第32話 カイは何処に
俺は座りながらエンに尋ねた。
「それで……? 話というのはなんだ?」
「今日の朝、カイが母親に会いに行くと言って向こうの世界に行ってしまったの……。私は彼から詳しいことは聞いていないから妹である彼女なら何か知っているかもと思って……」
「なるほどな……。確かに、カイなら母親の居場所を知っていてもおかしくはないな……」
俺は納得した。
そこで俺はユナから聞いた向こうの世界の出来事をエンに語った。
魔界の一族との関係や不満分子や反体制派が反乱を起こしたこと、そこにカイの母親が絡んでいることについても……。
俺はエンにカイの母親のことを全て話し終えた。
その間、エンは一切口を挟まずに黙って聞いていた。
話を聞き終えると、エンは静かに口を開いた。
「そう……。カイは母親を説得しに行ったと思うの……。彼も向こうの世界の混乱や魔界の思惑を快く思っているとは思えないわ……」
「そうか……。でも、説得に応じるような相手なのか? 俺は彼の母親のことを何も知らない……」
俺は疑問を口にする。
「どうかしら……。でも、彼は一度決めたら曲げない性格だから、きっと説得に行ったんでしょうね……」
「そうだな……。あいつなら、やるだろうな……」
俺はエンの言葉に同意した。
「私としては、カイが無事に帰ってくるのを願うしかないのだけど非常に心配だわ……」
「カイも単身で向こうに行ったと云うことは色々な奴らを相手にすると云うことだからな……」
「ええ……。でも、私は信じているわ……」
「そうか……」
(彼女はカイの実力を信じている……。でも、相手がカイの母となると、どうなんだろうか……)
俺は、ふと思った。
「話は分かった……。俺も聞きたいことがあるんだが……」
俺はエンに聞いてみた。
「何かしら?」
「君はカイから力を与えられたんだよな?」
「ええ……。それがどうかしたのかしら?」
「その力は、力を与えた者に隷属していると言うことだが君はカイの奴隷みたいなものか?」
俺はエンの表情の変化を見逃さないよう注意深く観察しながら質問をする。
「まさか! 私はあの人とは対等の関係よ!」
エンは強い口調で否定する。どうやら、単なる主従関係ではないようだ。
「そうか……。じゃあ、もう1つだけ訊かせてくれ……」
「なにかしら……?」
「もし、カイが死んでしまったら君はどうする……?」
「そんなことあるはずがないわ……」
「どうして言い切れる……?」
「だって、あの人は負けないもの……。私は信じているわ」
エンは俺の目を見つめながらはっきりと答えた。
(彼女の瞳には嘘をついている様子は見られない。まるで、愛している人を信じているような感じだ……。ということは彼等は男女の関係でもあるのだろうか?)
俺は少し興味を持った。
「そうか……。変なことを聞いて悪かったな……」
「いいのよ……。気にしないで……」
エンは微笑みを浮かべて答える。
「カイの目的がわかったから良かったわ……。そろそろ帰るわね……」
「ああ……」
「じゃあ、またね……」
エンは立ち上がると玄関へと向かう。
そして、靴を履いて扉を開けると振り返り俺達を見た。
「ああ……。気をつけて帰れよ……」
「ええ……。それじゃあ……」
エンはそう言うと扉を閉めて帰って行った。
俺はエンを見送った後、リビングに戻った。
俺はユナの顔を見る。ユナは真剣な眼差しで見つめていた。
ユナの顔は緊張して強張っていた。
俺はユナの頭を撫でる。
「大丈夫だよ……。心配しなくてもカイは必ず無事に戻って来るさ……」
ユナの不安を取り除くように優しく語りかける。
「うん……。でも……」
「ユナ……。大丈夫だよ。エンが言ってた通り、カイは絶対に大丈夫だよ。だから、安心しろ……」
「うん……。ありがとう……」
ユナは少し落ち着いたのか微笑んだ。
