第29話 美和の思い
その時、スマホから着信音が鳴り響いた。通知は非表示であった。
「ちょっと待ってくれ……」
俺は慌てて電話に出る。
「もしもし……」
「あっ! やっと出た……。遅いわよ……」
電話の主はユナだった。
「すまない……。それで、どうかしたのか?」
「今、向こうの世界がゴタゴタしているからパパに連絡しておこうと思って……」
ユナが電話で話しているが、どうして向こうの世界から電波が通じているのか疑問に思った。
「なあ、何で向こうの世界からでも通話が出来るんだ?」
「あぁ……。それなら、私の力でこの世界に思念の回線を引いているのよ……。人間相手だと私達の思念は通じないから」
「そうなのか……」
「そうよ……。それより、聞いてるの?」
「ああ……。ちゃんと聞こえてるよ……」
「そう……。なら良かったわ……。それでね、もうすぐ大規模な反乱が始まるかもしれないの……」
「反乱?」
「うん……。そうよ……。もしかしたら、戦争になるかも……」
「な、何故そんな事に……」
「詳しい事は聞いてないけど、恐らくお父様に不満を持っている人達と反体制派の仕業だと思うわ……」
「そうか……」
「うん……。とにかく、そっちの世界にも影響が出ると思うから注意していて欲しいの……。じゃあ、また連絡するわ……」
「ああ……。分かったよ……」
そして、俺は電話を切った。
「今のは誰?」
美和は興味津々といった様子で俺を見つめる。
「ああ……。ユナからだ……」
「ふーん……」
美和はつまらなさそうな表情を浮かべた。
「それで……。さっきの話だけど、貴方は私の事をどう思っているの?」
美和は真剣な表情で言う。
「どうって言われてもな……。正直よく分からん……」
「何よ……。はっきりしない男ね……」
「仕方ないだろう……。今は誰かに恋愛感情を持ってないんだから……」
「そう……。なら、私が教えてあげるわ……」
美和はそう言うと、さらに距離を詰めてきた。
「ちょ、ちょっと近いんだけど……」
「あら……。照れているの?」
「そういう訳じゃないんだけど……」
「じゃあ、もっと近づいてもいいわよね……」
美和は俺の腕を掴むと自分の胸に押し当てた。
「お、おい……!」
柔らかい感触と共に甘い香りが漂ってくる。
「どう……? ドキドキしない……?」
美和は妖艶な笑みを浮かべた。
「そ、そりゃあ……。少しは……」
俺は顔を赤く染めながら答える。
「フッ……。可愛いわね……」
美和はクスリと笑う。
「ねえ? キスしてみましょうよ……」
そして、ゆっくりと唇を近づけて来た。
「ま、待てって! 早まるなって……」
「どうして嫌がるの……?」
「いや……。そのだな……」
俺は返答に困った。
「まさかとは思うけど、こういう事するのは初めてじゃないんでしょう……?」
(うっ……。堪が鋭い奴だな……)
「えっと……。それは……」
「はっきり答えなさい」
美和は不機嫌そうに言った。
「……あります」
「やっぱり……。本当なの?」
美和は頬を膨らませる。
「すまん……」
俺は謝る事にした。
「ふん……。まあいいわ……。それで、どんな子としたの?」
「どんな子って言われても……」
俺は苦笑いを浮かべると、美和は大きなため息をつく。
「呆れたわ……。貴方、女に興味がないわけ?」
「別にそういう訳ではないんだが……」
「じゃあ、どういうことよ?」
「そうだな……。俺にとって女の子は守るべき存在であって、好きとか嫌いという対象ではないんだよ……」
「なるほどね……。つまり、子供扱いしているということかしら……」
美和は納得したように囁く。
(まぁ。確かにそうかもしれないな……)
俺は心の中でそう思った。
「分かったわ……。そうなら、これからは私を一人の大人として見てちょうだい……」
美和はそう言って、再び唇を近付けてくる。
「お、おい……。ちょっと待て! 落ち着けって!」
俺は慌てて止めに入った。
「どうして止めるのよ!?」
美和は不満げに叫ぶ。
「どうしても何もこんな所で出来るかよ……」
「あら……。意外とロマンチストなのね……」
「うるさい……。今日はもう帰ってくれないか」
「どうして?」
「どうしてもだよ……」
「理由を言いなさいよ……」
美和は俺に詰め寄る。
「理由は言えないが、とにかく帰ってくれ……」
俺が真剣な表情で見つめると、美和は諦めたような表情を見せた。
「はぁ……。仕方ないわね……」
そして、渋々といった様子で玄関に向かったのだった。
「じゃあね……」
「ああ……。気をつけて帰れよ……」
美和は寂しそうな表情で手を振ると、部屋から出て行った。
それから数時間、俺は自室で考え事をしていた。
(美和は俺に好意を持っていると云うことだろうか……?)
