第31話 カイの母の企み
俺達はユナの話を聞いていた。
「実はね……。お父様から聞いたんだけど、この事件の黒幕はお兄様のお母様じゃないかと疑っているんだって……」
「えっ……? 一体どういうことだ……」
俺はカイの母親の名が出てきて困惑する。
「まだ確証はないみたいなんだけど、お兄様のお母様は不満を持っている一派の幹部と手を組んでいて、魔界を支配している一族の親族でもあるので彼等とも手を組んでいるらしいんだ……」
「つまり、今回の一連の事件は全てその女の策謀だったというわけなのか?」
「おそらくだけど……。お父様もそう考えているみたい……」
「なるほど……。そうなると、かなり厄介なことになってくるぞ……」
俺は考え込む。
「うん……。だけど、お兄様が、あっち側に付いているかといえば違うみたい……」
「そうか……。しかし、あいつが裏切る可能性も充分あると思うが……」
「う~ん……。どうかな……? 確かに、お兄様は昔から謎めいたところがあるから……。でも、やっぱり信じたい気持ちもあるんだよね……」
ユナは複雑な表情を浮かべて俯いた。
「お前がそう思うのなら、俺は何も言わないが……」
(俺には、どちらが正しいのか判断することはできないが、ユナにとっては肉親であるからな……。簡単に割り切れるものではないだろう)
俺は言葉を選びながら答える。
「私はね……。お兄様にもう一度会いたいんだ……。会って色々と話を聞きたい……。そして、できれば一緒に戦ってほしいと思っているんだ……」
ユナは切実に訴えかけてきた。
「そうか……。でも、仮にお前の兄貴が敵側についていなかったとしても、魔界の方の問題はどうするつもりだ?」
俺は疑問を口にした。
「それも、お兄様と話し合えばなんとかなるんじゃないかと思って……」
(いくら、兄妹とはいえ、そう上手くいくものだろうか?)
俺はユナの言葉に疑問を覚える。
「ユナがそう言うのであれば、俺が口を挟む問題ではないが、アイカもどう思う?」
俺はアイカに意見を求める。
「私? そうね……。ユナの話は一理あるかも……」
アイカは少し考えてから答えた。
「そうか……。じゃあ、とりあえずはユナの意見を尊重しよう」
「やった! ありがとう! お姉ちゃん!」
ユナは嬉しそうに微笑む。
「ユナ……。あまり、期待しない方がいいわよ……」
アイカは釘を刺すように言った。
「分かってるよ……。でも、できる限りのことはしたいんだ……」
ユナの瞳は真っ直ぐ前を向いていた。
「まぁ、いいけど……。また、何か動きがあったら連絡してちょうだい……」
「うん……。分かった……」
「じゃあ、私はそろそろ帰るとするわ……」
「えっ……? もう帰っちゃうの?」
ユナは寂しげな顔をする。
「ごめんなさい……。これから用事があるの……」
「そっか……。話を聞いてくれてありがとう……」
「いえ……。こちらこそ、最近の向こうの情勢が分かったわ……。それと、隆司君……」
「なんだ……?」
俺はアイカの顔を見る。
「あなたに、これを渡しておくわ……」
アイカは懐から鍵を取り出した。
「これは?」
俺は不思議そうな顔で受け取る。
「私の部屋の合い鍵よ……。自由に使っていいわ……」
「ああ……。わ、わかった、使わせてもらうよ……」
俺は戸惑いながら受け取った鍵をポケットにしまう。
「いつでも遊びに来ていいのよ……。ただし、変なことだけはしないようにね……」
アイカは妖艶な笑みを浮かべた。
「分かってるよ……。変なことはしないさ……」
「ふふっ……。冗談よ……。それじゃあ、またね……」
「ああ……。またな……」
俺達は別れを告げると、アイカは帰っていった。
その夜、俺とユナはソファに座って話していた。
「ねぇ、パパ……」
「なんだ……?」
「あのね……。向こうの世界のことなんだけど……」