しかし、まだ完全に安心した訳ではなさそうだった。
「よしっ! ユナ。一緒に風呂に入るぞ!」
俺は明るい声で言った。
「パパ!? いきなり何を言っているの? 恥ずかしいよ……」
ユナは顔を赤く染めて俯く。
「いいじゃないか? たまには親子水入らずで入ろうぜ……」
「う~ん。でも……」
「ほら? 早く行くぞ?」
俺は戸惑っているユナの手を引いて浴室へと向かった。
「ちょっと、待ってよ……。パパ……」
ユナが慌てて付いてくる。
俺は服を脱ぐと、浴槽に入った。
「ユナ。おいで……」
俺は手招きする。
ユナも服を脱ぎ無言のままゆっくりと近づいて来た。
「もっとこっちに来ないと入れないだろ……?」
「うぅ……。やっぱり、恥ずかしいなぁ……。それになんか変態みたいだよ……?」
「別に、ただ一緒に入っているだけだろ……?」
「それはそうなんだけどさ……」
「なんだ……。嫌なのか?」
「そういうわけじゃないけどさ……」
ユナはそう言うと、身体を隠すように胸元までお湯に浸かる。
「まあ、いいや……。とりあえず、背中を流してくれないか?」
俺は立ち上がり、スポンジをユナに手渡す。
「分かったよ……」
ユナは渋々、俺の背後へと移動する。
俺は椅子に座ると、ユナが背中を洗ってくれるのを待つ。
「どう? 気持ち良いい?」
「ああ……。最高だ……」
俺は心地良さに目を細める。
「はい。終わり……」
「え? もう洗い終わったのか? 早いな……。じゃあ、今度は俺がお前の身体を洗ってやるよ」
俺はスポンジを受け取る。
「ええっ……? 自分でやるからいいよ……」
ユナは拒否する。
「遠慮するなって……!」
俺は有無も言わせず石鹸のついたタオルでユナの小さな肩を掴む。
「きゃあっ……!?」
ユナは小さな悲鳴を上げる。
そして、そのまま強引に背中を擦った。
「ちょ、ちょっと! パパ!? 本当に止めてよ! お願いだから! ねえ! 聞いているの!」
ユナの声を無視して、俺は擦り続けた。
「どうだい?」
「もう! 凄くくすぐったいよ……」
「我慢してくれ……」
俺はそう言いながら、脇の下や腰回りなども念入りに洗っていく。
「ふふふふふふふふふふふふ」
ユナは必死に耐えている。
(意外とくすぐったがり屋さんなのかもしれないな……。可愛い奴め……)
「よし……。こんなもんかな?」
「うん……。ありがとう……。でも、次からは自分でちゃんとやるからね……」
ユナは振り返って俺を見ると、頬を膨らませながら抗議する。
「ああ……。そうするよ……」
俺は苦笑しながら答えた。
「じゃあ、そろそろ出ようか……。のぼせそうだ……」
「うん……」
俺は立ち上がって脱衣所に向かう。
その後から、ユナもついて来る。
「パパ……。あのね……」
「ん? どうかしたのか?」
「本当はパパと一緒にお風呂に入れることが嬉しいんだよ……」
「えっ? 」
「パパは私の本当のお父さんじゃないけど、血は繋がっていないけど、それでも私はパパのことが好きだよ……」
「ユナ……」
「私を娘として一緒に暮らしてくれる大切な人だから……」
「そうか……。俺もお前のことを愛しているよ……」
俺はユナの頭を撫でる。
「ありがと……」
ユナはとても嬉しそうに微笑んだ。
俺はユナの笑顔を見て、思わずドキッとする。
(この子はなんて綺麗な顔で笑うんだ……。まるで天使のようだな……)
その頃、カイは向こうの世界の母親が住んでいる館に向かっていた。
カイは森の中を走る。すると、目の前に大きな湖が現れた。
カイは湖の畔に立ち、水面を見つめていた。
水面にはカイの美しい顔が映っていた。
「自身の思惑通りにいくと思っているのか……? 母上よ……」
そう囁くと、カイは走り出した。
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