第20話 ユナの兄
インターホンが鳴り響く。
「誰なんだろう?」
美和は不思議そうに首を傾げる。
「分からない……」
俺と美和は玄関へ向かい扉を開ける。
すると、そこにはフード付のマントを被った男が立っていた。
身長は180cmはあるだろうか?
「どなたですか?」
俺は警戒しながら尋ねる。
「私は、君の義理の娘の兄です」
男は、そう言うと被っていたフードを外す。
そこには、とんでもない美貌の持ち主であり男の俺でさえ見惚れてしまった。
歳は20代半ばぐらいで髪の色は銀色、髪型はロングストレートである。
アジア人でも欧米人でもない顔付きをしていた。
美和もその顔に見惚れてしまっている。
「綺麗……」
美和が見惚れながら呟いている。
確かにユナ、マヤ、アイカも此の世の者ならぬ美貌をしているが、それらを上回る美しい顔をしていた。
「初めまして……。私の名は……この世界ではカイと言います」
男は自己紹介をする。
「俺は隆司といいます」
「貴方に頼みがあって来ました」
「何でしょうか?」
「私の妹、ユナを渡して欲しいのです……」
「どういう意味ですか?」
俺は疑問を投げかける。
「言葉通りの意味です。私の所へ連れ戻して欲しい……」
「なぜです?」
「妹は私にとって必要な存在だからですよ……」
「必要?」
「えぇ……。だから、どうかお願いします……」
「分かりました……。お断りさせていただきます……」
「理由を聞いてもよろしいかな?」
男は真剣な眼差しで問いかけてくる。
俺は一瞬躊躇ったが、意を決して答える事にした。
「彼女は、もう俺の家族だからです!」
「家族……?」
「はい! 彼女は大切な娘で俺にとってはかけがえのない存在になっています!」
「そうですか……」
「だから、彼女を渡す事はできません!」
「……では、今日は引き返すとしましょう……」
「ありがとうございます……」
「ただし……また来るかもしれませんよ?」
「また話し合うつもりです……」
「話し合いで解決できればいいですね……。それでは、失礼します……」
そういうと、男は去って行った。
「はぁ~」
俺は安堵のため息をつく。
「ねぇ……今の人は一体何だったの?」
美和は困惑しているようだ。
「ユナの異母兄だ……」
俺はアイカに教えてもらった事を思い出し正直に答えた。
「それより、家の中に戻ろうか?」
「うん……」
俺達は部屋に戻ると、美和はソファーに座っている。
俺は美和の隣に座った。
しばらく沈黙の時間が流れる。
先に口を開いたのは美和の方だった。
「隆司は本当にユナちゃんの良いお父さんなんだね」
「そんな事はないさ……」
「だって、あんなにもはっきりと言えるなんて凄いと思うよ」
「そうか……?」
「そうだよ!」
美和は少し興奮した様子で言う。
「まぁ……、その……、あれだ……」
「どうしたの?」
「ユナは俺の娘みたいなものだと思うからな……」
「そっか……」
美和は優しい微笑みを浮かべている。
(俺がもし結婚して子供がいたら、こんな感じだったんだろうか?)
俺はふと、そんな事を思った。
だが、同時に心の奥底で何かモヤッとした気持ちになっている自分に気付いた。
(どうして、こんな気持ちになるんだ?)
俺は自分の心に疑問を持つ。
(これはきっと、父親としての感情に違いない……)
俺は自分に言い聞かせるように納得した。
それから、暫くして俺は自分のアパートに帰って行った。
俺はアパートに帰るとユナが出迎えてくれた。
俺はユナを抱き上げると、頭を撫でてやる。
ユナは嬉しそうな表情を見せた。
「ただいま、ユナ」
「パパ、おかえりなさい♪」
「留守番してくれていたのか?」
「うん!」
「偉いな……」
「えへへっ……」
ユナは照れくさそうにしている。
俺はユナを下ろすと、一緒にリビングに向かった。
テーブルには、夕食の準備がされていた。
「ユナが作ったのか?」
「うん! 頑張ったんだよ……」
「そうか……。ありがとうな……」
「えへへ……」
ユナは褒められて嬉しかったようで笑顔を見せていた。
(こんな風に誰かと食卓を囲むのも良いものだな……)
俺はしみじみと思った――。
俺は食事を終える。
「御馳走様、とても美味しかったよ」
「良かった……。喜んでくれて嬉しいな……」
ユナは満面の笑みを見せる。
「ところで今日、美和の部屋でユナの兄と名乗る男が訪ねて来たんだが……」
「えっ!?」
「それで、ユナを渡してくれと言われた……」
「何で? どうして? お兄様が……」
ユナの瞳に驚きの表情が浮かぶ。
「大丈夫だよ。俺が絶対に守ってみせるから……」
「本当?」
「ああ……」
俺はユナを安心させるように力強く言った。
「ありがとう……。でも、どうしてお兄様が私を連れ戻そうとするんだろう……?」
「分からない……。でも、以前お前を捕えた男の首謀者じゃないのか?」
「多分そうだと思う……」
「だとしたら、また狙われる可能性があるな……」
「うん……」
「お前の兄貴は、どれぐらい強いのか?」
「とんでもなく強いよ。お父様と同じか、それ以上か……」
ユナの言葉を聞いて俺は愕然とする。
「それは、かなり厳しい戦いになりそうだな……」
「ごめんなさい……。私がこの世界に来てしまったせいで……」
ユナの表情に陰りが見られる。
「心配するな! 俺は諦めていないぞ! 必ず何とかして見せる!」
俺はユナを励ます。
「パパ……」
「ユナを守る為なら、どんな事でもするつもりだ!」
「うん!」
ユナは元気良く返事をした。
「さあ、風呂に入って寝るとしよう」
「じゃあ、一緒に入る?」
悪戯っぽく笑うユナ。
「一緒に入るわけないだろ?」
俺も冗談めいた口調で返した。
「ちぇ~」
「一人でゆっくり入りたいんだよ」
「分かったよ……」
俺は入浴すると、就寝する事にした。
俺はベッドに入ると、ユナが抱きついてきた。
「どうした?」
「怖いの……」
ユナは寂しそうな顔をしている。
「そうか……。今日は一緒にいてやろう……」
「ありがとう……」
俺はユナの頭を優しく撫でてやった。
ユナは俺の胸に顔を埋めている。
(俺がユナを守ってみせる!)
俺は改めて決意を固めたのだった――。
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