「ああ……。どうしたんだ?」
「うん……。向こうの世界が、これからどんな状況になっていくのかな?」
「そうだな……。お前の父親が上手くまとめていければいいんだが……」
「やっぱり、難しいのかな……? マヤお姉ちゃんもいるから大丈夫だと思うんだけど……」
「いや……。正直言って厳しいかもしれない……。特に、今回は相手が相手だけにな……」
俺はカイの母親と不満分子や魔界の一族を相手にしなければならないことを考えると、不安になる。
「そうなんだ……。でも、私は信じているんだ! きっとお兄様はこっち側に付いてくれるって……」
ユナは希望に満ちた目で語る。
「そうか……」
俺は複雑な気持ちで相槌を打った。
「うん……。だって、お兄様は本当は優しい人だから……」
「そうか……。お前がそういうなら、俺も信じることにするよ……」
俺はそう答えるしかなかった。
「うん……。お兄様が味方になってくれたら心強いよね!」
「確かにな……」
(もし、本当にユナの兄貴が敵側についていたとしたら、向こうの世界の人間で勝てる者はいないかも……)
俺はそんなことを考える。
「でも、お兄様は今どこへ行ってしまったんだろう……? お父様に聞いてみたけど、何も教えてくれなかった……」
ユナは悲しそうに話す。
「まぁ、無理もないさ……。お前の父親は、お前のことが可愛くて仕方ないんだから……」
俺は苦笑いを浮かべながら答える。
「そんなものかな……。私には分からないよ……」
ユナは大きくため息をつく。
「味方として、お前の兄貴と会えるといいな……」
俺はユナの頭を撫でながら言った。
「うん……。そうだね……」
ユナは笑顔を取り戻す。
「じゃあ、そろそろ寝るか……」
「うん……」
俺は寝室へと向かった。
(しかし、ユナの兄貴は一体どこにいるんだろうか?)
俺はベッドの中で考えていた。
(やはり、一度探し出して会う必要があるな……)
そう思いつつ、眠りについた。
それから翌日、俺達がリビングで寛いでいる時だった。
インターホンが鳴った。
「はい……」
俺は玄関へ向かい扉を開ける。
すると、そこには女性が立っていた。
年齢は20代半ばくらいに見える。髪はベリーショートで、スタイル抜群の身体だ。
服装はティシャツとジーンズを着ていて妖艶な雰囲気がある。
「こんにちは……。久しぶりね」
俺は女の顔を見て想い出した。彼女はエンだった。
髪型が以前と全然違うので、すぐには判らなかったのだ。
「ああ……。何の用だ?」
俺は警戒しながら訊いた。
「あなた達に会いに来たのよ……。少し、話をしたいと思ってね……」
「話だと……?」
「ええ……。立ち話もなんだから、中に入れてくれないかしら?」
「断ると言ったら……?」
「それは困るわね……。今日は敵として来た訳ではないんだけど……」
エンは微笑みながらも、俺を威圧するような視線を送ってくる。
「そうか……。じゃあ、とりあえず上がってくれ……」
俺は諦めて言った。
「ありがとう……。お邪魔するわね……」
エンは靴を脱いで上がると、スタスタと歩き始めた。その後ろ姿からは隙が感じられない。
俺はリビングへと案内した。
ユナはエンを見ると顔を険しくした。以前、エンの麻痺毒で痺れた所を間一髪でユナが助けてくれたのだ。
「大丈夫だよ……。今日は俺達の敵ではないんだ……」
俺はユナに安心するように言う。
「そうなの?」
「ああ……。今はな……」
俺は意味深に答えた。
「ふふっ……。その言い方は酷くないかしら?」
「別に深い意味がある訳じゃないさ……」
「そう……。まぁ、いいわ……」
俺達はテーブルを挟んで向かい合うように座った。
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