第27話 刺客との戦い(3)

 銀髪の男の言葉を聞いて男は自分が軽く見られていると思い怒りが湧いてきた。


「ふざけんな!!」


 男は怒りに任せて銀髪の男に殴りかかる。


 しかし、あっさり避けられてしまった。


 その後、男の攻撃は全て空振りに終わる。


「おいおい……。どうなってんだ?」


 男は困惑していた。


「無駄だ……。私には勝てない……」


 男は冷ややかな目で男を見据えている。


「クソッ……。こんな奴に負けるかよ……」


 男は手に持った大型ナイフを構えて攻撃の機会をうかがっている。


 対して、銀髪の男は徒手空拳である。


 果たしてナイフを持った相手に武器も持たずに対抗できるのか?


 普通ならば不可能だろう。


 だが、彼の場合は違う。


「死に晒せ!!」


 男は叫びながら突進していく。


 対する銀髪の男は微動だにしない。


 男はナイフで斬りつけるが、全て紙一重でかわされてしまった。


「何故だ……。どうして当たらない……」


 男は動揺しているようだ。


「貴様では話にならない……」


 そう言うと、銀髪の男は男の腹部を蹴った。


「ぐはっ……」


 更に華麗に跳躍して男の顔面に膝蹴りを叩き込み鼻や歯が折れ男の口から鮮血が溢れ出る。


「や……止めてくれ……」


 男は懇願する。


 男の口から鮮血が溢れ出る。


「さあ、どうしてくれようか……」


 男は苦痛で顔を歪ませていた。


「ひぃ……。助けてくれ……」


 男は怯えきっていた。


「もう、遅い……」


 銀髪の男は冷酷な言葉を吐くと、男に向かって手をかざす。


 見えない波動の力を感じ男は苦しむ。


「ぐあぁ――!」


 男は苦痛で叫び声をあげる。


 すると、男は全身の皮膚が爛れていき皮膚の下の筋肉組織が見え崩れていく。やがて、それも無くなると内臓や骨が見えてきた。


 暫くすると、全身が崩壊していき塵となって消えて行った。


「お兄様……」


 アイカは安堵の声を漏らすと、緊張の糸が切れたのか倒れそうになる。


「危ない!」


 俺は咄嵯に駆け寄り彼女を支えた。


 アイカは気を失っている。


「大丈夫なのか?」


 俺は心配になって尋ねた。


「ああ……。疲れたみたいだな……」


 カイはそう言うと俺にアイカを任せて去ろうとしている。


「妹は任せた……」


 彼はそう言い残して立ち去った。


 俺はアイカを抱きかかえる。


「取り敢えずアパートに戻るか……」


 俺は満身創痍の広川に美和を預け、アイカを抱えてアパートに戻った。



 隆司とアイカが赤髪の男と戦っていた、その頃、隆司のアパートでは――。


 ユナはアパートの部屋の中で外から女性の歌声を聴いていた。


 その歌を聴いていると、身体中から悪寒がしてくるのであった。


「嫌な感じの歌ね……」


 彼女は不快感を露わにしている。


 ユナが外に出てみると、辺りには気を失っている通行人が見られた。


 どうやら、あの歌声で気絶しているらしい。建物の中でも人間が歌声を聞いたら同じことであろう。


「一体誰が歌っているの?」


 そう思った時、何処からか女性の不気味な笑い声が聞こえる。


「ハハハ……。こんにちわ、末っ子の王女様……」


 突然、背後に現れた女はそう言って、気味の悪い笑みを浮かべた。


 女の顔は端正に整っているが、その表情には不気味と狂気の印象を兼ね備えていた。


 髪の色は金髪で長身であり、黒いドレスを纏っていた。年の頃は20代後半ぐらいだろうか。


「貴方は誰なの?」


 ユナは警戒しながら尋ねる。


「私も向こうの世界から来た者よ……。そして、貴方を攫いに来たのよ……」


「何ですって!?」


「雇い主が貴方をご所望よ……。だから、貴方には人質になってもらうわ……」


 女は邪悪な笑みを浮かべた。


「そんな事はさせないわ……」


「フフフ……威勢がいいのは嫌いじゃないわ……。雇い主からは殺さない程度に痛めつけていいと言われてるわ」


「貴方なんかに負けないわ……」


「どうかしら……?」


「えぇ……絶対に負けないわ……」


 ユナの眼光は鋭かった。


 次の瞬間、女の姿が消えると同時に、強烈な衝撃がユナを襲う。


「うぅ……」


 ユナは苦痛に顔を歪めた。


 彼女の腹部に激痛が走る。


「どうしたの? この程度なの?」


 嘲笑する女の姿が見えたと思ったら再び強烈な痛みが襲ってきた。


 その後も何度も殴られる。


「うっ……。あっ……。くっ……」


 ユナはあまりの痛みに耐えきれず膝を付いた。


「あら……。もう終わりかしら?」


「まだよ……」


「へー。意外とタフなのね……」


 女は再びユナを攻撃する。


 しかし、ユナも黙っているわけではない。


 反撃をするが、ことごとく躱わされてしまう。


「無駄よ……」


「クッ……」


 その後、数分に渡って激しい攻防が続いたが、女の方が優勢である。


「ほら! ほら!」


