第17話 日常での出来事
次の日、大学の講義が終わるとすぐに教室を出た。
すると、校門の前で広川が待ち構えているのが見える。
こちらに気付いたらしく、ニヤッと笑みを浮かべた。
俺は無視して通り過ぎようとする。
「待ってくれよ! 神谷君!」
広川は、俺を呼び止めた。
「なんだ……?」
「昨日のお礼を言いたくて待っていたんだよ」
「そんな事は、わざわざ言われなくてもわかっている……」
「いや……。君の優しさには感謝しているんだ……。本当にありがとう……」
広川は深々と頭を下げて謝意を示す。
「そんな事はどうでもいいから、早く消えろよ……」
「酷いな……。せっかく人がお礼を言っているのに……」
広川が不満そうな顔をする。
「もう十分だろ? それに、お前とは二度と会いたくない……」
「まあまあ……。そう言わずに……」
広川が馴れ馴れしく肩を組んできた。
「触るな! 気持ちの悪い奴め……」
俺は振り払おうとするが、なかなか離れようとしない。
「そう邪険にしなくていいじゃないか……。同じ男同士仲良くしようぜ!」
「断る!」
その時、後ろから美和の声が聞こえた。
「あんた達、そんなに仲が良かったの!?」
振り返ると、不機嫌そうな顔で立っている。
「違うぞ……」
俺は否定するが、広川は嬉しそうにしている。
「おおっ!? これは、黒崎さんじゃないですか!?」
「なんだ……。知り合いなのか?」
「いや……。初めて話すよ」
俺が聞くと、あっさりと答えられた。
「ふーん……。そうなのか……」
「えっと……あなた達、どういう関係なの?」
美和が怪しげな目付きをして、質問してきた。
「ただの友達だよ。なぁ……?」
広川が同意を求めてくるが、はっきり拒絶しておく。
「違う……」
「そうなんですか? 僕は、そう思っているんだけどなぁ……」
広川がわざとらしく呟いた。
「なっ……!?」
俺は思わず絶句してしまう。
「へぇ~……。二人は随分と親密みたいね……。私なんかより、ずっと長い付き合いがあるように見えるわ……」
美和は不愉快そうな表情だ。
「誤解だって言ってるだろう?」
俺は必死になって弁明しようとする。
だが、全く聞き入れてもらえなかった。
「はいはい……。言い訳は後で聞くから……」
「だから、言い訳なんてしていない!」
「あのさ……。僕の話を少しは聞いてくれないかな?」
広川まで話に割り込んできた。
「ちょっと黙っていてくれる?」
美和に睨まれると、広川は大人しくなる。
「ごめんなさい……」
「ふん……。最初から素直になれば良いのよ……」
美和は勝ち誇ったように言う。
「くそっ……。なんなんだ……。こいつらは……」
俺は、うんざりしながら悪態をついた。
その後、三人でカフェに入ったのだが―――。
何故か、広川の奢りでコーヒーを飲む事になった。
俺はブラックのまま飲むが、広川は砂糖をドバドバと大量に投入している。
そして、それを美味しそうに飲んでいるのだ。
「なあ……。なんで、お前が奢るんだ?」
「気にするなよ! この前のお礼さ……」
「はあ……」
(こいつは何がしたいんだ?)
俺は呆れて溜息をつく。
「ねえ……。二人って、本当にどんな関係なの?」
美和が興味津々といった感じで、身を乗り出してくる。
「だから、何でもないって……」
「なんでもないなら、どうして一緒に居るわけ? 説明してもらえるかしら?」
「うぐっ……。それは……」
俺は言葉に詰まる。
「実は、神谷君に助けてもらったんだよ」
広川が代わりに答えた。
「へえ……。それで?」
美和は、まだ納得できない様子である。
「それだけだよ」
広川は平然と答えた。
「まあ……それならいいけど……」
「それより、僕からも質問しても良いかい?」
「なんだ……?」
「君達は付き合っているのか?」
広川はニヤニヤしている。
「違うぞ……」
「違うわ……」
俺と美和はほぼ同時に否定した。
「やっぱりね……。でも、黒崎さんの態度を見ると脈ありだと思うんだけどな……」
広川は小声で囁いてくる。
「何を言っているんだ?」
「別に……。独り言だよ」
「あんた、いい加減にしなさいよ! これ以上、変な事を言うつもりなら殴るわよ!」
美和は顔を真っ赤にして怒っていた。
「わかったよ……。もう何も言わないから、落ち着いてくれ……」
広川は苦笑いを浮かべている。
結局、広川と別れるまで美和の不機嫌さが治る事はなかった。
家に帰ると、ユナが玄関まで出迎えてくれた。
俺は部屋に戻るとベッドの上に寝転がる。
すると、ユナが声をかけてきた。
「パパ……。大丈夫?」
「ああ……。なんとかな……」
俺は力なく答える。
「何かあったの?」
「大学で、広川に会ったんだよ……。お前が記憶の操作をしたんでユナの記憶は無くなってたよ……」
俺は、今までの出来事を話した。
「そう……」
「しかし、あいつに馴れ馴れしくされてるんだ」
「あの人……。どこまで迷惑をかける気なの……」
ユナは腹立たしそうにしている。
「本当だぜ……。あいつには、振り回されてばかりだ……」
「許せないね……。私も一発くらいぶん殴りたいよ……」
「おい……。お前に殴られたら本当に死んでしまうぞ……」
俺は慌てて止める。
「そうだね……。流石に手を出すのはまずいね……」
ユナは残念そうだった。
「それにしても、美和の奴……。なんで、あんなに不機嫌なんだ?」
「多分だけど……。広川さんが嫌いなんじゃないの?」
「見た目は、いかにもオタクだからな……」
「まあ、確かに……。でも、意外と頼りになるかもしれないよ……」
「そんな事はないだろう? どう見ても付き合ったら駄目な奴だろ……」
俺は疑問を抱く。
「そういう人ほど、裏では凄かったりするのよ」
ユナは自信満々だ。
その時、スマホから着信音が鳴った。
俺は画面を確認する。
そこには『黒崎 美和』という文字が表示されていた。
「もしもし……」
電話に出ると、すぐに返事があった。
「あっ……。やっと繋がった! 今、どこに居るの?」
「家に帰って来たところだが……」
「そうなんだ……。あのね……。明日、会わない?」
「断る!」
俺は即答する。
「なんでよ!? せっかく誘ってあげてるのに!」
「俺は、お前と会うつもりはない……」
「また、そんな事を言って……。本当は会いたくて仕方がない癖に……」
美和はクスリと笑っている。
「俺は忙しいんだよ……」
「嘘ばっかり……。暇でしょうが……」
「とにかく、俺は行かないぞ」
「ふーん……。どうしても来たくないわけ?」
「当たり前だろうが……」
「じゃあ、良いものを見せてあげるよ……」
「良い物だと……?」
「うん……。きっと、見たくなると思うよ……」
美和は不敵な笑い声を漏らす。
「どういう意味だ?」
「内緒……。じゃあ、待ってるからね……」
それだけ言うと、美和は一方的に通話を切った。
俺は呆然としてしまう。
そして、嫌な予感がした――。
(一体、何を見せられるんだ?)
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