第28話 アイカと美和
2人は女が消滅した後を凝視していた。
「ハァ……ハァ……。やった……?」
ユナは不安そうに呟いた。
「えぇ……。どうやら倒したようね……」
「良かった……」
ユナはホッと胸を撫で下ろした。
「……大丈夫?」
「うん……。何とか……」
ユナはフラつきながらも立ち上がった。
「無理しない方がいいわ……」
「大丈夫だよ……。それより、お姉ちゃんこそ大丈夫なの……?」
「私は平気よ……」
「でも、傷だらけだし血が出てる……」
「心配いらないわ……。貴方の方が首に傷を負っているし……」
「首の傷は浅いから大丈夫……」
ユナは自分の首に手を当てながら答えた。
「そう……。それならいいけど……、念の為、治療しないとね……」
「そうだね……」
こうして姉妹は危機を乗り越えたのだった。
2人が一安心したその時、隆司と気を失って担がれているアイカがアパートに戻ってきた。
「大丈夫か!?」
「パパ!!」
ユナは隆司の元へと駆け寄った。
「2人とも怪我をしているみたいだが刺客と戦ったんだな?」
俺はユナの首の傷やマヤの全身の切り傷を見て心配する。
「う、うん……」
「まあ、なんとか勝ったわ……」
「そうか……。よく頑張ったな……」
俺は2人を労った。
「ありがとう……」
「当然よ……」
2人は、それぞれ返答した。
「ところで、アイカは?」
「あぁ……。気を失っているだけだ」
俺はアイカをソファーの上に寝かせて上着を掛けてやった。
「それで、これからどうするつもりだ?」
「私達の治療の為、向こうの世界に一時的に戻るつもりだけど……」
マヤが俺を見つめながら言った。
「そうなのか……」
「まあ、すぐには戻れないから少しだけ休ませてもらうけどね……」
マヤは苦笑いを浮かべながら話した。
「じゃあ、今から向こうの世界にユナと帰るわね……」
「ああ……。分かった」
「任せておいて……」
マヤは微笑みを浮かべると、ユナの手を握った。
「行くわよ……」
「うん……。パパ、ちょっと行ってくるよ」
そして、2人の姿が消えた。
それから暫くして、目を覚ましたアイカは辺りを見渡して状況を把握しようとする。
「ここは一体……」
「目が覚めたようだな……」
「隆司君!?」
アイカは驚いた様子を見せた。
「さっきまで、この部屋にはユナとマヤが居たんだが傷の治療の為、向こうの世界に一旦帰って行ったよ……」
「そ、そうなの……。それはそうと、あの男はどうなったの?」
「男?……あぁ、あの赤髪の男の事か……。あいつならカイが助けに来て倒したよ……」
「そう……。よかった……。お兄様が助けてくれたのね……」
「ああ……。そうだな……」
「それにしても、私が気を失っている間に色々とあったのね……」
「その通りだ……」
「…………」
アイカは無言で俯いた。
「どうした? 元気がないじゃないか……」
「ごめんなさい……。ちょっと疲れちゃって……」
「謝る事はない。あんな事があったんだから仕方ない」
「ありがとう……。ねえ、一つ聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「どうして、貴方は私の事をここまでしてくれるの?」
「そんなの決まっているだろう……。お前が心配だからだよ」
「本当にそれだけ?」
「どういう意味だ?」
「貴方は優しい人だもの。きっと他にも理由があるんじゃないかと思って……」
「まあ、あると言えばあるが……。それを今話す必要はないと思っている……」
「そう……」
アイカは寂しげな表情で呟く。
「とりあえず今日はゆっくり休むといい」
「分かったわ……」
そう言うと、アイカは再び眠りについた。
一方、俺はベッドに横になった。
(これで、ひとまず一件落着か……)
俺は天井を見ながらそう思った。
(……ん?)