 女の容赦のない攻撃が続く。


 一方、ユナは防戦一方で劣勢に立たされている。


「ハァ……。ハァ……。このままじゃまずいわ……」


 ユナは焦っていた。


「これでトドメよ……」


 女が拳を振り上げユナの顎に拳が放たれる。


「きゃ―――!!」


 ユナの悲鳴が響いた。


 ユナは堪らず地面に倒れ込む。さらに、履いているヒールの踵でユナの顔を踏んづける。


「ぐっ……」


「アハッ……。無様ね……」


「くっ……」


「どう? 私の靴の味は? 美味しいでしょ? アハハ……」


「ふざけないで……。アンタの足なんて不潔で臭いわ……」


「フンッ。減らず口を……」


 そう言うと、女はさらに力を込めて踏みつけた。


「うっ……」


 ユナは苦しそうな表情をしている。


「さて、そろそろいいかしら?」


「何をするつもりなの?」


「それはねぇ……」


 そう言うと、女は懐から短剣を取り出した。


「ちょっと、何する気!?」


「大丈夫……。死なないように手加減はしてあげるから……」


「やめて――!」


「嫌なら抵抗すれば?」


「くうぅ……」


 ユナは悔しそうに唇を噛んだ。


「そう……。それでいいのよ……」


 女は満足そうに微笑むと、ユナの首筋に刃を当てて浅く切り裂いた。


「キャ―――!!!」


 ユナは絶叫し、傷口から血が流れ出てくる。


「フフ……、綺麗ね……」


 首から流れ出る血を見て綺麗と言っている、この女の精神は如何なものか。


 そして女は狂気に満ちた目で見つめると、ユナを首ごと掴んで持ち上げる。


「かっ……かはっ……か……」


 ユナの意識は徐々に薄れていく。


「安心しなさい……。殺しはしないから……」


 そう言って、女は手に持っている短剣を舌で舐めると、今度は腹部に向けて突き刺そうとした。


 その時だった――。


 何処からか、妖気の塊が飛んできて、女の持っていた短剣に命中し弾き飛ばしたのだ。


 その衝撃により、女の手から解放されたユナは地面に倒れた。


「くっ……。誰だ!?」


 女は苛立ちながら叫ぶ。すると、空から一人の女が舞い降りてきた。それはマヤであった。


 その恰好はシャツとパンツスタイルであった。


「チィ……。王女が来たか……」


「よくも妹を……」


「ふん……。貴方には用はないわ……。そこの女さえ攫えばいいだけよ……」


「そんな事させると思う?」


「まあ、邪魔をするなら仕方がないわね……。相手になってやるわ……」


 女はそう言うと落とした短剣を拾い上げた。


「フン!」


 女は短剣を振ると、どのような原理なのか短剣の刃が長剣の長さまで伸びていた。


 そして、マヤに向かって攻撃を仕掛ける。


 対するマヤは素手で迎え撃つようだ。


 女の剣が無数に高速でマヤに向かってくる。


 それに対して、マヤは避けようとはせずに両腕でガードしようとする。


 次の瞬間、マヤの服に無数の切れ目が出来ていた。


「ほう……。私の攻撃を受け止めただと……」


 女は感心した様子を見せた。


「これくらいで私を倒すことは出来ないわ……」


「面白い……」


 女はニヤリと笑みを浮かべた。


 その後も二人の攻防は続いた。


 しかし、次第に女が優勢になる。マヤの攻撃は全て防がれてしまい、逆に女の攻撃は確実に命中している。


 シャツやパンツの方にも無数の切れ目が出来ていて、隙間から見える肌や太腿が艶めかしくて色っぽい。


 さらに、女は攻撃を続ける。マヤの身体中に切り傷が増えていき出血量も増していく。


 それでもマヤは一切怯むことなく果敢に攻め続ける。


 しかし、女も負けてはいない。


 彼女の攻撃は激しさを増していった。


 やがて、戦いの決着がついた。


 先に体力の限界を迎えたのはマヤであった。彼女は膝を付き肩で息をしていた。


 一方の女は余裕の表情を見せていた。


「もう終わり? 口ほどにもないね……」


 女がそう言い放った時だった。


 突然、女の背後からユナが現れて、女に蹴りを入れた。


「ぐっ……」


 不意打ちを食らった女はそのまま吹き飛ばされた。


「ユナ!?」


「お姉ちゃん……」


 2人はお互いの無事を確認し合った。


「チッ……。まだ動けたのか……。だが、これでトドメだ……」


 女は起き上がると再び襲いかかってきた。


「させないわ……」


 マヤは女の前に立ち塞がり、利き手の腕を凍り

付かせた。


 その為、女は剣を使えなくなっていた。


「くっ……。小賢しい真似を……」


 女は怒りの形相で睨んだ。


「ユナ! 今よ! やりなさい!」


「分かった……」


 ユナはそう答えると、女に向けて掌を向けた。


 すると、掌から強烈な妖気が放たれて女を襲った。


「グアァァァ――!!」


 女は絶叫しながら消し飛んでいった。

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