第18話 モデルファクトリー

「ファクトリーを――」

「作るだと?」


「ええ、そうよ」


 ヴィヴィは俺の目をジッと見てくる。


「昨日言ったでしょ、私の目的」


「ああ。“賢者の石”の錬成だろ?」


「そうよ。私は“賢者の石”を目指すファクトリーを作る。既存のファクトリーに“賢者の石”を目標としたファクトリーはなかったから」


「で、でもファクトリーってそんな簡単に作れるの?」


「さぁ。これからアラン先生にファクトリーを作る方法を聞きに行くつもりよ」


 フラムは両手を合わせ、


「ファクトリーを作るって面白そうだねーっ! ねぇイロハ、私たちもついて行ってみようよ!」


「そうだな。アラン先生には俺も聞きたいことがあるし、ついてくよ」


「勝手にしなさい」


 そういうわけで、俺とヴィヴィとフラムの3人でアラン先生が居る〈モデルファクトリー〉の研究所に向かう。




 ◇◆◇



 校舎の南廊下。

 そこに〈モデルファクトリー〉の研究所はある。


「ここか」

「ここね」


 鉄製の両開きドア。色から油が染み込んでいるのがわかる。


 中に入る。


 部屋の中には20人ほどの生徒が居た。十数人の生徒が窯に向かっており、残りの生徒は窯ではなく工具を手に義肢を改造していた。


「ようこそ〈モデルファクトリー〉へ。このファクトリーではおもに義肢の開発をしているよ」


 アラン先生が俺たちの前に出てきて言った。


「アラン先生! こんにちは~!」


「こんにちは、フラムさん」


「凄いですね。展示されている義肢はどれも、高度な素材、高度な技術で作られている……」


 ヴィヴィが珍しく、素直に称賛した。


「そりゃ売り物だし、手は抜けないよ」


「売り物? ファクトリーは物を売ったりもできるんですか?」


 俺が聞く。


「うん! 大多数のファクトリーがファクトリーで製造した物を売ってるよ」


「学校側から金銭面に対する補助はないのですか?」


 ヴィヴィが聞く。


「学校から研究費用は貰えるけど、それだけじゃ十分な研究はできない。より高次元な研究をするためにも、お金は自分たちで稼がないとね」


 さて。とアラン先生は一呼吸置き、


「見学に来たわけじゃないでしょう?」


「はい。先生に聞きたいことがあります」


「こっちのテーブルで話そうか」


 案内されたテーブルを囲み、席につく。


「それで聞きたいことって?」


「ファクトリーの作り方を教えてくれませんか」


「ヴィヴィさんは新しいファクトリーが作りたいんだね?」


「はい」


「コンセプトは決まってるのかな?」


「“賢者の石”の錬成を目標としたファクトリーを作りたいのです」


 アラン先生はかすかに目を細めた。


「それは……難しいね。“賢者の石”は錬金術師の到達点の1つだ。学生が手を出すのは早いって、上に怒られるのがオチだ」


「そんな……!」


「それに“賢者の石”の錬成に挑むのは危険が多い。僕としても容認はできない。それともなにか手立てでもあるのかい?」


 爺さんの手記がある。アレは一応手立てと言えるだろうな。

 でも、あの手記のことは他言無用。アラン先生にも言うわけにはいかないだろ。


「ないです……」


 ヴィヴィはそう答えるしかなかった。


「そこを狙いたい気持ちは同じ錬金術師ならわかる。けどね、焦っちゃダメだよヴィヴィさん。焦りは錬金術師を殺すよ」


 説得力のある言葉と表情だった。


「……はい」


「ちなみにもしコンセプトがOKだったら即ファクトリーは作れるんですか?」


 俺が聞くと、アラン先生は首を横に振った。


「いいや、ファクトリーを作るには顧問が1人と、団員が4人が必要だ」


「そうですか」


 どっちみちコンセプトが通ってもファクトリーを作るのは難しいな。ヴィヴィが3人も仲間を集められるとは思えない。


「もう1つ質問なんですけど、人造人間ホムンクルスを研究しているファクトリーってありますか?」


 アラン先生は俺の質問を受けて、なぜか硬直した。


「? どうしました?」


「いや、ははっ! ――血は繋がってないはずなのにね」


 アラン先生は笑う。


「残念ながら人造人間ホムンクルスを研究しているファクトリーはないよ」


「そう、ですか……」


 『理想の女性を造る』。

 この目的を果たすためにファクトリーで人造人間ホムンクルスの研究したかったのだが……無理か。


「へぇ、君は人造人間ホムンクルスの研究に興味があるのかい?」


「あります」


人造人間ホムンクルスを研究するファクトリーはないけど、この学校には人造人間ホムンクルス研究の第一人者が居るよ。紹介しようか?」



「……! ぜひ!」


 アラン先生は立ち上がり、棚から一枚の地図のような物を出し、渡してきた。


「彼は東にある〈四季森しきもり〉に研究所を構えている。これが〈四季森〉の地図だ。彼の研究所の場所も描いてある」


「それで、その人の名前は……?」


「彼の名前は――」


 アラン先生は俺の顔に視線を合わせる。



「コノハ=シロガネ」


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