すると、突然、スマホから着信音が鳴った。
俺は起き上がるとスマホを手に取った。
画面を見ると、そこには『美和』の文字が表示されていた。
「もしもし……」
「あっ! やっと出た!」
電話に出るなり美和の声が聞こえてきた。
「どうしたんだ?」
「どうしたじゃないわよ! 今まで何をしていたのよ!」
「えっ……?」
「今日、気を失った私を、あのオタクに預けて帰って行ったよね?」
「あぁ……。そうだけど……」
「あれから大変だったのよ?」
「というと……?」
「貴方が帰った後、あのオタクは私を背中に背負って帰る中、キモい顔をしながら見つめてくるし、もう最悪な気分よ……」
「そうだったのか……」
「まあいいわ……。大事な話があるのよ……」
「大事な話?」
「そうよ……。今、何処にいるの?」
「今か……? 自分の部屋だが……」
「分かったわ……。今すぐそこに行く……」
「えっ!?」
「いいから待っていて……」
そう言い残すと、美和は一方的に電話を切った。
(なんなんだ一体……)
俺は疑問に思いながらも、しばらく待つ事にした。
それから数分程して、部屋のインターホンが鳴った。
「はい……」
俺は返事をして玄関に向かうと、扉を開いた。
「こんばんは……」
そこには、美和が立っていた。
「なんだよ急に……」
「別にいいでしょう……。それより上がっても?」
「あぁ……。構わないけど……」
俺は戸惑いながら答える。
「それじゃあ失礼するわね……」
「あぁ……」
こうして、俺は美和を部屋に上げたのであった。
部屋に上がると美和はソファの上で眠っているアイカが目に入った。
しかも、上着が隆司のシャツを着ているのを不審に思う。
「何でアイカさんが居るの?」
美和は鋭い視線を俺に向けてきた。
「あぁ……。それは……」
俺が事情を説明しようとしたその時、後ろから声がした。
「黒崎さん……」
振り向くと、いつの間にか目を覚ましていたアイカがいた。
「あら……。起きたみたいね……」
「そうね……」
「ところで、アイカさんは何故ここに居るの?」
美和は質問してきた。
「実は……」
俺はアイカがここに来た経緯を説明した。
「そう……。そういう訳だったの……」
「うん……」
「それにしても、よく無事で帰ってこれたわね……」
「それは……」
アイカは俯き黙り込んだ。
そんなアイカを見て、俺は助け船を出すように話し始める。
「まあ、色々あったけど無事に帰って来れたんだから良しとしよう……」
「そう……。分かったわ……」
「話は変わるんだけど、アイカさんが着ているのは隆司の服だよね?」
美和がアイカを見つめながら言った。
「あっ……。これは違うの……」
アイカは自分の着ている隆司のシャツを見ると顔を赤く染める。
「何が違うの?」
「こ、このシャツには理由があって……」
「どんな理由があるの? 教えてくれるかしら……?」
美和は問い詰めるように聞く。
「そ、それは……」
「言えないの?」
「うぅ……」
アイカは恥ずかしそうな表情を浮かべると、美和は勝ち誇ったような笑みを見せた。
「おい……。あんまり苛めるなよ……」
俺は美和に言う。
「ごめんなさい。つい楽しくて……」
「全く……。しょうがない奴だな……」
俺は呆れながら呟いた。
「それで、これからどうするつもりなの……?」
美和はアイカに問いかけた。
「えっと……。とりあえず、今日は帰るわ……」
「そう……。分かったわ……。また会いましょう……」
アイカは微笑むと、俺の方を見た。
「じゃあ、私は帰るね……」
「ああ……。気をつけて帰れよ」
「うん……」
そして、アイカは部屋を出て行った。
「さあ! 邪魔者も居なくなった事だし、話を聞かせてもらうわよ!」
美和は嬉しそうに話す。
「えっ……? 何をだよ……?」
「決まっているじゃない! 私をあんな場所に放置して帰った理由よ!」
(あぁ……。その事か……)
「悪い……。アイカが気を失ったから……」
「それだけ……?」
「それだけって……?」
「他に何かあるんじゃないの?」
美和は疑いの眼差しを向けてきた。
「いや……。本当に何もなかったぞ……」
「ふーん……。そう……」
美和は不満げな表情を見せると、ソファに座った。
「まあいいわ……。貴方に聞きたい事があるの……」
「なんだ……?」
「貴方は私の事をどう思っているのかしら?」
「どう思ってるか? どういう意味だ?」
「言葉通りの意味よ……。私をどうしたいと思っているのか知りたいの……」
美和の目つきが変わった。
「お、お前は何を言っているんだ!?」
俺は動揺しながら答える。
「だから、そのままの意味だって言ってるでしょう……?」
美和は俺に近寄ると、上目遣いで見つめてくる。
「ねぇ……? 答えて……」
「ど、どうして急にそんなことを……」
俺は美和から目を逸らす。
「別にいいでしょう……?」
美和はさらに距離を縮め、耳元まで顔を寄せて来た。
「ほら……。早く言いなさいよ……」
(くっ……。一体なんなんだこの状況は……)
俺は心の中で思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます