第20話 クリスタルエッジ

 ヴィヴィとフラムは早々に素材を選んで出て行った。

 俺は廃材の山の前で、悩む。


――まずは武器種を決めなくては。


 遠距離系の武器……弓、ボウガン。この辺は構造が複雑そうで、知識のない俺じゃ作れる気がしない。


 片手は空けておきたい。

 武器を持った状態でも“虹の筆”を抜けるようにしたいのだ。アレは戦闘でも使いようによっては役に立つ。両手で扱う槍とか槌はダメだな。


 だとしたら、やっぱり剣になるか。片手剣にしよう。

 次に素材だな。


・ストロングメタル……耐久性に優れた金属。

・ブレイズメタル……発熱作用のある金属。

・バッテリーメタル……発電作用のある金属。

・ライトメタル……軽い金属。


 この4択。


 ブレイズメタルとバッテリーメタルは面白そうだけど扱いが難しそうだ。

 そうなるとストロングメタルかライトメタル……耐久性を取るか、軽量性を取るか。

 試しにストロングメタルで出来た腕とライトメタルで出来た腕を手に持って重さを比べてみる。


 ……うわ、凄いな。


 ストロングメタルはズッシリとくるが、ライトメタルは木製の物と勘違いするぐらい軽い。重さで言うとライトメタルよりストロングメタルの方が3倍重い。


 次に耐久性。ライトメタルで出来た義肢はどれもすでにボロボロに劣化している。だが、ストロングメタルで出来た義肢はそこまで壊れていない。これが耐久性の差なのだろう。


 しかし……やっぱり、片手剣だしな。軽い方がいいか。ライトメタルにしよう。


 えーっと、一番品質がよさそうな色のライトメタルは、あの山のてっぺんにあるやつだな。多分捨てられてから日が経ってない。


 山を慎重にのぼり、一番良い色のライトメタル製義腕を手に取る。1つで片手剣ぐらいの大きさならできると思うが、念のため2つ持って行こう。


 あとは鞘用の木製品、肩掛けベルト用の革製品を持って行く。


「決まったかい?」


 アラン先生は俺の腕にある素材を顔を近づけて観察する。


「……選んだのはライトメタルか。いやそれよりも、君が選んだ物は全て品質が良いね」


「適当に色の良い物を選んだだけです」


「――!? そうか、君もアゲハ先生と同じ眼を。これは余計にコノハと揉めそうだな……」


「?」


「いいやすまない。余計な話だったね。

――うん、君ならもしかしたら……」


 アラン先生は棚から二枚の薄っぺらい紙を取り出した。


「それは?」


「写真というモノだよ。カメラっていう目の前の景色をそのまま模写できる錬成物があってね、これはそのカメラで模写した絵……って感じかな」


 アラン先生は紙を見せてくる。

 凄いな……錬金窯の絵だ。そのまんま、見たまんま描いた感じだな。

 高次元な模写と見ればいいのだろうか。


 写真は2枚。どちらも窯の中にある合金液メタルポーションを写している。

 合金液メタルポーションの色はどっちも水色だ。


「この写真の窯にはどっちにも同じ素材を投入している。ストロングメタルとライトメタルだ」


「そういえば、考えても無かったけど、その2つを同時に入れて剣を作るとどうなるんですか?」


「どうなると思う?」


 質問返し。めんどくさいな……。


「……軽くもなく、強くもない、どっちつかずの性能になると思います」


「うん。失敗するとそうなる。けどね、成功すると軽くて強い剣が出来上がるんだ。

 僕が右手に持っている写真は成功した時の窯の写真。左手に持ってるのは失敗した時の窯の写真だよ。この2枚の写真にある合金液(メタルポーション)の色の違いが……君にはわかるんじゃないかな?」


「わかります」


 即答する。

 微かだが、右の方が鮮やかだ。


「さすが」


 アラン先生は笑って、右手に持った写真をくれた。


「ストロングメタルとライトメタルを合わせ、作り上げた剣を“クリスタルエッジ”と呼ぶ。とても綺麗な色の剣だ。ぜひとも挑戦してみてくれ」


「わかりました。やってみます」


 そうだ。聞きたいことが1つあったんだ。


「ところで先生、俺、錬金窯持ってないんですけど、どうやって錬成すればいいですかね。合成でやる手もありますけど」


「武具は合成で作るのはちょっともったいないね。君の机に小さな錬金窯が置いてあったでしょ?」


「ああ、そういえば」


 クラス全員の机の上にちっこい窯があったな。


「解体して入れればあの窯でも武具を錬成できると思うよ」


「でも合金液メタルポーションがありません」


合金液メタルポーションしか出ないポンプが、校内の至るところにあるから探すといいよ。ウチのクラスの前にもあったはずだ」


「わかりました。失礼します」


「あ! ちょっと待った!」


 アラン先生は工具入れからハンマーを出し、なぜか差し出してきた。


「はい。きっと必要になるから」


 言葉の意味はよくわからないが、とりあえず頭を下げ、ストロングメタルを回収した後〈モデルファクトリー〉の研究室から出た。



 ◇◆◇



 アラン先生に言われた通り、教室の錬金窯を取りに行き、教室の前にあるポンプから合金液メタルポーションを入れた。

 教室で1人、錬金術の準備を始める。


 錬金術を使うのは“虹の筆”以来だな……。


 まず義腕を解体しようとするが……めちゃくちゃ硬くて解体できない。


「あー、ここで使うのか」


 アラン先生に持たされたハンマーでライトメタル製義腕とストロングメタル製義腕を解体する。ライトメタルは簡単に解体できたが、ストロングメタルは中々手ごわかった。……手が痛い。

 細かくした2種の金属を、合金液メタルポーションの色を気にしながら投入していく。


 青味が強い。ストロングメタルを入れよう。

 色がくすんだ。ライトメタルを入れて調整。

 細かく調整しつつ、30分ぐらいで写真通りの色にできた。


「よし、完璧。

――錬成、と」


 小さい方の錬金窯は蓋ではなく窯本体に手形、マナドラフトが付いている。そのマナドラフトに手を合わせ、錬成を開始。


――バチッ! ゴオォン!!


 懐かしい音と一緒に、光が弾けてシャボン玉が飛び出た。

 ユラユラとシャボン玉に包まれた剣がおりてくる。剣の柄に手を伸ばす。シャボン玉は触れた瞬間になくなり、剣が手に落ちた。


……綺麗な刀身だ。


 透明感のある水色。青い海に水晶を沈めたら、きっとこんな色になるのだろう。

 なるほど、“クリスタルエッジ”と呼ばれる理由がわかる。


 剣を手にとり、軽く振り回してみる。

 

「軽い軽い……片手で余裕で振り回せる!」


 さて、


「後は鞘だな」


 肩掛けベルト用に革製品を入れて、木製品と、鞘の先端に剣先止めの金属を付けたいためライトメタル製義腕の欠片を入れて、錬成。


 鞘も完璧なサイズで出て来た。ベルトの長さもベスト。

 あとは“虹の筆”で全体的に彩色して、完成。


 イロハ=シロガネの初の武器、“クリスタルエッジ”の完成だ。

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