第17話 ファクトリーを決めよう!

 朝になって、背伸びしながら家の外に出ると、ちょうど同じタイミングで隣の敷地――フラムの土地が白い炎に包まれた。合成術の反応だ。


 そして一軒家が出来上がった。合成術を行使したのはヴィヴィ。ヴィヴィの隣にはフラムが居る。


「ありがとヴィヴィちゃん! 助かったよ!」


「こ、これぐらい、文字通り朝飯前よ」


 ヴィヴィはまだフラムに対して緊張している様子だ。


「でもやっぱり……」


 ヴィヴィは不満そうな顔をする。


「どうしたのヴィヴィちゃん?」


「家の色……木材の色のままだから、味気ないわね」


「そうだね~、後でペンキ買ってこようか」


 ヴィヴィの言う通りだな。家の形はみんなバラバラだが、色はみんな同じ木の色のまま。味気ない。


「そうだ」


 俺にはあの筆があるじゃないか。

 家の中に“虹の筆”を取りに行く。“虹の筆”があればペンキはいらない。


「ヴィヴィとフラムは家に入ったか」


 外から家を眺めて頭の中に色のプランを浮かべる。

 屋根はブルーにして、壁はホワイトにするか。

 鼻歌交じりに壁をホワイトに塗っていく。


「おぉ! 綺麗な色だな~!」


 ジョシュアの声だ。

 ジョシュアは俺の家の前で立ち止まり、まじまじと壁を見る。


「ペンキ買ってきたのか?」


「いいや、この筆はマナを消費して好きな色のインクを出せるんだよ」


「マジ!? すげーな。

 なぁなぁ! オレの家も塗ってくんね?」


 ジョシュアは紐で縛った肉の束を見せてくる。


「報酬は樹海で採れたイノシシの肉だ!」


 ぐぅ~っと情けない音が腹から聞こえた。


「のった!」


 ってなわけで、自分の家を塗りたくったあと、ジョシュアの家に向かった。

 ジョシュアの家は……バランスが悪かった。至るところが傾いている。


「もうちょい丁寧に作れよ……」


「うるせ! 合成建築は不得意なんだよ!」


「それでご注文の色は?」


「目立つ色がいいな……」


「じゃあ金ピカに塗るぞ~」


「駄目に決まってんだろ! ん~、派手な色にするには家が不格好すぎるか。やっぱ暗めの色でいいや」


「じゃあ壁はグレーで屋根はブラックにするぞ」


「OK、とりあえずそれでいいや」


 ささっとジョシュアの家を塗り、さっそくイノシシの肉をごちそうしてもらう。

 家の中は外見ほど崩れてはなかった。それでも綺麗とは言い難いが。

 フローリングの部屋に、大量の山菜と肉がある。


「朝から狩りに行ってたのか?」


「まぁな。元々狩りは生活の一環だったし、やらないと落ち着かなくてな」


 ジョシュアは底の深い皿に、米と、山菜と、大盛りの焼いたイノシシ肉を乗せ、上から濃そうな黒味の強い調味料をぶっかけた。


「イノシシ丼お待ちどう! 朝食にしちゃ重いか?」


「いやありがたい。昨日から全然飯食えてなかったからな」


 まず一口、米と肉と山菜を口に一気に入れる。


……うまい!


 イノシシ肉の独特の臭みが良いアクセントになってるな。柔らかい肉に甘辛いタレの味が絡んでマジでうまい。米は甘く噛み応えがあり、山菜はシャキシャキと心地いい食感を生み出している。


「ごちそうさま」


 イノシシ丼を食べ終え、手を合わせる。


「ぷはーっ! 食った食った!」


 ジョシュアは腹を撫でながら横たわる。


「飯の確保は出来たし、『家の合成』は終わったし、あとはファクトリーを決めなくちゃなー」


 そうだ、忘れてた。ファクトリーも決めなきゃいけないんだったな……休む暇がない。


「お前はもう決めたのか?」


「いいや全然。まだ見学にも行ってない」


「そりゃそうか。あと6日もあるしな。急ぐ必要はねぇ。――ところで、フラム嬢がどこのファクトリーに入るかは聞いたか?」


「……お前、もしかしてフラムと同じファクトリーを狙う気か?」


「もちろん! 別に興味あるファクトリーもねぇしな」


「残念だったな。フラムがどのファクトリーに入るかは聞いてない」


「――じゃあヴィヴィ嬢はどうだ?」


「フラムだけじゃなくて、ヴィヴィも狙ってるのか?」


「どっちも最上級の美女だからな」


「残念、そっちも聞いてない。ていうか、多分アイツらもまだファクトリーは決めてないと思うぞ」


「かーっ! 叶うことならフラム嬢とヴィヴィ嬢、2人と一緒のファクトリーに入りたいぜ~!」


 なんて欲に正直な男だ。ある意味好感持てる。


「リサーチ頑張るんだな。俺はもう帰る。イノシシ丼ご馳走様」


「おう。フラム嬢とヴィヴィ嬢が入るファクトリーがわかったら、教えてくれよ~」


 ジョシュアの家から出て、俺の家の前まで行くと、なぜかフラムとヴィヴィが揃って待っていた。


「あ、帰ってきた!」


「遅いわよ。いつまで待たせる気?」


「俺の記憶が正しければ今日お前と会う約束はしていない」


「あのねイロハ、ちょっとお願いがあるんだけど……」


「なんだ?」


「――私たちの家も色塗ってくれない?」


 フラムはお願い! と頭を下げる。


「イロハがジョシュアの家を塗ってるのを見てね、それで綺麗な色だなーと思って」


 俺は腕を組んだままの銀髪娘に視線を向ける。


「フラムにだけ頭を下げさせるのかよ」


「……くっ!」


 ヴィヴィは唇を噛みしめながら、10度ぐらい頭を下げた。


「……家を、塗って、ください……!」


 睨みつけながら言ってくる。


「そうかそうか、そんな俺に頭を下げるのが嫌か。いいよ。塗ってやる」


「やったーっ!」


 フラムの家は壁はイエローに、屋根はレッドに塗った。

 ヴィヴィの家は壁はホワイト、屋根はパープルに塗った。


「いやぁ、凄い腕前だね~」


 フラムはヴィヴィの家の壁を見て言う。


「さすがは元画家ってところかしら」


「え!? イロハって画家だったの!? 道理で合成陣を描くのも上手いはずだよ!」


「こんなとこで画家の経験が活きるとは思わなかったよ」


 そうだ、せっかくだし、2人にファクトリーのこと聞いてみるか。


「なぁ、お前らはもう入るファクトリー決めたか?」


「ううん。全然! 明日あたり見学に行こうかなーって思ってるよ!」


「私は……」


 ヴィヴィは言葉を詰まらせる。

 それからなにかを決心したような目つきで顔を上げ、口を開いた。



「私は、ファクトリーを作るつもりよ」


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