第16話 広川との対決
「パパ……どうしたの?」
ユナは怪しげな男を見るなり、険しい顔をする。
「あなた……誰なの?」
「おっと……これは失礼……。怪しい者じゃないですよ……」
「どこから見ても十分、怪しいよ!」
「いやいや……僕は只の友達さ……」
「本当なの?」
「もちろんさ……。それより、神谷君には用はないよ。君はどこかに行ってくれないかな?」
「ここは俺の家だ……」
「邪魔だからさ……」
「ふざけんな! 何の権利があって……」
俺は怒りの声を上げる。
「うるさいな……。邪魔なんだよ……。僕に逆らったら大変な事になるぞ……」
広川は脅してくる。
「どんな風に大変になるんだ……?」
「それは言えないな……」
「だったら、逆らう事もできないはずだな……」
「ふん……強がりを言っちゃって……」
「じゃあ、勝負するか……?」
すると、ユナが口を開く。
「ねぇねぇ、喧嘩はダメだよ!」
「喧嘩とは物騒だな……君には常識がないのか」
「えっ……?」
俺は呆気にとられる。この男は何を言っているのだ?
(こいつにだけは言われたくないと思うのだが……)
俺はムカつきながらも、冷静に話す。
しかし、彼はお構いなしだった。
さらに言葉を続ける。
どうやら、自分の都合の良いようにしか考えられないようだ。
「それに君は、こんな美少女と同棲してるなんて許せないよ……」
「いや……同居してるだけだ……」
「ふっ……まだ、そんな事を言ってるのか。僕は騙されないぞ……」
「何だと……?」
「いいかい……彼女は僕の恋人なんだからね……」
「違うぞ……」
「照れる事はないさ……」
「勝手に決めつけるな!」
広川の一方的な思い込みによる言動に腹が立った。
俺は怒鳴るが、全く聞いていない。
広川は自分の世界に浸っているようだった。
これ以上は、我慢の限界だった。
「お前は一体なんなんだよ!」
「ふっ……君こそなんだい? その態度は……僕に向かって無礼じゃないか?」
「お前が先に仕掛けてきたんだろ!」
「やれやれ……。これだから最近の若い奴は礼儀を知らないというか……」
「ああ……そうかよ……」
俺は呆れて声も出なかった。
どうやら普通の話し合いでは解決できそうもない。
(こうなったら仕方がない……)
俺は覚悟を決めると、アイコンタクトで合図する。
すると、ユナはコクリとうなずいた。
「彼女がお前を好きだと言ったら認めてやる!」
「はぁ? 彼女は僕を愛してるんだ必要ない……」
「気持ち悪いよ! 早くここから出て行って!!」
ユナが叫んだ。
「な……何を言うんだ……」
さすがにショックを受けたらしく絶句している。
「もういいだろ……さっさと帰れよ」
「くそぉ……覚えていろ!」
捨て台詞を残して去って行った。
「パパ、大丈夫!?」
心配そうな顔で俺を見つめている。
俺は苦笑しながら答えた。
「まあ、なんとかな……。でも、あいつがストーカーになったらどうしよう……」
「その時は、私が彼の記憶を改竄するよ」
ユナは笑顔を浮かべていた。
ユナが、そう言うなら人間の記憶を書き換える事が出来るのだろう。
だが、それでも俺の不安は尽きなかった。
広川が帰った後、ユナが話し掛けてきた。
「ねぇ……さっきの人って誰?」
「ああ……近所に住んでいる同級生だ……」
「へぇ~……」
ユナは何やら考え込んでいる様子だ。
「どうかしたのか?」
「ううん……。なんでもないよ……」
「そうか……」
しかし、明らかに様子がおかしい。
気になって問い詰める事にした。
「何か気になる事があるんじゃないのか?」
「うーん……。あの人の言った事が気になっていて……」
「なんて言われたんだ?」
「えっと……『彼女は僕の恋人』だって……」
「おいおい……まさか、本気で信じたわけじゃないよな?」
俺は冗談だと思いながら話していたが、ユナの表情は真剣だった。
「奴は妄想が酷すぎる……」
「確かにそうだね……。だけど……」
「どうした?」
「私……確かめたいの……」
「確かめる?」
「そう……。どうして、あんな事を言い出したのか……」
「それで、どうやって確認するつもりだ?」
「わからない……。でも、直接会えばわかる気がするんだ……」
「危険じゃないのか?」
「多分ね……」
「わかった……協力するよ……」
「ありがとう!」
ユナは嬉しそうな顔をしていた。
翌日、俺はユナと一緒に大学に向かった。
ユナには人目に付かないよう敷地内に待機してもらうことにした。
俺は、講義が終わるとすぐに教室を出た。
そして、校門の前で広川を待つ事にする。
(あいつは来るだろうか……?)
