第15話 同級生は不審人物

 その頃、アイカは繁華街を歩いていた。


(はぁ……全く、あの連中のせいで台無しよ……。しかも、下品で汚らわしい連中……。)


 彼女は不機嫌そうな顔で歩いている。


 すると、アイカの前に黒いスーツを着た細身の男が立っている事に気づいた。


 その男は笑みを浮かべている。


 アイカはその男に見覚えがあった。


 それは、向こうの世界で父に仕えていた男である。


 アイカはその男に話しかける。


「あら……。こんな所で会うなんて奇遇ね……」


「久しぶりです……○×△□○#様。まさか、こちらの世界にいるとは思いませんでした……」


「この世界ではアイカという名前よ……」


「そうですか……。では、積もる話もあるでしょうから、どこか落ち着けるところに行きませんか?」


「そうね……」


 アイカはしばらく考えた後、口を開く。


「じゃあ、貴方の勧める所に行くとしましょうか……」


「かしこまりました……」


 男は恭しく頭を下げた後、歩き始めた。


 アイカもそれについて行く。


 アイカは男に案内されて高級レストランに入った。


 店内に入ると、そこは個室になっている。


 男はウェイターを呼ぶと、メニューを指差しながら注文する。


 やがて、料理が次々と運ばれてきた。


 そして、食事をしながらアイカは男に聞いた。


 彼は父の部下であり、信頼のおける人物である。


 アイカは向こうの世界の現状をなるべく詳しく聞きたかったのだ。


 アイカの話を聞きながら男は時折、相槌を打っている。


 一通り話し終わると、アイカは質問をした。


「それで……向こうの世界の様子はどうなの?」


「そうですね……。大きな変化はないと思います。ただ、反体制派が反乱を起こした為、影響はあるようです」


「なるほどね……」


「アイカ様の方はどうなのでしょうか? 」


「ええ……。まあまあかしら……」


「そうですか……」


「貴方はどう思うの?」


「そうですね……。今の所、問題ないと思われます」


「そう……。なら、いいわ」


 アイカはワインを口に含むと、窓の外を見た。


 夜景は美しく輝いている。


「私からあなた様にお願いしたいことがあるのですが?」


 男が切り出す。


「何かしら?」


「向こうの世界に戻られて、あなたの兄が王位継承する為の派閥の仲間になって頂けませんか?」


「仲間?」


「はい……。我々と一緒に古臭い慣習を改革して欲しいのです……」


「貴方は父を裏切る行動を起こすのね……」


「はい……。それが向こうの世界の為になります」


 アイカは暫く考えると答える。


 彼女は自分の意見をはっきりと言う性格なのだ。


 しかし、彼女は自分が正しいと思う事しかしたくないという傲慢な性格でもある。


「そう……。わかったわ……。考えてみる……」


「ありがとうございます……」


 男は深々と頭を下げる。


「お礼を言うのはまだ早いわ……。まだ、決めるわけじゃないもの……」


「そうですね……」


「でも、一つ聞かせて……。もし断ったら?」


「残念ですが、我々と敵対することになります」


 男は淡々と答えた。


 アイカは溜息をつく。


「やっぱり、そういう事になるのね……」


「はい……」


「わかったわ……。これからは、あなた達と敵になるのね……」


 アイカはもう一度、外の夜景を眺めると立ち上がった。


「帰りましょう……。話は終わりよ……」


「わかりました……」


 アイカ達は店を出る。


「ねぇ……最後に教えてくれる? これまでの地位と栄光を捨て自身の危険を冒してまでする価値があるものなの?」


 アイカは男に問いかけた。


「あります……」


「そう……。私には理解できないわね……。じゃあ、さようなら……」


 アイカは振り返る事なく立ち去って行った。その後ろ姿を男は見送る。


(これで良い……。あの方には新しい世界に改革して貰わなくてはならない……。その為にも、邪魔者は排除しなければならないのだ……。)


 アイカが立ち去った後、男はニヤリと笑ったのであった。



 俺はアパートに戻ると、周辺に不審な男が目に映った。


 その男は、こちらをじっと見つめている。俺は警戒しながら近づいていく。すると、男が声をかけてきた。


「おい……君は神谷君だな……」


 その男の顔を見て俺は驚く。それは、俺の大学の同級生だったのだ。


 顔には見覚えはあるが喋った事はない。彼の外見は小太りで、いかにもオタクな風貌だった。


(何でこいつがここにいるんだ?)


 疑問に思いながらも答えずにいると、彼は続けて話しかけてくる。


「君は女の子と一緒に暮らしているのか?」


「……」


「沈黙は肯定とみなすぞ……」


 彼は脂ぎった顔で得意げに言う。


(こいつは何を言いたいんだ……?)


 訳がわからず黙っていると、彼はさらに続けた。


「ふっ……そうか……。羨ましい限りだよ……」


「だから、一体なんなんだ?」


「おっと……自己紹介がまだだったね。僕は広川裕太だ……」


「ああ……」


そういえば、そんな名前だった気がする。


「僕も最近、引っ越してきてね……。この辺を散策していたんだよ……」


「そうか……」


「それで、君の住んでいるアパートを見つけたというわけさ」


「なるほど……」


「ところで君の部屋から、とんでもなく可愛い女の子が出入りしているのを見かけたんだが……」


「えっ……」


 俺はギクッとする。


「あれは、いったい誰なのかなぁ~?」


「お前に関係ないだろ!」


「いやいや……関係あるかもしれないよ?」


「どういう意味だ?」


「実は、その子は僕の彼女なんじゃないかと思ってね……」


「は?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。


 どう考えてもあり得るはずがない。


 しかし、彼は自信満々である。


 どうすればいいのだろうか? 正直、関わりたくない。


 ここは、適当に誤魔化す事にした。


 俺の表情の変化を読み取ったらしく彼は続ける。


「まあ、隠しても無駄だけどね……。なぜなら、すでに証拠は掴んでいるからさ……」


 そう言ってスマホの画面を見せてきた。


 そこには、ユナが写っていた。


 しかも、明らかに盗撮された写真だ。


「これは……」


「そう……! 先日、ここで見かけて一目惚れしちゃってね……こっそり撮ったんだよ。」


「それで?」


「それで? だって? はははは……わかってるくせに……。君に警告に来たのさ」


「警告?」


「そうだよ……。彼女と一緒にうろうろしない方がいいよ……」


「どうしてだ?」


「どうしてもさ……。彼女が可哀想だろう……」


「なぜ、お前が決めるんだ!?」


「わかるよ……。彼女は僕を気に入ってるんだよ……」


「!!」


 俺は呆れてしまう。


 こいつは妄想狂でもあるらしい。


 しかし、このまま放っておくわけにもいかない。


 なんとかしないと……。


 だが、どうやって説得したら良いのだろうか? 迷っていると、彼が突然、腕を掴んできた。そして、強引に連れて行こうとする。


「おい……どこに連れて行くつもりだ?」


「決まっているだろ……。君の家だよ」


 そう言いながら歩き出した。


「ちょっと待て……。離せよ……」


 俺は抵抗するが振り払えない。


 その時、ドアの開く音が聞こえた。


 見ると、ユナが出てきた所だった。

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