第14話 妖女アイカ

 翌日。


 俺は、朝起きてアパートの部屋を出た。そして、そのまま大学に向かう。


 大学の構内を歩いていた俺は、偶然にも昨日、出会ったアイカに出会った。


 彼女は俺に気がつくと、「あら……こんにちは……。隆司君」と微笑んで挨拶してきた。


 俺も彼女に会えて嬉しい気持ちになり、自然と微笑む。


「おはよう……。アイカ」と俺も返した。


「何で、ここに居るんだ?」


「ちょっと、用があって、ここの大学に来てるのよ」


「そうか……」


「ちなみに、今から講義に出るのかしら?」


「そうだが……」


「そう……。ちなみに、ユナとは仲良くやってる?」と彼女が聞いてきた。


 俺は黙って、頷く。すると、アイカはクスッと笑う。


「そう……。良かったわね……」


「なあ、一つ聞いていいか?」


「何かしら……?」


「ユナの一族の敵とは、どんな奴らなんだ?」


「貴方は、それを知ってどうするつもりなの?」


「いや……単に興味があるだけだ……」


「ふーん……」と言ってアイカは腕を組んで考えている。


「まぁ……良いわ……。教えてあげる……。私達の一族を襲ってきたのは身内の手先よ……」


「えっ!?  どういう事だ?」


 俺は驚いて聞き返す。


 アイカは淡々と説明を始めた。


 彼女の一族を襲ってきたのは、彼女やユナの母とは違う異母兄だという。


 理由は、王位継承権を巡っての争いが原因らしい。


 ユナやアイカの父は、異世界人の有力氏族ではない女性との間に子供がいたのだ。


 その子供は王位を継承する権利はなかったのだが、子供の中で唯一の男子ということで家臣の中には王位を継承するべきだと主張する者もいた。


 そこで、長兄を王位に継がせたい家臣の一派が起こした混乱に乗じる形で反体制派が反乱を起こした。


 その結果、ユナが襲われたというわけだ。


「なるほどな……」


 俺は納得してうなずく。


「これで分かったかしら?」


「ああ……」


「因みに、私が貴方に言った事は内緒にしておいてね……」


「分かってるよ……」


「それじゃあ……私は行くわね……」


「ああ……。気をつけてな……」


「ええ……。またね……」


 アイカは手を振って去っていった。


 その後ろ姿を見ながら、(ユナには姉妹がいるんだな……)と改めて思うのだった。


 それから、大学の授業が終わり帰ろうとした時に、美和が話しかけてきた。


「ねえ……今日、家に行っても良い?」


 と彼女は上目遣いで言ってくる。


「良いけど……急にどうした?」


「久しぶりに隆司に会いたくなってさ~」


 彼女は笑顔で言う。


(そういえば、最近は全然連絡を取っていなかったな……。)と思いながら


「そうか……。じゃあ、来るか?」


「うん!」


 こうして、俺は美和と一緒に帰る事にした。


 帰り道、俺達は色々と話しながら歩いていると、突然、後ろから誰かに声をかけられた。


 振り向くとそこには、アイカの姿があった。


 彼女は俺達に気づくと微笑みながら近づいてくる。


 俺は思わず、身構えてしまう。


(また、厄介な事になったな……。)と思った。


 そして、アイカは俺の隣にいる美和の方を見る。


「あら……貴方は隆司君の彼女さん?」


 とアイカは美和に聞いた。


「……友達よ。貴方は誰なのかしら?」と美和は警戒した様子で答える。


「私は、アイカよ……。よろしくね……」


 アイカは自己紹介をした。


「ええ……。こちらこそ……」


「ところで、アイカ。どうしてここにいるんだ?」


「たまたま、この辺りを通りかかっただけよ……」


「そうか……」


「それで、貴方は何者なの?」


 美和は、アイカに質問をする。


「私は彼の友達よ……」


「そう……。とても美人ね……」


「それはどうも……」


 俺は二人の間に流れる不穏な空気を感じ取り、慌てて口を挟む。


「おい!  喧嘩するんじゃないぞ……」


 すると、二人は同時に俺の方をチラッと見た。


「あら……ごめんなさい……」


 とアイカは謝る。しかし、彼女は不機嫌そうな顔をしている。


 一方、美和も俺の方をジトッとした目で見つめている。


「別に喧嘩なんかしていないわ……。ねぇ……隆司?」


「ああ……。そうだ……。別に、お前ら二人が仲が悪いとかそんな事はない……」


