第19話 仮面の男
俺は呆然としていた。
何故なら、そこに立っていたのはユナだったからだ。
彼女は激怒しており、今にも飛びかかりそうな様子である。
俺は動揺しながらも、何とか口を開く。
「ユ……ユナなのか?」
「うん!……大丈夫? パパ?」
ユナは心配そうに見つめてきた。
「ああ……問題ない」
「良かった……。安心したよ」
ユナは嬉しそうにしている。
しかし、すぐに厳しい顔つきになると、倒れているエンに向き直る。
「何で、パパを襲うの!?」
「ふっ……。それは、この男を殺すことが命令だからよ……」
エンは、ゆっくりと立ち上がると落ち着いた口調で言う。
「どういう意味!?」
「私は主から与えられた使命を果たすだけ……」
「お前の主というのは誰なんだ?」
俺は疑問を口にすると、エンはこちらに視線を向けた。
「あなた達には関係のない話よ……」
「関係ないかどうかは、お前の主次第だな……」
「まあいいわ……。いずれ分かる事だしね……」
エンはそう言うと、窓を開け飛び出すように逃げた。
「待て!」
俺は追いかけようとしたが、身体の自由がきかない。
仕方なく、後を追うのを諦めざるしかなかった。
「くそっ……」
俺は歯噛みする。
「パパ! 私が治療するよ!」
ユナは駆け寄ると、俺の治療を始めた。
やがて、俺の身体の痺れが取れていく。
「ありがとう……。助かったよ」
「どういたしまして!」
「でも、どうして此処に居るんだ?」
「実は、こっそり付いてきたの……」
「なるほど……。そういう事だったのか……」
俺達は美和の寝室へ向かった。
「美和……。無事か?」
俺は、恐る恐る眠っている美和に声を掛ける。
返事は無い。
俺は不安になり、慌てて脈を確認する。
心臓の鼓動も感じる為、死んではいないようだ。
だが、一向に目を覚ます気配がない。
「パパ、美和さんは大丈夫なの?」
「あの女から薬を盛られているんだろう……」
「それじゃあ、早く解毒しないと危ないんじゃない?」
「あの女は、そのうち起きるだろうと言っていたぞ……」
「そっか……。とりあえず、一安心だね……」
「そうだな……」
俺はホッとする。
「ところで、あいつは何者なんだ? 向こうの異世界の人間から力を与えられたと言ってたが……」
「私もよく分からないけど、悪い奴なのは間違いなさそうだね……」
「確かにな……」
俺は同意するように呟く。
(それにしても、エンとかいう女は強かった……おそらく、只者では無いはずだ……)
俺は美和の部屋から出て行く時、鍵を掛けている状態にするため、俺が出てからユナが鍵を内側から掛けて外に出て行くように指示した。
そして、そのままアパートに帰って行った。
俺は一人で考える。
今までの人間の敵とは比べ物にならない強さであった。
これから先、あんな敵と戦う事になるかもしれないと思うと、憂鬱になる。
俺は頭を振って気持ちを切り替えると、明日に備えて寝る事にした。
その頃、エンは――。
「あなた様の命令通り、あの男の力を探ってきました……」
エンは仮面を被った男の前で説明していた。
「そうか……。それで、分かったのだな?」
「はい……」
「では、報告せよ……」
男は静かに告げる。
「あの男が持っている力は間違いなく、あなた様の父君からの力だと思われます……ただ、妹君の邪魔が入ってしまって……」
「ならば、仕方あるまい……」
「申し訳ございません……」
「よい。お前は良くやってくれた……。お前には嫌な役目を務めさせたな……すまない」
「いえ……。気にしないでください。これも、私の務めですので……」
「そうか……。では私の近くへ来てくれないか……」
「承知致しました……」
彼女は言われた通りに男に近づく。
男は仮面を取り去ると、この世の者とは思えない美貌の顔が現れた。歳は20代半ばぐらいだろうか。
「もっと近くに来てくれないか?」
「はい……」
彼女は言われるままに更に近づき、互いの吐息がかかる距離まで近づいた。
すると、突然彼女の唇は塞がれてしまう。
「んんっ……」
彼女は抵抗するが、甘美な感覚が全身を襲い身体の自由がきかない。
やがて、力が抜けていき床に崩れ落ちる。
「それで良い……。これからも私の為に働いてくれ……」
「は……はい……」
彼女は、虚ろな目で答える――。
翌日になり俺は目覚める。
昨日は色々あったため疲れていたが、いつまでも休んでいるわけにもいかない。
ベッドから起き上がると、いつものように支度をする。
朝食を食べた後、美和の部屋へ向かった。
インターホンを鳴らしドアを開けると、そこには美和の姿がある。
「おはよう……」
美和は元気のない声で挨拶をした。
「ああ……。おはよう……」
「それより、体調はどうだ?」
「まだ、頭がクラクラする感じかな……」
「そうか……」
「ねぇ……私、どうやら1日以上寝ていたみたいなの」
「そうみたいだな……。まぁ、無理もないさ……」
「なぜ、そんなに寝てたんだろ?」
「多分、精神的なショックや疲れもあったんだろうな……」
「そっか……」
「まあ、とにかく今日はゆっくり休むといい……」
「うん……。ありがとう……」
俺は部屋を出て行こうとすると、呼び止められる。
「待って!」
「何だ?」
「その……隆司にお願いしたい事があるんだけど……」
「言ってみてくれ……」
美和は少し言い淀む。
しかし意を決したように口を開いた。
「あの……しばらく一緒に居て欲しいの……」
「それは構わないが、どうしてなんだ?」
「……」
美和は何も答えない。
だが、心の中では葛藤しているようだ。
「もし良かったら理由を教えてくれるか?」
「実はね……、怖い夢を見たの」
「どんな内容の夢だったんだ?」
「あなたが暗殺者から殺されるという夢よ……」
「そうか……」
「だから、不安になってしまったの」
「なるほど……」
(美和は意外と怖がりなのか?)
「それで、いつまで一緒に居ればいいんだ?」
「私が安心するまでかな……」
「それなら問題無い。俺もお前が心配だしな……」
「本当!?」
「ああ……」
俺は笑顔で応えると、美和は嬉しそうな表情を見せた。
その後、美和と一緒に居る事になった俺は美和の部屋で過ごしている。
美和は俺に寄り添うようにして、テレビを見ていた。
俺は美和の肩を抱き寄せる。
最初は緊張していた様子だったが、次第に慣れてきたのかリラックスした表情を見せていた。
(こんな風に誰かと過ごすのも良いものだな……)
俺はふと、そんな事を考える。
だが、油断はできない。
何故ならば、この世界には向こうの異世界の人間が暗躍しており、いずれ再び美和が狙われる可能性があるからだ。
その為には、美和を守る必要があるだろう。
だが、今はまだその時ではない。
俺は平和な時間を満喫する事にした――。
だが、平穏な時間はそう長くは続かなかった――。
そこに突然インターホンが鳴る。
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