俺は先程のやり取りを思い出していた。
(しかし、あいつの態度は少しおかしかったな……)
今までの彼女なら、強引に迫ってきたりしなかったはずだ。
(アイカが俺の部屋で寝ていたから嫉妬を抑えきれなかったのか……? )
俺は腕を組みながら一晩中考えた。
翌日、俺はいつも通り大学に行くことにした。
講義室に入ると、美和の姿があった。
彼女は俺を見ると、嬉しそうな表情を浮かべるが俺は少し気まずかった。
「おはよう……」
「ああ……。おはよう……」
俺達は挨拶を交わすと、そのまま隣同士に座った。
「昨日はごめんなさいね……」
美和は申し訳なさそうな表情で言う。
「いや……。気にするな……」
「そう……。ありがとう……」
そして、沈黙が訪れた。
(何か話さないとな……)
俺は必死に考える。
「昨日は美和のことを何も考えずに帰れと言って、ごめんな……」
俺は素直に謝ることにした。
「いえ……。隆司は何も悪くないわ……」
美和は首を横に振る。
「そうか……。なら良かったよ……」
「うん……。それより、私の事を一人の女性として見て欲しいというのは本当だから……」
美和は顔を赤く染めると、恥ずかしそうに囁いた。
「そ、それは……!」
俺も思わず赤面してしまう。
「フフッ……。貴方って本当にウブね……」
美和は微笑むと、ゆっくりと顔を寄せてきた。
「ちょ、ちょっと待てって! 周りには人が沢山いるんだぞ……」
俺は慌てて美和の顔を押し返す。
「大丈夫よ……。皆、自分の友達と話すのに夢中だし、誰も私たちの事なんて見てないわ……」
美和は余裕の笑みを浮かべた。
「いや……。そういう問題じゃなくてだな……」
俺は冷や汗を流す。
「じゃあ、どういう問題があるというの?」
「それは……」
「ふーん……。やっぱり嫌なんだ……」
すると、美和は悲しげな表情を見せる。
「違う! そうじゃないけど……」
「何が違うの?」
「それは……」
俺は返答に困ってしまう。
「はっきり言いなさいよ……」
美和は俺を睨みつける。
「その……。人目があるところでキスするのは流石にどうかと思うんだよ……」
俺は小さな声で答えた。
「なるほどね……。隆司らしい答えだわ……」
美和はクスリと笑う。
「悪いな……」
「いいえ……。こちらこそ変なこと聞いてごめんね……」
「まぁ……。あれだな……。人目の無いところなら別に構わないんだが……」
俺は照れ臭くなり、頭を掻く。
「へぇ〜……。そうなんだ……」
美和はニヤリと口角を上げた。
「ち、違っ……。今のは言葉のあやというかなんというか……」
俺は慌てて否定するが、時すでに遅しである。
「フフッ……。冗談よ……」
美和は悪戯っぽく微笑んだ。
「お前な……。あんまり調子に乗るなよ……」
「はいはい……。分かってるわよ……」
美和は肩をすくめる。
そんなこんなで、俺達の大学での日常は過ぎていくのであった。
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