 と俺は必死で弁明する。


 そして、2人の様子を見て(こいつら、絶対喧嘩するだろう……)と心の中で思った。


 すると、美和がアイカに聞く。


「ねえ……。アイカって言ったわよね……。貴女って本当に人間なの?」


「ええ……。違うわよ……何か問題でも?」


 アイカは不思議そうに答えた。


 俺は、その言葉を聞いて(やっぱりな……。美和の勘は只ものじゃないと思っていたよ……)と思うのであった。


「ユナちゃんと同じ世界の人間なの……?」


 美和は恐る恐るといった感じでアイカに聞いた。


「ええ……。そうよ……」


 アイカはあっさりと認める。


 美和は驚いた表情を浮かべた後、アイカを見つめる。


 その時、後ろからガラの悪い男達の声が聞こえた。


「おう!  綺麗な姉ちゃんじゃねえか!? 」


 振り返ると、そこには大柄な男が2人立っていた。


 アイカはその声を聞くなり、露骨に嫌な顔になる。


「何の用かしら? 」


 アイカは不機嫌そうに言う。


「いやいや、ちょっと俺達に付き合ってくれよ。こんな男より気持ち良くしてやるぜ!」


 下品に笑いながら男はアイカの腕を掴んだ。


 アイカは不敵な笑みを浮かべながら、その手を払いのける。


「悪いけど、貴方みたいな汚らしい人間は嫌いなの……」


 アイカは冷たい口調で言う。


「へぇ~……。随分と生意気だな……。痛めつけても良いんだぜ……」


 男達はニヤリと笑う。


 それを見た俺は、こいつらをどう痛めつけようか考えているとアイカが男達の胸に手を押し付けると途端に2人の男の顔面が蒼白になり身体を折り曲げ苦しみだした。


 男達は苦悶の表情で地面にのた打ち回る。


「一体どうしたんだ!!」


 俺はアイカに問いただした。


「何も……心臓を止めただけよ」


 と彼女は事も無げに答える。


「殺す気かよ……」と俺は呆気にとられた。


「まぁ……数分だけこの状態だけどね」と彼女はクスッと笑って付け加える。


「驚かすなよ……」


 俺は安堵のため息をつく。


「ふーん……。貴方って意外とお人好しなのね……」


「うるせえ……。こんな所で大の大人が2人死んだら警察沙汰になるからな」


 俺の言葉を聞いたアイカは可笑しそうに微笑んでいる。


「それにしても、相変わらず容赦がないな……」


「大丈夫……。普通の人間だから手加減しているわ……」


「本当かよ?」


「ええ……。嘘だと思うなら試してみる?」


 彼女は挑発的な視線で見つめてくる。


「遠慮しておくよ……」


 俺は首を横に振った後、地面でのたうち回っている男達を見る。


「とりあえず、ここから去るぞ……」


 俺は美和の手を掴むと走り出した。


 その後ろからはアイカがついてくる。


 俺達は人気のない路地裏まで来ると立ち止まった。


「ここまで来れば、もう良いだろう」


 俺は大きく溜息をついた。


「さっきの人達は一体何だったのかしら?」


 美和は不思議そうに聞いてきた。


「アイツらは多分、ヤクザだろうな……」


「そうなんだ……。どうして、あんな所にいたのかな?」


「わからない……。もしかして俺達を待ち伏せしてたのかも……」


「怖いね……」


「ああ……」


「ところで、アイカさんは凄く強いのね……」


「ああ……。アイカも向こうの異世界の人間だからな……」


「そうみたいね……」


 美和はアイカの方を見ると、彼女は微笑みながら俺の方を見ていて目が合った。


「おい……。何だよ?」


「別に……」


「何か言いたい事があるんじゃないか?」


 俺は彼女の目を見ながら問いかける。


「隆司君は優しいなと思っただけよ……」


「別に普通だろう……」


「ううん……。他の人はどうか知らないけど少なくとも私には優しかったわ……」


「そっか……」


 俺は照れ臭くなり顔を背けた。


「ねぇ……隆司君……。また、会える?」


「ああ……。きっと、会えるよ……」


「そう……。良かったわ……。その時は、一緒に話をしましょうね……」


「わかった……」


 アイカは嬉しそうに微笑む。


 俺はそんな彼女の様子を複雑な思いで見ていたのであった。


 そうして俺はアパートに帰って行った。

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