第30話 アイカの恋
隆司のアパートの部屋で美和と会ってからアイカはマンションの自分の部屋で悩んでいた。
アイカが住んでいるマンションは広川が住んでいるマンションで、広川の親が所有している物である。
広川に力を与えた見返りとして自分用の部屋を提供してもらっていた。
あの日以来、アイカは隆司のことがどうしても気になっていたのだ。
(私はどうしてしまったんだろう……?)
アイカは自分の気持ちが分からず戸惑っている。
(どうして……? どうして……? どうして……?)
いくら考えても答えは出ない。
そして、ある結論に至る。
(もしかしたら……。これが恋というものなのかしら……?)
だが、今まで人を好きになったことがない彼女にとって、それが初めての感情だったのである。
(でも、私なんかが好きになって貰えるはずがないよね……)
アイカは暗い表情でため息をつく。
(そうだ……。きっと、これは何かの間違いに違いない……)
アイカは自分にそう言い聞かせるが、胸の鼓動は高まるばかりだった。
(もし、この気持ちが本当なら伝えないといけない……。だって、このままだと後悔することになるかもしれないから……)
アイカは意を決して立ち上がる。
「よし! 決めた! 明日にでも会いに行こう!」
こうして、彼女の長い一日が始まるのである。
翌日、隆司は大学から帰ってくると部屋の玄関の前で、アイカが待っているのがうかがえた。
「よう……」
「こんにちは」
アイカは真剣な表情で立っている。
「何か用事でもあるのか?」
俺は玄関の鍵を開けると、ドアを開いた。
「うん……。ちょっとね……」
「そうか……。とりあえず中に入ってくれ……」
「お邪魔します……」
俺はアイカを部屋に招き入れる。
「コーヒーで良いか?」
「ありがとう……」
俺はキッチンに向かうと、インスタントコーヒーを入れ、カップに注ぐ。
そして、それをテーブルの上に置いた。
「砂糖とミルクはそこにあるやつを使ってくれ……」
「うん……。分かった……」
俺はソファーに腰掛けると、一口飲む。
「それで、話ってなんだ……?」
俺は単刀直入に尋ねた。
「うん……。実はね……。貴方に伝えなければいけないことがあるの……」
「そうか……。じゃあ、ゆっくり聞くとするよ……」
俺は少し緊張していた。
「まず、貴方には感謝しているわ……。私が今、こうやっていられるのは貴方のおかげだから……」
「そうか……。それは良かった……」
俺は安堵する。
「だけど、もうこれ以上は迷惑をかけられないの……」
「どういうことだ……?」
「私、隆司君のことが好きなの!」
アイカは真っ直ぐな瞳で俺を見つめた。
「えっ!? 俺のことを好きって……。それはどういう意味なんだ……」
俺は動揺を隠せない。
「そのままの意味よ……。私は隆司君のことを愛してるの……」
アイカは頬を赤く染めると、恥ずかしげに囁いた。
「そ、そうか……。その……。凄く嬉しいよ……」
俺の顔も赤くなる。
「じゃあ、付き合ってくれるの?」
アイカは期待に満ちた目で見つめてきた。
「そ、そういうわけにもいかないんだ……」
「どうして……? やっぱり黒崎さんがいるからなの……?」
アイカは悲しげな顔になる。
「いや……。そういうわけではないんだが……」
「それなら、問題はないじゃない……」
「違うんだよ……。お前が思っている以上に色々と複雑な事情があってだな……」
俺は言葉を濁す。
「そうなんだ……。でも、大丈夫よ……」
「何がだ……?」
「私、諦めが悪い方だから……。必ず振り向かせてみせる……」
アイカは不敵に笑った。
「い、いや……。待ってくれ! お前の気持ちは本当に嬉しいんだが……」
俺は慌てて否定するが、彼女は全く聞いていない様子である。
「フフッ……。絶対に逃さないから覚悟しておいてね……」
「い、いや……。マジで勘弁してくれよ……」
俺の心臓が激しく脈打つ。
「さぁ……。これからが本当の勝負よ……」
アイカは妖艶に微笑むのであった。
そして、俺の傍まで来ると、耳元で甘く囁く。
「隆司君……」
「うわー! もう無理! 限界!」
俺は叫び声を上げるがアイカは抱き着いてくる。
「離せ!」
俺は必死に抵抗するが、なかなか離れようとしない。
(このままではマズイぞ……。早くなんとかしないと……)
あらん限りの力をだして振りほどこうとするが、アイカはビクともしない。
すると、次の瞬間、アイカの唇と俺の唇が重なった。
「んぐぅ〜!!」
俺は絶叫をあげる。
「プハッ……。これで、私のファーストキスは隆司君のものだね……。フフッ……。責任取ってもらうからね……」
アイカは顔を真っ赤にして、照れ臭そうに笑う。
「お、お前……。なんてことをしてくれたんだ……」
俺は放心状態になっていた。
「ごめんなさい……。我慢できなくてつい……。でも、初めては貴方がいいなって思ったから……」
アイカは申し訳なさそうに俯いている。
「そ、そうなのか……」
(なんで、こんなことに……。どうすればいいんだよ……。誰か助けてくれ!)
俺はパニックに陥っていた。
「あの……。もう一度だけ……。お願いできないかな……?」
アイカは抱き着いたまま上目遣いで懇願してくる。
その中、玄関の扉が開いた。
「ただいま!」
ユナが帰ってきたのだ。
「あっ……。お帰り……」
俺は引きつった笑顔を浮かべる。
「お邪魔してるわ……」
アイカは恥ずかしそうに呟いた。
「えっ!? お姉ちゃん!?」
アイカの姿を見ると、ユナは驚きの声を上げた。
「何で、パパに抱き着いているの……?」
「こ、これは……。ちょっとしたスキンシップよ……」
アイカは慌てて言い繕う。
「へぇ~。そうなんだ……」
ユナは冷たい視線を送ってきた。
「そうよ……。ちょっとふざけていただけだから……」
アイカは冷や汗を流している。
「ふ~ん……。まぁ、別に良いけど……」
ユナは疑いの目を向ける。
「本当よ……。ねぇ、隆司君……」
アイカは助けを求めるようにこちらを見た。
「あ、ああ……。そうだ……。アイカとはふざけ合っていただけだ……」
俺は必死に取り繕おうとする。
「ふ~ん……。なら、いいんだけど……。それより、何かあったの?」
「えっ……? 何でだ?」
「だって、なんか変な雰囲気だったから……」
「き、気のせいじゃないか……?」
俺は動揺を隠せない。
「そっか……。それなら良いんだけど……」
「ほらっ……。いつまでも、そんなところに突っ立ってないで座ったらどうなんだ……」
俺は話題を変えるために、ソファーに腰掛けるように促す。
「うん……。分かった……」
ユナは素直にソファーに腰掛けた。
「そういえば、首の傷はよくなったのか?」
俺はユナの首を見つめながら聞いた。
「うん……。すっかり良くなったよ……」
ユナは嬉しそうな表情で首を見せながら答えた。
「それは良かった……」
「ありがとう……」
「ところで、電話で聞いたが向こうの世界は今大変なことになっているんだろ?」
「そうなんだよね……。それで、また聞いて欲しいんだ……」
「それは構わないが、俺が力になれることがあれば何でも言ってくれ……」
「うん! 頼りにしてるよ……」
「じゃあ、早速だが聞かせてくれるか……?」
俺は真剣な眼差しで耳を傾ける。
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