しばらくすると、遠くの方から足音が聞こえてきた。
そちらを見ると、見慣れた人物が歩いてくる所だった。
「あれ? 神谷君じゃないか……」
「ああ……昨日ぶりだな」
「こんな所で何をしてるんだい……?」
「いや……ちょっとな……」
俺は言葉を濁す。
「それより、お前に聞きたい事があるんだ」
「なんだい……? もしかして、彼女が僕を待っているのかい……?」
「ふざけるなよ!」
思わず怒鳴ってしまう。
「ふざけてないさ……。僕はいつだって本気だよ……」
相変わらず、意味不明な事ばかり言っている。
俺は広川を人気のない場所へと連れて行くと、単刀直入に質問をぶつけた。
すると、広川は不敵な笑みを浮かべると、とんでもない事を口走った。
「聞かなくてもいいよ……。彼女は僕のものだ!」
「どういうつもりなんだ?」
「決まってるじゃないか……。彼女は僕を愛しているんだから……」
「違うぞ……。お前の勘違いだ……」
「ふん……。強情な奴め……」
「もう! いい加減にして!!」
ユナが広川の言動に耐えきれなくなって姿を現した。
「なっ!?」
「私は、あなたの恋人なんかじゃないわ!! 迷惑だから、消えてよ!!!」
ユナは、はっきりと拒絶の意志を示した。
だが、広川は平然としている。
「そんなはずはない……。君は、僕を愛していないと言うのか……?」
「ええ……。全然好きじゃない!」
ユナの言葉を聞いて、広川はショックを受ける。
「嘘だ……。そんな事はありえない……」
どうやら完全に、自分の都合の良いようにしか考えられないようだ。
俺は呆れて言葉も出なかった。
「 あなたが勝手に思い込んでいるだけよ! 」
ユナが怒鳴った。すると、広川が反論する。
「いいか……よく聞け! 彼女の気持ちを無視して、強引に付きまとっているのは、君の方だろ!?」
「俺は、ちゃんとした理由がある上で、一緒にいるんだよ!」
俺が叫ぶと、ユナが頷く。
「そうよ……。それに私は、あなたの事が大嫌い!」
ユナが言い放つ。
その瞬間、広川の顔が怒りで真っ赤に染まる。
「このクソ女がぁ!!」
叫び声と共に、いきなり殴りかかってきた。
俺はユナを庇って、頬を殴られてしまう。
「痛っ……」
今の俺には大して痛くもないが、大袈裟に痛がってみる。
「パパ大丈夫!?」
「ああ……大丈夫だ」
心配そうな顔のユナに向かって笑顔を見せた。
「おいおい……暴力はいけないだろ?」
「うるさい! お前が悪いんだ……」
広川が逆上している。
「ふぅ……。仕方がない……。少し大人しくしてもらおうか……」
俺は、そう言うと広川に近付いて行く。
「なんだ……。暴力を振るう気か?」
俺は構わず距離を詰めると、首筋に手を当てた。
「ぐっ……」
そのまま力を込めて、気絶させる。
そして、倒れた身体を抱きかかえた。
「よし……これでOKだな……」
ユナを見ると、不安げな表情をしていた。
「ごめんね……。私のせいで……」
申し訳なさそうだ。
「気にしなくて良いよ。とりあえず、こいつの記憶を書き換えよう……」
「うん……」
ユナは素直に返事をする。
広川の記憶を改竄して、ストーカー行為を止めさせる事にした。
俺は、気絶した広川を担いで家に連れて帰った。
意識を取り戻した広川は、不思議そうに周囲を見回した。
「あれ……ここはどこだ……?」
「やっと目が覚めたか……」
俺は、ほっとして声を掛ける。
「あれ……神谷君?」
「そうだよ。お前の同級生の神谷だ……」
「どうして、ここに居るんだい……? 確か……僕は大学の構内に居たはずだけど……」
「ああ……。お前は倒れていたんだ……。それで、俺がここまで運んで来たというわけさ」
適当に話を合わせておく事にする。
「そっか……。それは悪い事をしてしまったな……」
「別に構わないさ……。それより、なんで倒れたか覚えているか?」
「わからない……。急に目の前が暗くなって……」
「なるほど……。そういう事なら、あまり深く考えない方が良いかもしれないな……」
「そうだね……。ところで……僕に何か用かい?」
「もう特にないよ」
俺は素っ気なく返事をした。
「じゃあ、帰らせてもらうよ……」
広川は立ち上がる。
「ああ……。気を付けて帰れよ……」
「ありがとう……。それでは……」
広川は帰って行った。
(さてと……。あいつは放っておいても問題ないだろう)
広川に対して、これ以上できる事は何もないので放置する事にする。
「パパ……。これからどうするの?」
ユナが聞いてくる。
「今日は疲れた……。ゆっくり休ませてくれ……」
「わかった……」
ユナが微笑む。
俺は部屋に戻るとベッドに入って眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます