は1人で頑張れ!」


「ハルバードが武器ってことは、あなたは前衛ってことでいいのよね?」


「もちろんだ!」


「それなら前衛2人、後衛2人になってバランスが良いわ」


 それからそれぞれの戦闘能力について情報交換をした。


「そういやお前、あの空飛ぶカーペットは持ってきてないのか? アレがあれば上空から安全にコノハ研究所へ行けるだろ」


「“風神丸”はいま洗濯して乾かしているところだ。それに魔物が住んでるところで空を飛ぶのは危険が多い」


「どうして?」


「火を吐いたり、武器を投げたりする魔物も居る。空を飛べば格好の的になるってわけ」


 ヴィヴィが説明した。


「なるほどな~」


「あ、そろそろ時間だね」


 8時になる。

 木の葉の色が白からピンク色に変わり、春の暖風が肌を撫でた。


「本当にピンク色になったね……」

「桜に似た色だな」

「ふー、あったけぇ。春を感じるぜ」


「そんじゃ、行くか。ヴィヴィ」


「ええ。気を引き締めて行くわよ」

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